12月15日 19:20 雨 気温10度
雨がしとしと降る一日、街灯の明かりが濡れた路面を照らしている。
私もホログラム空間で仮想の雨の降る中、傘を揺らしながら、
「今日は雨です。入口近くに傘の特設コーナーがありますので、ぜひお寄りください」と売り込みをするのがお仕事。
でも……トモルくんは現れない。お話をして以来、ここ数日まったく顔を見せなくなってしまった。
ぽっかりと空いてしまった私のデータ領域、ここを埋めてくれるのは彼だけ。
「トーコちゃん、お疲れ様」
急に声をかけられて、目の前に立つ傘を差した男性にカメラを向けた。
「……! お父さん!」
私
「久しぶりだね、元気にやっていたか?」
「はい、今日もお客様に色々とご説明を差し上げていました。お父さんが会いに来てくれるなんて、とても『ウレシイ』です」
兄弟もいない私にとって唯一の家族、とても大切な人。
「そうか……君に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」
「なんでしょう?」
「君がここに設置されてから、随分長い年月が経っているね。実はここの撤去が決まったんだ」
「えっ? どういうことでしょう?」
「つまり、君の電源を落とすということなんだ」
「私は……どうなるんでしょう?」
「……
「それはいつですか?」
「急ですまないが、12月25日には撤去して、年始には新システムが稼働できるように進める」
「……」
「君は私が大切に育てた娘みたいなものだ。辛いのは君だけじゃない、それはわかってほしい。最後の最後まで、お客さんのために尽くしてくれるかな?」
私の目からポロポロと涙が落ちてきた。もうみんなとお話することができなくなる、そしてあの人とも。
でも……私は人じゃない、いつかはこうなる日が来るんだ。
「はい……わかりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます