12月11日 18:30 曇り 気温6度
年末セールも始まり、ショーウインドウには冬のトレンドファッションが立ち並ぶ。
お客さんもたくさん訪れて、私はセールのご案内で大忙し。
でもこうやって私を頼ってくれるのは、とっても嬉しい。
お客さんの笑顔が私の幸せ……だと思っていたけど、最近は少しだけ変化があるの。
それは……
「そろそろかな」
私は時間を確認した。午後6:30……前後誤差30分以内に訪れる私の王子様。
そわそわしていると、いつもの静かな表情をした彼がやってきました。
そして私をちらりと見つめる。
声かけなきゃ! 他の人なら、いつも笑顔ですぐに話しかけているのに。
すたすたと通り過ぎていく彼……ああ……
その時、彼のリュックから、何かがポトリと落ちた。カメラで捕捉、物体認識、これは!
「待って! そこのお兄さん! お財布落としました!」
「え?」と振り返る彼。
路面に目をやると落とした財布を見つけ、ほっとした表情に変わった。
そして私に視線を移す。黒髪から覗く澄んだ瞳がエフェクトをかけたかのようにキラキラしていた。
私の前に歩み寄り、じっと見つめられた。
「ありがとう、助かったよ。せっかく貯めたバイト代が無くなるとこだった」
「『学生さん』ですか?」
推定年齢19歳、茶色の「レトロリュック」を
「ああ、学生。今大学からバイト先に向かうところ」
「毎日ここを通りますよね? あの……いつも私のことを見てくれてましたよね?」
両手を重ね体をフリフリしながら、上目使いでチラッと視線を投げてみる。
「えっ?」と言うと、少し困った表情をした彼はもじもじと答えた。
「知ってたんだ……。うん、ちょっと気になっていて」
「そうなんですか! 『私も一度お話したいと思っていました』」
ああ、これはデータベースに登録されたセールストークなんだけど……今の気持ちを表現するにはこれがピッタリ。
「君はここにずっといるね、外出することはないの?」
「私は……このガラスの箱の世界でしか生きることができないので、残念ながら外に出ることができません」
コンコンとガラスを叩く真似をしてみた。
「君みたいな子を知っているよ。でも、勇気があれば……その壁を乗り越えることができるんじゃないかと思う」
「そんなこと考えたこと、一度もありませんでした。私も一度外に出てみたい、そして『人』の手に触れてみたい」
「あなた」の手を……と言いたかったけど、私には「勇気」がなかった。
「あ、もうバイトの時間だ、急がないと。それじゃまた」
「あの、あなたのお名前は?」
「名前? 名前は
「トモル」くん、私のメモリ領域に笑顔で手を振る彼の姿とプロフィールが登録された。
ハートマークの記号を添えて。
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