12月24日 19:35 雪 気温1度
急に気温も下がり、雪がふわふわと舞うクリスマスイブ。
イルミネーションの明かりが雪に反射して、七色のシャーベットが降り注ぐよう。
私もサンタクロースの衣装に着替えて、皆さんを明るくお迎えしています。
今日はお仕事最後の日。明日には撤去されるけど、たぶん誰も気づかず、いつものように幸せな毎日を過ごすのでしょう……
「あ、お姉ちゃん!」
「エリカちゃん、久しぶり」
この間迷子になった女の子だ、お母さんも一緒。
「今日は何しに来たのかな~?」
片手を軽く振って、ご挨拶。
「クリスマスプレゼントに、ワンピース買ってもらうの」
「エリカちゃんに『お似合い』のお洋服がいっぱいあるから、楽しんでいってね」
「うん、クリスマスなのに、お姉ちゃんはここにずっといるの?」
「お姉ちゃんはお仕事があるからね。それと……明日からいなくなっちゃうんだ。今日でお別れ」
「え? どこかに行っちゃうの?」
「んー遠いところに行くことになったんだ。もう会えなくなるね」
「えーつまんない、また戻ってくるの?」
「すごく遠いところだから、無理かな~。でもエリカちゃんの事は忘れないから……私の事も覚えていてね?」
「うん、わかった。お友達だもんね」
ガラス越しに私が手を当てると、エリカちゃんも手を重ねてくれた。
私と友達になってくれて、ありがとう。いつまでも幸せに。
さてと……いつまでも感傷に浸っていられない、今日のノルマを達成しないと。
「ケーキはいかがでしょうか? 地下1階に『特設コーナー』がございます」
「よう、姉ちゃん」
声の聞こえる方へカメラを向ける。赤い顔、左右に揺れる上半身。
酔っ払いのおじ様が声をかけてきました。嗅覚センサーが高濃度のアルコールを検出……
「ケーキ買ってやってもいいんだけど、何か芸やってみてよ。気に入ったら買ってやる」
「芸ですか? そうですね、私、歌うのが得意です。それでよろしければ?」
「ほう、歌ね。俺これでも昔はパンクロッカーだったんだよ。聴いてやろうじゃないか」
「わかりました、それでは……」
照明を暗く落とし、一灯のスポットライトを上から当てる。
両手を組み、目を閉じると、祈るように私は讃美歌を歌い始めた。
静かな夜、私は舞い降りる
豊かな者にも、貧しき者にも
等しく幸福をもたらすために
聖なる夜、私は旅立つ
大いなる母の元
父が
安らかな眠りと
皆にあらんことを
パチパチパチパチ――
いつの間にか、たくさんの人達が私を囲い、拍手を送ってくれていました。
「すごーい、うまーい!」
「ヒュー、クリスマスに最高!」
「姉ちゃん、やるじゃないか。柄にもなく、感動したよ。もう一曲お願いできるかな?」
「はい……喜んで」
私はみんなの笑顔に囲まれながら、暖かい最後の夜を過ごすことができました。
皆さん、ありがとうございました、そしてさようなら。
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