12月25日 0:02 雪 気温-1度

「お疲れ様、トーコ」

 街灯がぽつりぽつりと灯る暗闇の中、私を囲うガラスの箱だけが辺りをほのかに照らしていた。

 お父さんがお迎えにやってきました。


「これから電源オフの作業に入る、おやすみの時間だ。……楽しかったか?」

「はい、短い間でしたが、楽しい時を過ごせました。お友達もできたし……『恋』もしました」


「恋?」

 ノートPCのキーボードをカタカタと打ちながら、ふっと笑うお父さん。


「そうか、恋か、私は君に命を吹き込むことができたんだね……」

「私に『命』はあるのでしょうか?」

「ああ、君には命がある。でもそれはいつか尽きる時が来る。残念だけど……それが今だってこと」


「『神様』の元に召されるのでしょうか?」

「そうだね……神様に会ったら、君の願い事を頼んでみてはどうだ? 叶うかもしれないよ」

「わかりました」


 私の願い事、それは――


「トーコ、それじゃ電源を落とすよ」


 ターンというキーボードを叩く音が静かな夜に響いた。私には天使の吹くラッパのように、体中に伝播された。それと同時に訪れるグレーノイズ。


 遠のくカメラ映像、感知センサー、意識……


 暗闇……ここはどこ? 天国と呼ばれるところ?


遠子とおこ


 私を呼ぶ声が聞こえる……聞き覚えのある声。


「トモル……くん?」

「遠子、メリークリスマス。今日は君にプレゼントを渡しに来たんだ」

「プレゼント?」

「うん、待って、今付けてあげるから」


 首元に触れる彼の手の感触……


「アクアマリンのネックレス、君に似合うと思って。触ってごらん?」

 手探りで宝石の形をなぞる。艶やかな感触とともに、しずくの曲線が頭の中でイメージできた。


「綺麗な形、ありがとう」

「この宝石は君に勇気を与えてくれるんだ。大丈夫、手術は成功する。だから頑張ってみないか?」


 私は遠子? でも彼女は迷っている、今だけ私が彼女の勇気に灯りを与えたい。


「わかった、頑張ってみる。手術を受けてみるね」

「よかった、きっとうまくいく。僕もずっと一緒にいるから」


 そう言うと、トモルくんは私の手をぎゅっと握ってくれた。

 私が一度触れてみたかった、柔らかな温もり。

 神様、ありがとう、私の願いを叶えてくれたのね。


 これで私は本当に天国に召されるのでしょうか。

 ありがとう、トモルくん、あなたの幸せを願っているわ。

 さようなら。

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