12月1日 15:28 曇り 気温10度

「こんにちは、今日は何をお探しですか?」

「もう寒くなってきたからねえ、厚手のコートでも買おうかと思って」


 ちらちらとあられが漂う寒空の下、おばさまは白い息を吐きながら、私に呟いてくれた。

 推定年齢55歳、体重44Kg、ほっそりした整ったお顔の方、薄手のダッフルコートを着用。

 でも元気のない表情……


「何かありましたか?」

「え? そうねえ、うちの息子が結婚したいんで、婚約相手を紹介したいって言われたんだけど……」

「それはおめでとうございます! とてもいいことだと思いますけど?」

「……息子と二人暮らしなの。息子がいなくなったら、私一人になっちゃう」


「その女性は『同居』は、いやなんですか?」

「それは聞いてみないとわからないわ、でもたぶん嫌がると思う」


 また沈み込んだ表情を見せるおば様。この人の元気を取り戻すには、どうしたらいいかしら?


「それはよかったですね! 『晴れて自由の身』です。これでもう一度ご自分の『恋』を取り戻すことができますね!」

「え?」

「『お綺麗』なのに、もったいないです! 『気になる男性』とか、いらっしゃるでしょ?」

「あ、うん、会社の同僚の……。なんでわかるの?」


 えっとね、50代独身女性の50%以上が異性との恋愛を求めているという統計データがあるんです。


「今が転機です! ここはオシャレして『心機一転』しましょう。あなたにお似合いのオレンジコートが二階の『婦人服フロア』にありますよ」

 私はコートの写真を見せた。


「ちょっと若すぎないかしら? これ着る自信ないわ……」

「そんなことないですよ? 今から私が『マジック』をかけます、見ててください」


 私は魔法の杖を取り出すと、おば様の前でクルクルと回して振った。

 3Dカメラでおば様のボディをスキャン、立体モデルにコートのスキンをマッピング。


「それぇ!」


 たくさんの星がパアッと輝く演出をした後に、オレンジコートを着たおば様の姿をクルリと画面の中で回転させてみせた。


「あら! すごい! いい感じねぇ」

「お似合いでしょ?」

「そおねぇ、いいかもしれないわ。これにしてみようかしら」

「二階の『婦人服フロア』に在庫がありますので、ぜひ寄ってみてくださいね」

「うん、色々ありがとう。あの……あなたのお名前は?」


「私ですか? 私の名前は『トーコ』です。困った時はいつでも声をかけてくださいね?」

「トーコちゃん、それじゃまたね」


 おば様は元気を取り戻し、手を振りながら、デパートの入口に向かっていった。


 私はトーコ、

 立体ホログラムディスプレイのガラスの箱の中で、

 みんなの幸せをお手伝いするのが、

 私のお仕事

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