第5話
「ああ、またこの場所か……」
「『また』じゃなくて『まだ』でしょ? 寝ぼけないで! 私たちの武蔵野ツアーは、まだ始まったばかりよ!」
この会話も、もう何度繰り返したことか。10回まではカウントしていたが、それ以上は数えるのも嫌になった。
今日の夜、一日のツアーの終わり頃に意識を失って――おそらく死んでしまって――、この場所と時間に戻ってくる。俺はそんなループに陥っていた。
最初の数回は死亡回避を試みていた。しかし、今回みたいに道端で刺されたり、あるいはタクシーに轢かれたり、駅のホームから転落したり。死亡パターンも様々であり、いくら頑張っても「秋葉原で死ぬ」という事象に行き着くのだ。
ならば、秋葉原へ行かなければいいのではないか。
そんな考えから「もう帰ろう」と主張した時もあるけれど、
どうしても
その場合、もしかしたら俺の代わりに
「そろそろお昼だから、もう『始まったばかり』じゃないけど……。でも、この武蔵野ミュージアムがスタート地点だからね」
俺の事情も知らずに、
今では少し考え方を変えて、もう死亡回避は諦めて「このスタート地点に何かあるのではないか」と考えるようになっている。
武蔵野ミュージアムには不思議な魔力があり、俺たちはそれに取り憑かれたのではないだろうか。そんな解釈だ。
「さあ、めいっぱい武蔵野を楽しむわよ! 気分はエンドレスってくらいに!」
いつものように
まさにエンドレスのループだが、そちらが彼女の言う通りである以上、前者も同じかもしれない。俺たちが武蔵野をめいっぱい楽しむことこそ、ループからの脱出条件なのかもしれない。
そう考えて、俺は武蔵野ツアーを満喫しようと努力している。
(完)
武蔵野をめいっぱい楽しむツアー 烏川 ハル @haru_karasugawa
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