第12話
沙羅は元の浴衣姿に戻ると急いで竜樹の元に駆け戻り、ハアハアと息を切らしながら竜樹を見つめた。
「ごめん、こんな時だけど、どうしても言っておきたいことがあるの。私は竜樹のことが……大好き。私のか、彼氏になってくれませんか」
竜樹は想像もしていなかった言葉に唖然としていたが、しばらく考え込むと頭を掻いた。
「それは来年、俺が言おうと思っていた言葉なんだけどな」
「ええ、それどういうこと。告白?」
総隊長は驚きながら駆けつけると、二人を問い詰めた。
「
「なんでって言われてもねえ」
ちらりと竜樹に目をやる。
「ああ沙羅、これは親族総出の一大イベントなんだ。姉貴がその総指揮官」
「まさかお姉さんがいるなんて思わなかった。恥ずかしい……」
沙羅は頬を赤らめると、そっぽを向いた。
「まあ、その続きは後で二人で仲良くやって。よーし、花火大会を延長するか。竜樹、沙羅ちゃん、聖観橋で待っていてくれるかな? とっておきの奴、ぶっ放してあげるから」
「おーい」
声がするほうを振り向くと、竜樹の父親の走る姿が見えた。
「親父」
「いやあ、沙羅ちゃんが下駄忘れていったから持ってきてあげた。はい、沙羅ちゃん」
「ありがとう、おじさん」
「親父……いつもどうでもいい時に現れるな」
「いや、いい頃合いを見計らって来たつもりだけどな」
沙羅が下駄を履くと、竜樹は沙羅の浴衣の汚れを払い、お互いの手を握って歩き出した。
竜樹は笑いながら、沙羅に話しかけた。
「沙羅の意外な一面を見た」
「そう? 私からすれば、積年の恨みを晴らしたような気分でなんだか清々しい」
竜樹と沙羅が聖観橋に戻ると美優が二人に気づき、手を振った。
「あーおかえり! なになにどしたの沙羅、見事竜樹を奪い返してきたのか。やったねえ」
二人は苦笑いしつつも、いつの間にか手をつないでいたことを忘れていた。
「これからファイナルで大型花火が打ち上がるらしいよ、楽しみだね」
剣道部員達と共に、星々が輝く華の島の夜空を見上げた。
一筋の光が天空に舞い上がると、五色の輪を描く大きな牡丹花火が華の島を包み込んだ。
「かーぎやあ」
穢れのない少年少女達の元気な掛け声が、夏の夜にこだました。
龍華恋夜 NEURAL OVERLAP @NEURAL_OVERLAP
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