第11話

 沙羅は険しい表情になると、ぶつぶつと独り言を呟き始めた。

「いつも」

「沙羅……?」

「いつも、いつも」

 竜樹に抱かれた腕を振りほどき、すくりと立ち上がった。

「いつも、いつも、いつも!」


 沙羅は黒龍に向かって、ゆっくりと歩き始めた。

 異変に気づいた総隊長は龍装隊に急いで号令をかける。

「皆の衆、すべての龍鱗を天嬢様に授け、お護りしなさい!」

 神司達が手に持つ龍鱗を沙羅に放るとそれは沙羅の身を纏い、五色の鱗に覆われた防具と化した。


「竜樹が花火大会に行けないのも」

 近づく沙羅に黒龍は無数の黒鱗こくりんを放つが、赤い胴に触れると泡となってくうに散った。


「竜樹が無口で忙しそうにしているのも」

 黒龍の口から吐かれた炎は、青い籠手こてをつけた右腕の一振りに掻き消された。


「私の恋路を邪魔していたのも」

 黒龍が喰らわんと襲いかかろうとした時、沙羅は顔を上げて黒龍を睨みつけた。


「あなただったのねえ?」

 沙羅はかんざしを髪から引き抜くと思い切り腕を振りかざし、黒龍のこめかみに突き刺した。


「消えろ……!」

 

 かんざしの先から光が放たれると、黒龍の全身に稲妻が走り、その身は砕け散り炭の欠片かけらとなって岩場にばらばらと転がり落ちた。


 沙羅を纏っていた鱗が剥がれ出すと空中でひとつに重なり、五色龍をかたどった明かりを灯した。 

 その明かりはそのまま天高く舞い上がり、花火に彩られた煙の影に消えていった。

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