枯れた浪人が負わされた重荷、その正体とは——?

 浪人の身である赤井喜之助は、仕える主を得られぬまま力仕事で糊口を凌いでいた。が、ある日馴染みの口入れ屋から思わぬ話を持ちかけられる。剣の腕を生かしてご隠居の警護をしてほしい。気楽な仕事を聞いていたはずが、実際に雇い主である多古甚兵衛に付き添えば、なにやらきな臭い話が沸いて出て——喜之助は腕を振るうはめに陥るのだった。

 小さなきっかけが転がるにつれ、政治が絡んだ大きな事件へと膨れ上がっていく。この展開の妙には痺れるしかないのですが、それを支える描写の巧みさ、ここにこそ注目していただきたいです!

 説明を積むのでなく、何気ない文章の内に表される時代性。そしてそこで生きるキャラクターたちの、善悪ではなく立場の違いによって相対さなければならない必定と無情。これらによって織り成されるドラマはこの時代のその人々でなければ成り立たないものなのですよ。

 剣劇好きな方はもちろん、普段時代ものに触れておられない方もいっぱいにそのテイストを楽しめる江戸ならではの物語です!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)