きちんと読めるラノベっぽい作品ではあります

まず先にお詫びしておきます。
「オブラートに包まなくても良い」とのことだったのでかなり耳に痛い辛口な感想をぶつけております。どうか心と筆を折られませぬよう。
「どうすればより良い作品になるのか」という自分なりの改善案も併せてお伝えしておりますので、参考にしていただければ幸いです。

現時点で約5万文字強で21話まで続く作品を書き続けている点と、読めなくはない文章展開をしている点は評価できます。当たり前のようなことに感じますが、ひどい作品は本当に「この作者活字読み慣れてないな」というのが透けて見えますので。

その上でですが、いささかシナリオ展開や設定面にご都合主義感が強く、描写足らずだったり納得して感情移入させられる要素が薄いように感じました。少なくとも、自分にはまだ「強すぎる魔王様」が「既に強い僕を連れている」にも拘らず「わざわざ人間を蘇らせて僕にする」という理由に納得ができるだけの動機がないように見えます。またその逆も然りで、魔王を妄信するにしては主人公が軽すぎるように思えてなりません。自分を死から救った相手であれば、もっと恭しく接するか、あるいは逆に懐疑的な反応を示して読者が抱くであろう疑問をぶつけさせて納得ができるような回答を得られるようにしてみたほうがよいでしょう。
このように本来であればもっと時間をかけて歩み寄る事で関係性を構築していくべきであろう部分を省いてしまっているせいで、薄っぺらいのに大袈裟な印象を受けてしまいます。これは邪推になってしまうのですが、「楽をして都合の良い信頼関係をインスタントに構築したい」という作者の意図が感じられます。ここはサボらず、もっと時間と文字数を使うべきだと思います。

序章でのクライマックスで因縁のある宿敵ダリオとの戦闘がありますが、それまで丁寧にダリオの狡猾さを描けていた分あまりにあっさりと倒されてしまった事が非常に残念です。魔族と化したライアの強さを描きたいというのは理解できるのですが、陸軍の中でも曲がりなりにもそれなりの地位を持っていたダリオを三下の様に弱く描いてしまうと、途端に陸軍全体が弱くて胡散臭い組織になってしまいます。これは後に登場するキャラクターはもちろん、主人公であるライアの評価すら落としかねません。直接的な戦闘能力が低くとも、せめて何らかの策を巡らせ善戦してみせるぐらいの気概はあって良かったでしょう。
また、ご都合主義めいた理由で元軍人であるライア自身にトドメを刺す事を避けられたことにも違和感を感じます。ライア自身の功績も鑑みても、軍属であればこの場面は死亡確認も兼ねて二度致命攻撃を行うぐらいはやっていても不思議ではありません。ライアはそのことについて「苦しみながら死んでほしい」からと説明しましたが、それなら何故死体蹴り行為をしないのかが不可解になってしまいます。これならまだライア自身の最後の良心という甘さを前面に出した方が納得ができます。またこれも邪推なのですが、この結果から「主人公に直接的な父親殺しをさせたくない」という作者の甘さを感じ取ってしまいます。勿論「非情になれ」という訳ではありませんが、読者に余計な事を考えてもらいたくないのであれば「キャラクターとして自然な行い」を務めさせるようにした方がよいでしょう。

その後、魔力操作の精度を上げるためにグロリアと修業を行いますが、グロリアを強く描きすぎてしまっているために再びライアを蘇生させたことへの必要性について疑問符が上がってしまいます。下手すれば主人公であるライアが一番異物感が強く不要まであります。ライアでは手も足も出ない強さを持っているのになぜグロリアでは駄目なのか、理由付けがもっと欲しい所です。
更にその後遺産を守る魔獣と戦闘を行いますが、ボス格の魔獣の描写があっさりしすぎていて、脅威があまり伝わってきません。背丈はどのくらいなのか? 筋肉質なのか? 手足の長さはどうなのか? 見た目から推し量れる知性はどのくらいか? 異臭を放ってはいないか? 肌の質は金属的かゴム的かはたまた実体がなさそうなのか? にやりと笑っているような表情から覗く歯は鋭いのか不揃いなのか? と、少しくどいくらいに特徴を並べても良いと思います。入念な描写はザコっぽさを薄れさせますし、倒した際のカタルシスも大きなものになります。
遺産の魔物は結局ライアでは倒しきれなかったわけですが、その後に出張ってくるのがグロリアではなくアリシアというのは非常に大きな違和感を感じます。修行の際もそうでしたが、ライアより強いグロリアでは駄目な理由がない為です。グロリアが直接戦闘を行えない理由(例えば、グロリアが戦うとアリシアに何らかの悪影響が出てしまうなど)を具体的に納得できるよう説明しなければ、この違和感はどんどん大きくなっていきます。
同じことは1章クライマックスでのドラゴン退治にも言えます。実力者であるグロリアには相応の働きが求められます。きちんと目に見える形で戦わせてあげてください。出来ないのなら納得できる理由を提示させてください。

村での飲食シーンですが、「味が最高」であるのならば描写に力を入れましょう。日本が食に豊かでグルメな国な事もあって、食事のシーンというものはなかなか馬鹿にはできません。「ジブリは飯に力を入れている」、「おじさんが飯を食うだけのドラマがめちゃくちゃ続くシリーズになっている」と言えば説得力が出るでしょうか。
使用されている食材にしても「この時期が旬のナスやトマト、ピーマンなど」と季節感による特別性を表現したり、「この地域の名産品だと思われる川魚」と地域の特別性を出すのも良いでしょう。そしてそれらの集合傑作である料理も「野菜類を細かく刻んだ色鮮やかな野菜炒め」、「柔らかな湯気に美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる乳白色のスープ」、「焼き具合抜群で塩加減も絶妙な川魚の塩焼き」など、丁寧に紹介してみましょう。ストーリーに手抜き感を感じさせず、没入感を高める事ができる一つのテクニックですので、是非取り入れてみてください。

ラノベ特有の風潮なのかもしれませんが、全体的に作り込みが浅い割に大袈裟な、ハリボテのような印象を受けます。丁寧な描写と、読者を置いてけぼりにしない程度のテンポでの関係性構築を心掛ければ、より良い作品になるとは思います。
ご研鑽ください。

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