オカルトじみた伝承の裏には、妄執が積み上げた多くの血と歴史があって…。

 長野県の辺境にあるいわくつきの村を舞台にした、怪奇・伝奇物語。迫りくる“鬼”たちの手から逃れつつ、主人公とその相棒にあたるヒロインの女性が解き明かすのは、血に染まった歴史と人々の妄執。
 最初はただの噂話でしか無かった伝承に足を踏み入れた末、主人公たちは引き返せないところまで歩みを進めてしまう。小さな村の、長く続いた血塗られた歴史に終止符が打たれるとき、果たして主人公たちは日常へと戻ることができるのか──。

 占い師の少年を主人公に、一人称で進む物語。過不足なく描かれる描写とテンポよく進む展開は読みやすく、ストレスなく物語に没頭できます。

 そんな本作は最初、サバイバルホラーのような緊張感のもとに動き出します。迫りくる異形からの逃亡と、生き残りをかけた籠城。一人称らしい臨場感のある描写で描かれるサバイバルの様子はきちんと“お決まり”も守られていて、安心して読み進められます。
 また、主人公・ヒロインともに人外の力を有しており、時には格好良く迫りくる異形たちと戦う。その姿はファンタジー作品のような爽快感があって、ファンタジー作品に通ずる読みやすさもありました。

 しかし、緊張感のもと読み進めるうちに見えてくるのは古くから行なわれてきた村の因習と謎。人々が抱く妄執と因縁が作り上げてきた“歴史”。まさにそれこそが、何よりの見どころなのだと思います。

 村の背景はもちろんとして、主人公含めた人々が抱えている“過去”にとても惹かれた印象です。彼らが抱える過去、そしてそこから派生する“想い”。その1つ1つが読み進めるうちに厚みを増していき、村の歴史をただの過去に収めない。人に歴史あり、とも言うように、生きた人が歴史を紡いでいるのだと実感してしまいました。

 また、村への謎から始まった興味も少しずつ形を変えていって、例えば主人公とヒロインの出会い・関係性だったり、主人公自身の過去だったり…。次から次へと好奇心をくすぐられます。

 そうして、自然と湧いたキャラクターへの興味もあって「続きがっ!」と思わず次話を読んでしまう、そんな面白さもありました。
 主人公の過去がどのようなものだったのか。どうやって獣じみた力を得るに至ったのか。どのようにしてヒロインに救われ、恩を超えた依存に近い想いを抱くに至ったのか。途中登場する、カズマさんとの関係性も含めて、そこに期待してしまいます。
 ユカリさんも見逃せませんね。幕間に登場した同僚たちとももうひと悶着ある予感です。

 因縁、妄執、悲願…。人々の想いによって積み上げられた過去──歴史──を、確かな構成力と描写で持って読みやすく描いた作品。オカルト的な要素が多分に含まれるため、ホラー・オカルト好きな方には特にオススメしたいです。
 引き込まれ、ハラハラドキドキしながら村やキャラクターたちの謎と過去を追ってしまうこと請け合いですよ?

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