エピローグ
昼休みが十分ほど経過して、
クラス中の視線が二人に集まる。学校中の生徒達が、今日の一大マッチアップの勝敗に注目していたのだ。
だがもし美弥子に惨敗したなら、それを無神経に尋ねるのは憚られる。誰もが横目で気にしながらも聞き出せない空気の中、常世田綱一郎が一番槍を買って出た。
「ようお二人さん、お疲れー。で、どうだったよ鬼の生徒会長とのレスバは」
無遠慮な質問にごくりと生唾を呑みこむクラスメイト達。彼らの懸念は、
「――えぇ~? どうだったと思うぅ~?」
ニタァ……と隠し切れない喜びを顔いっぱいに表現する亜久里によって、一瞬で吹き飛んだ。
途端、クラス中の生徒が亜久里に殺到して質問攻めにした。
「ウソ、生徒会長に勝ったの!?」「どんなレスバがあったの!?」「愛の力? 愛の力なのね!?」
押し寄せるクラスメイト達を、「まあまあ皆落ち着いてってば」などと言いながら亜久里は物凄いドヤ顔でご満悦の様子だった。
その人垣を逸れ、丞が自分の席に座ると綱一郎も傍に寄ってきた。
「上手くいったみたいだな。よかったよかった!」
「皆のおかげだ。ほんと助かったよ、恩に着る。貝田さんもありがとう」
「ふぇっ!? ……あ、べつに……ども」
教室の隅で心配そうにしていた節子も、安堵したようすで胸を撫でおろしていた。
「とりあえず、亜久里と舞原瑠美の処分は厳重注意に留まった。チャンネルはしばらく様子見だが、夏休み前には休止を解除していいそうだ」
「おお、大金星だな。あの音姫美弥子相手によくそんな条件を通せたな。どんなこと話したんだ?」
「うーん……少し言いづらいな」
美弥子がプリンセス・ミャーだったことは、わざわざ言いふらす必要のないことだ。誰にだって知られたくない秘密くらいある。
放っておいてもあの場にいた誰かがポロッと漏らしてしまいそうな気もするが、丞の口から言うのは気が引けた。
「そっか。ま、それなら別に構わねえよ。それより飯食おうぜ飯。お前ら待っててまだ食ってねえんだよ」
気になる話題もあっさり受け流し、綱一郎はさっさと昼食の準備に取り掛かった。
こういう物事に固執しない綱一郎の性格は、相変わらず丞にとってありがたい存在だった。
「あ、待って丞! うちも一緒にお弁当食べる!」
人垣をかき分けて亜久里が駆け寄ってくる。
いそいそと弁当箱を取り出すと丞の前に広げた。
「ジャーン! 今日は丞のために、特性中華弁当作ってきちゃった! 食べて食べて!」
「おお、いいのかこんなにたくさん」
「もっちろん! 丞には今回マジでお世話になっちゃったし、そのお礼! ほらじゃんじゃん食べて! これが炒飯でしょ? こっちが唐揚げ。こっちが回鍋肉。――で、こっちが酢豚!」
「うわすげえ量。これ全部乾が作ったのか?」
「あったり前じゃん! はい丞~、好きなもの食べてね。ぜーんぶうちの愛情がたっぷり入ってるから――――丞?」
何かに気づいた亜久里が首を傾げる。
綱一郎もつられて丞の顔を確認すると、丞は顔を引きつらせながら亜久里が並べた料理……その内の一品を凝視していた。
「……酢豚に、パイナップル……?」
ピシッ、とクラスの空気が張り詰める。
あ、やばい、この空気は……とクラスメイトが何かを察する中、当の亜久里はそんなことに一切気づかず、楽しそうに笑っている。
「美味しいよねー酢豚に入れたパイナップル。うち酸っぱいの大好きだからめっちゃ入れんの。丞にも沢山食べてほしいから、缶詰二個分も入れちゃった。遠慮せずに食べてね丞!」
屈託のない笑みで酢豚の器を丞の方へ寄せる亜久里。
確かに大量のパイナップルが器にこれでもかと盛られ、もはやパイナップルの中に酢豚が入っているような状態だった。
「――おっと、そういえば用事があるんだった。お二人さん、あとはよろしく」
「うひひっ……録画録画……」
綱一郎が危険を察知し席から離れ、教室の隅で節子が嬉しそうにスマホを構えた。
クラスメイト達も数秒後に訪れるであろう暴風に備え、二人から距離を取って身近な椅子や机にしがみついて身体を固定させた。
この日、校内一のバカップルに、また一つ伝説が生まれた。
生徒会長、音姫美弥子を下し、名実ともに最強のタッグとして知られることとなった二人。
だがそんな二人は結局、タッグを組むどころか今日もまたどうでもいいことを大真面目に語り合う、どうしようもないレスバカップルなのであった。
第4章 間違ってるから論破したい 完
レスバカップル ~好きだから論破したい~ 橋本ツカサ @hashimoto_T
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