冨長 御堂「#拡散希望 その炎上、濡れ衣です」書評

つい先日、ネット炎上に関する小説を書いたのですが、たまたまAmazonで似たような題材を扱った小説を見つけて「げげげ」って思いながらDLしたのが本作との出会いでした。結果としてほぼカブってなかったんですけど(笑)。


それはそうとして、本作は特に面白かったので書評記事にしようかと思いました。


あらすじを簡単に説明します。


本作の主人公となる藍原あいはらひかるはハルモニアという会社でウェディングプランナーのお仕事をやっておりまして、読んでいる感じだとかなり仕事の出来る女性と思われます。


ウェディングプランナーは結婚式を開催するにあたっての手助けをする役割なのですが、会場の飾りつけやら招待状のデザイン、料理の内容を決めるなど、なかなか多種多様な決定を求められます。


優秀なひかるはバンバン仕事を決めていくのですが、ある日になって疫病神の美濃みのというダメ社員(男性)と組む事になります。


伝説レベルのポンコツ社員である美濃は、彼女のサポートを受けながらとある夫婦の結婚式を担当します。でも、このポンコツ具合がやたらリアルなんです(笑)。


とにかく段取りが悪い。やるべき事をやっておらず、やるべきでない事をやる。誰でも一度はこういう人を見た事があるのではないでしょうか。そこにいるだけで職場の温度感を上げてしまう人ですね。


話は逸れましたが、このポンコツ美濃のせいでとあるインフルエンサー夫婦の式で大惨事を起こします。あまりにひどいお式となった結果、夫婦は激怒。


全ては美濃の犯した段取りの悪さからくるものでしたが、あろう事か謝罪の際にすべての責任を藍原ひかるにひっかぶせました。重役もそれを知りながらスルーするという最悪な悪手を差しつつ……。


激怒した夫婦は「なすび」のハンドルネームでツイッター有名人の友人へ自分たちの書いた怒りの記事を拡散するよう依頼。藍原ひかるが悪いとしか聞いていないなすびは何千人ものフォロワーに向けて憎悪を煽り、ハルモニアとひかるを大炎上状態に追い込みました。


何も知らないひかるはある日突然ネットにいる正義マンたちから攻撃されて……という話です。


本作のすごいところはですね、いけ好かないインフルエンサーとの直接対決だけで終わらないところなんですよね。途中でバトルの相手が変わるというか。そこはネタバレになるから詳しくは触れませんけど(笑)。


本作で非常にうまく表現されているのが、炎上の発生する過程です。


炎上って別に悪意で作られるわけでなく、善意が間違った方向に進むとこういう炎上に姿を変えてしまうところがあります。


その過程の描き方が絶妙で、友人同士が助け合いでやったつもりがひどい誤爆になっていたり、ちょっとした怠慢や保身が悪い方に転んだり、さらにちょっとした承認願望もまざって人間な醜悪な部分が出てきたりと、見どころが多かったのが良かったですね。


読了後に小説家になろうで連載していた作品だったと知って驚いたのですが、作者の方の来歴を調べたところ編集者の方みたいです。読んでいる最中は「この人、結婚式関係の仕事をやっていた人なのかな?」と思っていたのですが、途中から弁護士関係で詳しい話が出てきたり訴状もガッツリ出てきたので「おいおいこの人何者よ」って思っていたのですが、編集のお仕事をしていると聞いて腑に落ちました。


ちょっと脱線しましたが、本作で特に関心したのは法的措置を取るところから裁判が一区切りするところまでちゃんと書いているところですね。知識が要るのはもちろんの事、私だったらめんどくさくなってキリのいいところでカットしたんじゃねえかと思います(笑)。


決して純粋なハッピーエンドではないと感じるのですけど、これはネット炎上という主題に対する一つの答えなのかなという思いも出てきました。オススメです。

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オッサンの書評 月狂 四郎 @lunaticshiro

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