今日も彼は窓口に。心を冷凍睡眠して、永久凍土(クレーマー)に対峙する

 過去に何度も書いていますが、(意図的か否かを問わず)冒頭に先入観を植え付け、最後の最後でその先入観がひっくり返る物語というものは総じて、好きなんですよね。
 いや、分かる。分かります。大いに納得です。なぜ紙と電子で両方……っと思わずメタい発言をしてしまいそうになりました。餅は餅屋とばかりに、窓口へお越しになるお客様。「お客様。私どもは餅屋ではございますが、もち米屋ではありません。杵を振り上げて餅をつかれるのはお客様ご自身でお願いいたします。合いの手は(水を差して、面を上に向ける)お手伝いはさせていただきますね」と思わず言いたくなるような窓口対応の大変さは、傍から見ていても、心中お察しいたします……。それこそ、書類の上下をひっくり返して、お客様に差し戻す動作は餅つきにも似て……はいませんが。
 いかに理不尽であろうと、真摯に(紳士に)対応しなければいけないのは、本当に見ていてつらいものがありますね……。
 適切な温度管理の元、行われる冷凍睡眠。何事にも、変化をもたらそうとすれば、逆風も逆流もするもので。それが冷凍睡眠ともなれば、とことん慎重になり国の決断が遅れたことを責めるのはいささか心苦しくもありますね。政府も二年の歳月をかけてようやく認可に踏み切ったわけで、その心までは冷凍睡眠されていなかったことをむしろ、言祝ぐべきではないでしょうか。
 ミキさんの配慮、痛み入ります……。自分は要らないといっても、除け者になるからとそっとお菓子と手を差し伸べてくれる優しさに心打たれずにはいられません。アイシングクッキーのように冷え切った心が溶かされていくようです。
(※本来のアイシングクッキーの意味とは違いますが、韻やニュアンス的な所ということで。
 誰だって昔は一からのスタートなんです。その位置に(一に)対して、十でものを言ってくる輩なんて……ねぇ。十把一からげに「どうぞ、お引き取りくださいませ」と言ってやりたくなるものです。ふん。
 当たり前の話ですが年を重ねるごとに、もっと細かく言えば、社会に出れば学生時代とは比較にならないほどの人間関係が構築されていきます。個々人によって差はあれど。自身が思っているほど、自分が抜けた穴というのは大きいもので。仕事ができるとかできないとか。そんなことは関係なく。あなたは、誰かにとって、誰かの大切な人であることに間違いはないのだから。ということを思えばこそ、冷凍催眠には慎重にならざるを得ず。
 一年という期間が短いのか長いのか。人によってその感覚はそれぞれと思いますが、後に出てくる例を思えば、「なるほど……そういう事情が……」と深く納得させられました。
 本当に、色々なお客様がいますからね……。お客様は神様です。……ん? 悪質なクレーマーに対応している身からすれば(私の経験を加味して考えるとすれば)お客様は何様ですか? と言いたくなるのも必然で。少なくとも、(自身を神様だと勘違いしているクレーマー相手にも)きちんと丁寧に接客・対応している側を攻撃していい理由にはならないはずですが……。だからこそのクレーマーなのでしょうが。クレームならぬ、(無糖の)生クリームでも投げ返してやりましょうか(
 タスケさん、偉い! って言うのも違いますが、本当に適材適所と言いますか。在世期間管理係に配属した上司の手腕は間違ってはいなかった。
 そうそう、戦士には休息(充電)も大事です。何もしない時間の尊さをもっと味わうべきだと、トウマさんにも力説してあげたいですね。
 冷凍睡眠を求める人々の理由は千差万別なれど、「未来を生きるために、今という時間を止める」という選択肢は、現代では中々想像しえないものですね。そして、それを実際に行う人々にとっては、価格にも、諸手続きの煩雑さにもその思いが勝るという……。現実的になる時が来れば、そんな考え方も一般的に浸透するのかなぁとぼんやりと思いながら読み進めておりました。
 終業後にそっとチョコレートを渡してくれたミキさん。その優しさで、温かさでチョコレートが溶けてしまいそうです……。なんて、その甘さに酔いしれていたら、渡された書類と衝撃の真実。
 待ち人と共に、「結婚」というスタートラインに立つために、その素敵な笑顔ごと時を止めて(あるいは時を進めて)その時を待つ。カチカチと刻む針がぴたりと重なるその時まで。
 そして、最後の最後に明かされるタスケさんの秘密。
 これは、一瞬だけ時が止まりましたね。「機械音声」「充電」というワードが随所に散りばめられていて伏線になっていたとは。
 どうやら私は、読み始めた直後から睡眠……はしていませんが、思考が冷凍されていたようです。それを考えると、締めの言葉を考えている今。ようやく思考が「解凍」され始めたのしかもしれません。いささかどころか、かなり遅い目覚めになりそうではありますが。
 

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