オチを見破る男
御角
オチを見破る男
「ああ、そういうオチね」
薄暗い室内でスナックをかじりながら、男はつまらなそうにテレビの画面を見つめている。放映されているのは、オムニバス形式の短い物語を詰め込んだドラマ。どんでん返しが多く、
手元のおつまみがなくなった頃、物語はやはり男の想像通りに移り変わり、そして予想通りの着地を見せる。ベタつく口内を洗い流すようにコーラを一気に飲み干し、男は気だるげにテレビの電源を切った。
この現象は、別にドラマに限ったことではない。映画は
「いろんなものを読み漁りすぎて楽しめなくなるってのも、困りものだよなぁ……」
男は、それこそスナック感覚で親の
「サトルちゃん? ご飯よー!」
階下から響く母の声に男はもぞもぞと起き上がり、寝巻きがわりのスウェットを身につけたまま、トーストの匂いを辿って食卓へと足を運んだ。
「母さん、仕事は?」
バターをたっぷり塗りつつそう尋ねると、母は「お前がそれを言うのか」とでも言いたげに一瞬だけ眉を
「なんか、レジからお金がなくなったらしくてね……。ほら、こういう時パートの立場って弱いでしょ? その時に運悪く私がレジ締めしてたものだから、もう疑われまくって困ってるのよ。おかげでシフトも減っちゃったし、そのうちクビになったりして……」
そう不安を煽りながら、チラチラと期待の眼差しを息子に向ける母であったが、当の男はというと、目の前の食事に夢中で全く意に介していない様子だった。
「ねえ、それって、誰がいつ気がついたわけ?」
「え? ええと、確か……店長だったかしら。最近来たばっかりの人で、レジ締めが終わった後に『再確認したら帳尻が合わない』って急に怒鳴り込んできたのよ」
「じゃあ、その人かもね。横領したの」
母は男の突拍子もない言葉に目を見開いて、しかしすぐに呆れたように首を振った。
「あのね、知りもしないのにそんなデタラメ、言うもんじゃありません!
嫌になっちゃうわよね、と捨て
そこからの行動は早かった。男はまず、この才能を活かして金儲けをしようと
「あなた、将来絶対成功しますよ。会社の社長とか向いてるんじゃないですか? そういう手相、出てます」
「なーんだ、現実ってフィクションと同じくらいチョロかったんだ」
あっという間に社会の頂点へと登りつめた男は一人、札束の扇でそよ風を吹かせながらタワーマンションの最上階で
しかし、そんな男の成功も長くは続かなかった。いつものように客の相談に乗り、占うフリをしてその未来を予想しようとするが、どうにも調子が悪く、まるで暗雲が立ち込めたように先が見えてこない。そいつのことは諦め、別の太客に照準を合わせるも、やはり同じような結果となってしまう。
見えるオチは、皆一様に暗く深い闇の中。男は突然のことに首を傾げるばかりだったが、株や賭け事に関しては何の問題もなかったため、「ただインチキ占い師から無職に戻るだけで、金の心配はないだろう」とたかを括っていた。
今考えれば、あの時こそが人生の分岐点だった。どうして、もっと早くに気がつくことが出来なかったのか。男は競馬場で、使う機会を失った札束を持て余しながら、ただひたすらに空を仰ぎ見る。
見えなかった。どの馬が勝つか、どの馬券を買うべきか、今の男には
携帯の画面には、急斜面となったチャートを覆い隠すように、ミサイルの雨を知らせる
もはや逃げ場など存在しない。そんなことは、
「……爆発オチなんて、最低ってやつ?」
散々物語の中で予想してきたはずの
どうせなら、夢オチだったらよかったのに。頭上に迫る衝撃波を全身で感じつつ、男はすがるように頬を軽くつねって笑った。
男はこの日、初めて自らの
オチを見破る男 御角 @3kad0
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