第11話
「「アンタの相手はこの私達よッ!」」
「グググ・・・」
豚王の意識はリディア達に向いた。豚王の赤い瞳に凝視され蛇に睨まれた蛙の様に硬直するが、自分自身を殴ることで恐怖心を痛みで上書きする
「アルテミス・・・・30秒くらい稼げる?」
「いいわよ。その代わりバカでかいの決めてよねッ!」
武器屋でかっぱらってきたメイスを構えて豚王に駆ける。その後ろではリディアが目を閉じて魔法の詠唱を始めた
「 古より継がれし高貴なる血よ 我の呼びかけに応え永き眠りから醒め給え 今、我が目の前に立塞がる愚者に裁きを与えよ」
魔力が高まったことによって引き起こされた突風が吹き抜け豚王の注意がアルテミスではなくリディアに向き掌を向けた
「”無詠唱”はさせないわよ!」
豚王の眼前にリディアを庇うように躍り出ると全力でメイスを振るい不可視の風の刃を弾き落とし、向けていた左手を殴打し破壊する
「 我、先駆との盟約に従い 汝を黒箱から解き放たん 汝、
「アンタは御呼びじゃないのよ!ふんッ」
メイスで逃げようとする豚王の頭部を殴打するし飛ぶように後退したその刹那、豚王を抑えつけた黒い柱が現れ魔力が爆発する。それと同時にリディアの持っていた杖の魔石も砕け散った
「【
黒い柱から異常なまでの負荷が産まれ豚王を一瞬で地面に平伏させるが、同時にリディアが地に倒れた・・・・アーサーを抱えたままアルテミスはリディアの下に向かう
「リディア、大丈夫!」
「う・・・うん」
膨大な処理を強要されたリディアの脳は常人であれば死亡するレベルに消耗している。近代魔術の詠唱には魔法の威力底上げ・魔術演算処理補助などが
「ブフーブフー」
「まだ、立てるの・・・・」
「あそこまで、ダメージ与えたのに何で立てるのよ」
全身から血を吹き出しながらも豚王は再び立ち上がった。傷口も塞がり大破した左手も完治し赤く光る瞳でアルテミス達を睨みながら歩み寄っていく。掌を向け魔力を高めていく”無詠唱”を使う前にする豚王の
「生まれ変わってあんたをぶっ殺してやるわ」
「他の人が倒してくれることを願うかな」
魔力が爆発し魔法が発動する・・・・・だが、突然ガラスが割れるような甲高い音鳴り響く。誰しもが何が起きたのか理解できなかった。地面には光り輝く幾何学模様が浮かび上がり、その術式はアルテミスの足元から展開されている
「間に合ったよかった・・・・【緩衝結界】 汝、属さず見えざる
詠唱と共に
「アー君回復したんだね!」
「違うよリディア・・・・俺は回復しきってない。立ててる理由はルネのお蔭だよ」
アーサーは上着のボタンを少し開け、中を見せるとアーサーのボディーラインに沿うように金色のスライムが張り付いていた。ズボンの裾からは金色の触手が伸びアーサーに魔力を供給している
「ブイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「汝、見えざる弓【 】」
豚王の棍棒を弾き飛ばし二撃目に入ろうとしたアーサーに悲劇が襲う
「汝、見えざる・・・ゴフッ!」
「アー君!」
「アーサー!」
アーサーはその場に両膝を着き咳込み血を吐き続ける。魔力はその者の力の源とされ他者からの魔力の譲渡は臓器移植と同義であり、相性が悪ければ当然の如く拒絶反応が起き対象者に莫大な負担がかかる。
例え相性が悪くなくとも肉体に限界が近ければ、限界値が下がり限界を超えた魔力は対象者の肉体を崩壊させる・・・・アーサーは後者であった。
『クッソ!魔力の相性は悪くないのに肉体の耐久力が限りなく0に近いんだ・・・・賭けには勝ったがそ運命には負けたか』
「リディア、アルテミス・・・・ケホッ・・・・ごめんな護り切れなくて」
「いいよ、アー君は頑張ったよ」
「そうね、それなりに頑張ったんじゃない?」
ぷるん!
「ルネも一緒に逝ってくれるのか・・・・ありがとうな」
三人と一匹は死を覚悟し目の前で振り下ろされた棍棒を見据え瞳を閉じた。だが、アーサー達に届いたのは風圧だけで衝撃が来ない事に疑問を感じ目を開くと、目の前にコバルトブルーの髪を持った女性が立っていた。
「【剣王】レア・レイヴン・・・・只今、原着。久しいな孫よ0歳以来か?」
「えっと・・・・」
「おっと、今まで顔合わせをしていないことは聞かないでおくれよ。立場が立場であるが為に中々、時間を空けることができなくてな。そして、久しぶりに作れた長期休暇を使って成長した孫の顔を顔を見に来たはいいものの・・・・買い出しで街に行ったときた」
「あ、あのぉ」
「道中でオークの大群に襲われてる民衆を助け、避難させ街に向かっていると街から少し外れたところでメイド発見。メイドから孫が戦っていると聞いて急いで向かえば、孫とその他が豚王に殺されそうになっていたから、救助に入った」
「ブイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
豚王は女性に向かって棍棒を振り下ろすが女性に触れることなく燻製チップの様に細かく刻まれていた。
「なんだ?私が孫としか話さないから怒ったのか?かまってちゃんめ」
「ブヒョ!?」
「そんな、お前には特別に遊んであげよう。子供たちは頼んだぞ」
「御意に」
女性の声と共に音もなく現れたメイド服の女性はアーサー達を一瞬で眠らせその場から消えた。その場には豚王と女性が残された
「少し遊んでやろうと思ったが気が変わった」
「ッ!!」
豚王が飛び退いた瞬間、頭部だけがその場に落ちた
「外的要因が作用したのかは知らんが随分と悍ましかったな。幾ら再生能力が高かろうと首を落としてしまえば、肉塊と変わらんよ」
レアは豚王の首を片手に肉体は引き摺ってアーサーの屋敷へと向かっていった。
*
「あいててて・・・・ここは俺の部屋か」
目が覚めると自室のベットの上にいた。律儀に毛布まで掛けてもらえるという親切さも見える・・・・そういえば俺は豚王と戦って死にかけてたっけ。生きて帰れたんだな
そんなことを考えていると自室の扉が開かれ扉を開けた主と視線が交差する。頬にガーゼを張られた黒髪に角が生えたリディアその人だ
「アー君」
「よっリディア」
「アー君!」
「ちょっ!いてってえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
俺にダイビングハグをかましたリディアの衝撃は傷口に鋭く激痛を走らせる。痛みを感じるということは夢ではないな。
「ごめんな。護れなくて」
リディアの顔を見たら謝らずにはいられなかった
「俺が弱いからリディア達が死地に出てくることになってしまった。俺はリディア達を護る側なのに護られる側になっていた・・・・不甲斐ない人間でごめんな」
「不甲斐ない?豚王と15分以上渡り合って、豚王の切り札を出させて、豚王に致命傷を与えた人間が不甲斐ない・・・・・本当にそんなこと思ってるの?」
「あぁ・・・・勝てなきゃ意味ないからな」
胸の中でリディアが跳ね頭頂部が顎に直撃し痛みが走る
「ッてえな!なにすんだよリディア!」
「本当に勝てなきゃ意味ないって思ってるの」
「当たり前だ!勝てなきゃ生き残れないだろ!現に俺達は負けて死にかけたッ!」
「別にいいじゃん生きてるんだからさ!じゃあ、なに!?アー君は物語の英雄みたいに格好よく死にたいの!?」
「ッ!それは・・・」
「名誉の死なんか要らないよ!遺される人のことを考えなよッ遺族が望むのは生きて帰って来てくれることなの!」
「・・・・」
「嫌だよ私!?アー君がドックタグで帰ってくるの!」
「俺だってそんな姿で帰ってきたくねぇよ!」
「じゃあ、そうならない様にしてよ!どんなに惨めでも、格好悪くても、臆病者と言われても私を遺さないでよ・・・・私を一人にしないでよ」
リディアが泣きながら抱き着いてきたその手は俺の胸を弱々しく叩き続ける。気付けば俺はリディアを抱きしめていた・・・・なんでかは分からない。でも、抱きしめなければリディアが消えてしまいそうだった、自分の手から離れていきそうで不安になった。
「ごめん・・・・二度と言わない」
「信用できない」
「ごめんな・・・・本当にごめん」
「そう言って同じことを繰り返すんでしょ」
「絶対にしない」
「ほんとうにぃ?」
「本当だよ。破ったらそうだな・・・・ミスリルナイフでも呑むよ」
「はぁ・・・分かった。そこまでしてくれるんだったら許すね。ハグして」
「分かったよ。リディアの気が済むまでハグするよ」
強く抱きしめるとリディアも強く抱きしめ返してきた。俺はリディアの為に生きて生きて生きて生き抜いてやる。リディアの笑顔を護る為だったら、リディアの笑顔を護る為だったら、惨めだと言われても後ろ指を指されても生き残ってリディアの下に帰ってくるんだ
「大好きだよアー君」
「あぁ、俺も大好きだよ」
「一人称”俺”にするんだね」
「”僕”の方がよかったか?」
「うんん、本当のアー君を見れて嬉しいかな」
「なんだよ”本当の”俺って」
「ん?ないしょ」
オタクが異世界転生したよって話!〜転生した世界でハーレムを築き、ついでに最強も目指します!〜 失敗した米麹 @SippaisitaKomekouzi
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