第10話 君のためなら何度でも・・・・
「無詠唱なんか卑怯じゃない!最初から使いなさいよ!」
「”切り札”はココゾトイウトキニツカウカラコソ”切り札”ナノだ。」
「チッ」
アルテミスが立ち上がった豚王に吠えるが至極当然の返しをされ舌打ちだけを返す。この絶体絶命の状況下でリディアだけは冷静さを失わない
「コムスメ、ソノコゾウヲ渡セ」
「渡したらアー君をどうするの」
「ワレノ驚異ニナリウルソンザイハ・・・・コノバデ排除スル」
「渡せば私たちはどうなるの」
「・・・・・コロシハセンヨ」
オークという魔物は異種間だろうが強制的に異性を孕ませる特性を持っており、魔物知識のあまりないリディアであっても凌辱される未来なのを否が応にも理解させられる。アルテミスはアーサーの応急処置で動けない今戦えるのは自分自身だけ・・・・
『私がサシで行くしか』
「アルテミス・・・・ここは」
「私が行く」
「なんで!」
「近接格闘なら私でも
「ダメだよ!アルテミスがいたほうが」
「リディアは私と違って【治癒魔法】使えるでしょ。私は魔法は一切使えないから・・・・戦うことしかできないから」
地面に置いてある千切れ長い長硝子棍になった三節棍を携えて豚王ににじり寄っていく
「イヌノコムスメよ。貴様にナニガできる」
「何もできないわ。でも、回復までの時間稼ぎはできる」
アルテミスが駆けだした
△
「アー君、お願い戻ってきて!彼の者に癒しの御手を差し伸べよ【
アーサーの体が暖かな魔力に包まれ徐々に回復するが意識は戻らない。街の奥では轟音と砂煙が立ち上がりつ続ける
「うぅ・・・・」
「アー君、速く起きてよ!アルテミスが死んじゃうッ!」
「は!?」
突然、アーサーが起き上がりリディアの顔をじっと見つめる
「アルテミスが死にそうって言ったか?」
「う、うん」
「アルテミスは豚王と戦っているのか?」
「うん」
「一人でか」
「うん」
「行かなくちゃ」
その場から立ち上がり音のするほうに向かおうと歩き出すが全身に激痛が走りその場に倒れこむ
「アー君!ムリしちゃだめだよ!」
「頼むリディア・・・・肩を貸してくれ。アルテミスを死なせたくない」
「・・・・わかった。私も友達を見捨てられないから」
リディアの肩に手を回し二人で歩いてゆく
「リディア、俺が合図したら抑えつけるやつ使ってくれ」
「わかった!」
「汝、属さぬ
アーサーは詠唱しながらアルテミスの下へ向かう
△
「ッ!」
豚王の大振りの攻撃が炸裂する。アルテミスはそれを体勢を一気に低くし避けると風の刃がアルテミスの胴体に向けて炸裂するが、風の刃をマチェットで弾き落とす。
「小娘、ミエテイルノカ?」
「さぁ、どうかしらね?」
実際はアルテミスは見えていない。だが、魔法が来る瞬間の殺気、空気が切り裂かれる微細な音、魔力の
「コレナラどうだ 汝、テンを焼クヒトフリの剣【
炎の刃がアルテミスを襲うが今まで通りマチェットで弾き落とすことに成功したが、マチェットが溶解し半分に千切れた
「マチェットが!」
『【
気を取られたアルテミスの腹に間髪入れず”無詠唱”の魔法が炸裂した。ゴムボールのように吹き飛ばされ背後にあった武器屋にダイナミック入店してしまう
「ケホッ!ケホッ!ここは武器屋・・・・ちょうどいいわね」
アルテミスは店内の武器をいくつか持ち出すと中腰になり店の奥へと向かった。
「小娘・・・・隠れてイルノカ。ソッチガソウクルノなら」
豚王は棍棒を振るい武器屋の壁を吹き飛ばすがそこには誰もおらず店のあちこちに体毛が置いてあるだけだった。
「臭いカクランか・・・・そして、フイウチカ」
「チッ」
振るわれた剣を掴んだが、頭部に蹴りが直撃する。アーサーの蹴りよりも尚強烈な蹴りを直撃しても豚王は涼しげな顔を浮かべ背後を振り返ると多種多様な武器を所持したアルテミスがいた。
「不意打ちくらい素直に食らいなさいよ」
「コトワル」
「あっそ!」
投げられたメイスを裏拳で弾くが目の前にはアルテミスがいなかった。だが、豚王は自身の背筋を走る電撃を感じ瞬間的に【
「カハッ!」
呻き声が聞こえた瞬間、豚王は後方にいるアルテミスの体を鷲掴みにする。手中では顔だけ出ているアルテミスが恨めしそうに豚王を睨みつけ暴言を吐き散らす
「キッタない手で握りしめるんじゃないわよ!放しなさい!」
「今スグニデもその首ヲヘシオッテやろう」
そう言うとアルテミスの頭に親指を置きゆっくりと指を折っていく。課せられる圧力にアルテミスが苦悶の表情を浮かべるが、苦悶の中には確かに笑顔が混じっている
「私を・・・・殺したって、アーサーが・・・うぐッ・・・・あんたを殺すから!」
「ヒンシノ餓鬼がか?理想論ナドナンノ根拠にもナラン」
「理想論じゃないわよ・・・・・事実よ」
豚王が更に力を込めて行く。普通の人間であれば命乞いをし泣き喚く場面だが・・・アルテミスは依然として嗤っていた。自分の命など要らぬと言いたげな燃える瞳・・・豚王は過去に殺したエルフの少年を思い出す。その少年も首をへし折られそうになろうとも嗤っていた
『僕を殺しても・・・・君を殺す人は必ず現れる!・・・・先に地獄で待っててやるよ』
その少年の姿がアルテミスと重なり豚王は果てしない憤りを感じ一気に力を込めようとした
「『ねじ切れろ』」
気付けば豚王の腕は地面に落ちアルテミスは声の主の方に駆け戻っていた。声の主は黒髪に角の生えた少女リディア・・・・腕が落とされたのもそうだが、豚王を驚愕させたのは
「お前の言った理想論は現実になりましたとさ・・・・ケケケッ」
「小僧・・・・」
豚王の視界にいたのは全身包帯まみれ、リディアの肩を借りなければ歩くことも困難な姿になったアーサー・レイヴンその人だ。薄気味悪い笑い声をあげながら光を失った瞳で見据えてくる・・・・
「・・・・ナゼダ。なぜココニイル」
「家族が戦ってるのに昼寝なんか出来るかよ。なぁ、リディア」
「うん、友達を痛めつけられるのを静観するほどくっさってはいないよ!ってことで『跪け』」
今まで以上の負荷が豚王に襲い掛かる。あまりの力に効果範囲内の地面は陥没し治っていない傷口からは血が噴き出し、足の血管がはち切れ血が皮膚を突き破る
「ぐおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「苦しいか?それは俺の分だ。我、求めるは根源たる力 全ての力の生みの親 今、此処に我の全てを賭け 仇を打ち取り給え!」
「こおおおぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!きぃさぁあまあああああああああああああ!」
豚王は街全体が揺れんばかりの咆哮を上げ立ち上がろうとするがアーサーは詠唱を終え豚王を睨んだ
「これはアルテミスとリディアの分だ 【 】 」
その瞬間、時が止まったようにすべてが静まり返った。倒壊する家屋の音も、吹き出る血の音も、空を駆け抜ける風の音も・・・・豚王が倒れる音さえも
*
全ての音が止み、そこにいたすべての者が息を呑んだ。そして、大爆音ともに地が引き裂け豚王の右半身が斬れ落ちていた
「バ、バカナ!身体強化ハホドコシテいたはず!」
「事象すらも断ち斬る・・・・我が家の相伝の魔法だ」
豚王は出血多量による激しい眩暈に襲われ地面に突っ伏した。それと同時にアーサーの全身の力が抜け落ち倒れたアーサーをリディアとアルテミスが支える
「・・・眩暈がするしメチャ怠い」
「リディア、速く逃げるわよ!アーサーは私が運ぶ」
「アルテミスもケガがすごいんじゃないの」
「少し強く握られただけよ。大丈夫」
アーサーをお姫様抱っこし二人はその場から離れていく。後方の豚王は朦朧とする意識の中で自身の横に立つ希薄な気配を感じ取った・・・・それは突如、豚王の脳内に語り掛けてきた
『起きろ』
『誰ダ』
『あの白いガキを殺せ。あいつは我の障害になりえる存在だ』
『我ニハ関係ナイコトだ。もう、イインダ』
『いいんだな?』
『ああ』
『死人に口なしってやつか?じゃあ、実験対象にしても問題ないか』
その瞬間、豚王の意識が完全に無くなりドロドロとした漆黒の魔力が渦巻き斬り落とされた腕が元通りに再生するが、力の奔流が暴走によるものなのか筋組織が膨張し上皮組織を破壊しいたるところから出血する。だが、壊れた組織は瞬時に再生し新たな肉体に順応してゆく
「キュおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
この世の物とは思えないほどの悍ましい咆哮が響き渡り、街から幾分か離れていたアルテミス達にも咆哮は嫌でも耳に入り街を見れば漆黒の魔力の柱が立っていた。
「何が起きてるのよ!」
「分からない!でも、もっと速く走らないと不味いことになるッ!」
アルテミス達は更に速度を上げようと踏み込んだ瞬間、アルテミスの全身の毛が逆立ち危険を感知する。
「リディア!前に全力で飛び退いて!」
「え、うん!」
飛び退いたその刹那、地面が爆発し二人は吹き飛ばされアルテミスはアーサーを離してしまい地面をバウンドする。背後を振り向くと皮膚が漆黒に染まり禍々しい魔力を帯び異形と化した豚王が棍棒を地面から引き抜いていた。赤みを帯びた瞳には理性の色はなく、その瞳が見据えるのは地面に転がったアーサーに向いていた
「コロス殺すコロス」
豚王はアーサーに向かって覚束ぶ足取りで向かっていく。その姿を見てリディアとアルテミスは軋む体に鞭を打って立ち上がる
「アルテミス立てる・・・・」
「愚問ね・・・・勿論よ」
大きく息を吸い叫んだ
「「アンタの相手はこの私達よッ!」」
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