第一話 差し込んだ光 ③


 竜森さんは、先程秋菜あきなさんと宿泊研修の話をしていた人だ。私も行きたいと伝えたら、どんな反応をされるだろう。


 心臓が痛いくらい大きく脈を打ち、手に汗が滲んで冷たくなった。どうやって声をかけようかと鈍い頭で考えていると、綾芽君が竜森さんらに声をかけてくれた。


「竜森、宿泊研修のことで相談なんだけど」


「何? って、あれ、高梨さんじゃない。保健室から戻ってたんだね。それで、どうしたの?」


 竜森さんは、私と綾芽君が一緒にいることに一瞬驚いたようだったが、その整った顔の表情は読み辛い。私の気のせいだったかもしれない。


 彼女は、じっと私の顔を見つめて、吐き出される言葉を待っている。せっかく綾芽君が作ってくれたチャンスだ。無下にすることはできない。


「私も・・・・・・研修に参加してもいいでしょうか。ご存知の通り、虚弱で・・・・・・だけど、なるべく迷惑はかけないようにします。がんばります」


「なにそれ」


 秋菜さんの反応に、何か不快感を与えてしまったかもしれないという懸念がよぎる。けれど、それはいらない心配だった。


「高梨さん気にしすぎー。研修への参加は自由なんだし、参加の可否をあたしたちが決めてるわけでもないんだからさー。いいじゃん、行こう行こう。学校行事でお泊まりなんて、きっと楽しいぞー」


 歌うような独特の喋り方で、秋菜さんは私の背中を押してくれた。あんなに尻込みしていたことが嘘のように、心が軽くなった。


「班分けどうする? 誰かと一緒になりたいとか要望があったら言ってよ」


 今度は竜森さんが口を開いた。


「う、私、友達いなくって・・・・・・」


「あはは、じゃあ私らと一緒の班でいい? 寝るときとかうるさいかもしんないけどさ。多少は許してよね」


「も、もちろんです!」


 みんなの優しさが嬉しかった。涙で視界が滲んだかと思うと、喉がつっかえたように痛くなる。涙が溢れないように、斜め上に顔を向けて目に力を入れた。


 綾芽君が言った通りだ。このクラスはなんて良い人たちばかりなんだろう。


「楽しそうで羨ましい。俺も同じ班にしてほしいなー」と綾芽君が言うと「男女別だからー、あんたは男と寝てなー」と秋菜さんが突っ込んでいた。


「秋菜、言い方がなんかやだ」


 綾芽君が笑うと、二人も声を上げて笑った。私もつられて静かに笑う。留まっていた涙が、目尻から頬を伝って流れ落ちた。


 このとき、君は気付いていたのかな。私は知らなかった。何も、知らなかったんだ。

 

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