第7話 味方か、もしくは敵か


「それで、なんの用ですか?」

「敬語とかいーから、ほら、清水には普通に話してるじゃんか」


俺は今、中庭のベンチで高橋洸太と共に弁当を食べていた。おいおい待て待て、なんで俺がこんな陽キャと一緒に食べなきゃならないんだ。周りを見渡せば、そこはイチャつくカップル共まみれ。そう、ここ中庭はリア充コーナー。ここに一人で来るのはもちろん、同性の友人と来るのも自殺行為に等しい。まあ、こいつは友人でもなんでもないけれど。しかし、そんなことにも一切気にしないのは陽キャ特有の感性によるものなのだろうな、きっと。清水真季も多分こういうのは気にせずズカズカと踏み入るだろう。

箸で掴んでいたおかずを頬張り、飲み込んでから、高橋は話し始めた。


「ほら、佐藤くんって最近清水と仲良いよね?」

「仲良いって訳ではないと思いますけど」

「ほーら、この時点でさ。俺には敬語使ってるし」

「それは…」


だからといって、高橋相手にタメ語で話せと?無理に決まってる。

無茶ぶりも大概にしろ。くそ、顔が良いとなんでも許されると思ってんのか。


「とにかく、要件はなんですか?俺に絡んでも何もいい事ありませんよ」

「いや、ただ気になっただけだよ。なんで佐藤くんと清水が仲良くなったのか。ついこないだまで全くそういう素振りなかったじゃん」

「俺にもわかりません。」


そんなこと、俺が聞きたいくらいだ。と言ってやりたいが、こんなことを言ってもなんの解決にも得にもならないから、黙って飲み込む。


「えー、そんなことないでしょ。ほら、何かないの?きっかけとか」

「ありません。どういう訳か、清水さんが俺に絡み始めただけです」

「ふーん」


自分の欲しい答えが得られなかったからか、俺の返事に少しつまらなさそうに相槌をうつ。やはりあれか。ちょっと前までボッチだったくせに、清水真季と関わってるのが気に食わないのだろうか。もしかすると、これは使えるかもしれない。


「高橋くん。俺からもちょっと相談というか、いいですか?」

「え、まあ、うん。いいけど」


高橋は俺からそんなことを言われるとは微塵も思っていなかったのか、動揺していた。なに、そんな大層なことじゃない。ただこいつには、俺が清水真季から解放される手伝いをして貰いたいだけだ。


「俺、本当は清水さんと話すの苦手で。困ってるっていうか、なんというか…」


あくまで俺は清水真季を悪く言うつもりはない。単に俺が一方的に苦手としていて、それを上手く言えない、と察してくれれば、出来る限り穏便に俺の平穏が取り戻せるはずだ。

俺のハッキリとものを言わない様子から何かしらを感じ取った高橋は、少し考える素振りをしてからこう言った。


「俺から清水に言っといてやるよ」


なんだその不安定極まりない内容は。こいつは一体何を言うつもりだ。まあ、何を言うにしろ、清水真季が俺から離れるきっかけを生み出してくれることには変わりない。はずだ。多分。


「あ、ありがとう」

「ああ。お、もう戻ねえと」


昼休憩の終わりまであと10分程度しか残っていなかった。俺たちは弁当を急いで食べてから、教室に戻った。

席について、次の授業の準備をしようとすると、隣から鋭い視線を感じた。


「ねえ」

「なに」

「高橋くんと何の話してたの?」

「清水さんには関係ないだろ」


ちぇ、けち、と言って彼女はそっぽを向いてしまった。あまりにも素っ気なくし過ぎただろうか、と反省しそうになった。危ない危ない。これでいいんだ。

午後の授業の始まりのチャイムと共に、食後による睡魔との戦いも始まった。

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