二人のアズマ
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二人のアズマ
「おーい、こっちこっち」
「待たせたな、ごめん」
「分かりづらかったでしょ? ここ」
雪美に詫びながら対面に腰を下ろした
「でも雪美が窓際の席にいてくれたから、すぐ分かったよ」
祐樹は、少し暮れ始めた空を映す、広々とした二階の窓から階下の歩道を見下ろしながら呟く。
「このお店なら学校にも離れてるし、お店に入ろうとする人は一目瞭然だからね」
「そこまでしなくても……電話やメールじゃダメだったのか?」
真面目顔の雪美に祐樹は苦笑する。
「ダメじゃないけど、なんかいろいろと切羽詰まった感じがして、いてもたってもいられなかったというか……」
雪美はぼそぼそと語尾を小さくしながらアイスティーのストローを咥える。
「まあ確かに、
水とおしぼりを運んできた初老のマスターにアイスコーヒーをオーダーした祐樹は、水を一口含んでから難しそうな声を出す。
「でしょおおお⁉ あの二人ってさ、一年の時から同じクラスだったんだけど、方やヤンキー、方やスケバン、いっつも睨み合っててさ、それが何よ、「あーん」とか!」
雪美はクラスの中では非常に大人しい部類に属している。
幼馴染の祐樹は、幼少の頃の快活な雪美も知ってはいるが、今の雪美を知る人の多くは、彼女がこのように興奮して声を荒げる姿を見たら驚くだろう。
だが、それほどまでに彼女が感じた衝撃は大きかった。
本日、県立赤川高校二年三組の昼食時に起こった出来事は、永遠の犬猿と呼ばれた男女が仲睦まじくお弁当を食べさせ合う光景であると共に、三十二人のクラスで、十四組目のカップル誕生を示していた。
「ともあれ、これで残りは四人か……」
祐樹は雪美を見ることなく呟く。
「周りのみんなの顔、見た? 残るはお前らだけだぞって顔。もう、みんなニヤニヤしてさ!」
「まあ、言いたいことは分かるけど、こういうのは予定調和っていうか、ノリに任せるもんじゃないだろ? 別に僕たちは僕たちで毅然としていればいい」
「でも、圧がすごいのよ……よっちゃんなんか『二人が一番最初にくっつくと思っていたんだけどなー』なんて肘をつついてくるし」
雪美は赤くなりながら親友の
祐樹は運ばれてきたコーヒーをストローで一口飲んでから言う。
「それで、これからどうしようかって相談?」
「まあ、うん」
「さっきも言ったけど、流れに乗らなくてもいいと思うぞ」
「それはまあ、確かに……」
「それとも、雪美は僕と付き合いたいの?」
「べっ、べつに、そういうこと言ってるわけじゃなくて、でも、残りツーペアでクラスの全員がカップルになるっていう無理やりな目標みたいなのも感じるし、それに最後の二人になっちゃったら、それこそ……」
「好き合っているわけでもないのに、なんとなく恋人認定されそうだ、と?」
「うん……」
雪美は俯きながら小さく答える。
「でもまあ、あっちの関係が変化するとは思えないんだよな」
「そうかなぁ、だってあの二人、誰よりもお似合いでしょ?」
祐樹と雪美は、二人のクラスメイトの男女を同時に思い浮かべる。
「そもそもさ、この異常事態にはあの二人が大いに関わっていると思わないか?」
祐樹はずっと考えていた疑念を持ち出す。
「え、どういうこと?」
「この状況を作り出したのが、
「二人のアズマ……」
二年生になった半年前の四月、男子十六名、女子十六名の中で、恋人同士と呼べる関係は一つも存在しなかった。
それは昨今、出生率の低下、未婚率の増加、恋愛感情の減少などと分析される社会の縮図を表したかのようなクラスだった。
それが、一組、また一組と、同じクラス内でポコポコとカップルが誕生し始め、二学期が始まる頃には十三組のペアが誕生していたのだ。
そして、その多くに関わっていたのが、安芸と吾妻の二人ではないかと祐樹は考えていた。
安芸 東と吾妻亜紀は、身長や髪型、体形といった性差を除くと、驚くほど似た二人だった。
双子だと説明されても驚かないほど似た容姿に加え、雰囲気、物腰、話し方、そして匂いのようなものまで酷似しているのだ。
しかも二人は二年の最初に、同じタイミングで編入してきた。
安芸は広島から、吾妻は福島から越してきたと言っていたが、同級生レベルではその言葉を立証する
もちろん実際に聞いてみた。
二人は双子なの? 生き別れの兄妹とかなんじゃ? 戸籍を調べてみたほうがいいよ? 親御さんも似ているの? などなど。
二人はどんな質問にも怒ったり嫌な顔をしたりせず、物静かに柔らかい笑みを湛えながら、クラスの興味や好奇心を満たしていった。
驚いたことに、二人はDNAの血縁鑑定もしたそうだ。
ご丁寧に鑑定書まで持ってきたのは初夏になる前のことだった。
皆の次の興味は、二人の男女関係に移る。
品行方正、成績優秀、身体能力抜群、誰にでも公平で、気遣いもできる、スペックが高い二人はそれだけで別格であるべきだという神格化めいた感情は、こいつらがソロでいたら自分たちが安心できないという不安の裏返しでもあった。
同時に、その稀有な果実を我が物にしたいと願う者もいた。
空気を読まない多くの人々が二人に交際を求めては玉砕する、そんな流れが続いた。
そのころから、二人に恋慕した男女がいつのまにか付き合うという事象が発生した。誰もが、失恋の傷を癒すため適当にだとか、自分の身の丈を理解したためだ、などと辛辣な感想を述べたが、当の本人たちはこの世の春と言わんばかりのバカップルっぷりを発揮する。
一組、また一組と不思議な連鎖は続いたのだった。
そして今日、絶対にありえないと言われていた二人が恋に堕ち、クラスの中で恋愛関係の枠組みに属さないのは、加瀬祐樹と上中雪美の幼馴染コンビと、安芸 東と吾妻亜紀、二人のアズマの合計四人になった。
「どう考えても、あの二人が無関係ってことはないだろ。雪美もそう思うからわざわざこんなところで密談しようって思ったんだろ?」
それぞれがこの半年を振り返り、続いていた沈黙を祐樹の声が壊しつつ会話を再起動させる。
祐樹の発言内容は、クラスメイトにもアズマたちにも聞かれたくないもので、雪美は図星を突かれハッとする。
「密談、そうかな? そうかも……ね、祐樹はさ、この状態が意図的に作られたとしたら、その理由はなんだと思う?」
「ざっくりと言えば、面倒だったんじゃないかな」
「面倒?」
「そ。編入が偶然だとして、結果としてハイスペックな男女がいきなり現れた。しかも人間的にも非の打ちどころがない。それぞれにアプローチする人たちも後を絶たなかったんだし」
祐樹はコーヒーで喉を潤し続ける。
「要はそれが嫌だった。そして同じ境遇の相手がいた。果たして利害は一致し二人は同盟を結んだ」
「同盟?」
「事実からの想像だけどね。結果、二人に言い寄った人たちは自然な形でマッチングされた」
「そんな面倒なことをするより、自分たちが交際したフリでもすればよかったんじゃないの?」
「それはそれで面倒だったんだろ? 現に付き合ってる人たちを見てみなよ。どこに行っただの、どんな写真を撮っただの、SNS上にも大量の思い出があふれてる。それを心の底から楽しんでいる人たちにはいいけど、フリでそこまでするのは面倒だった」
「でも不思議だよね。そんな境遇同士なら、自然に恋愛感情が生まれそうなのに」
「そうなんだよな。それに、ある段階からは、二人に関係ないところでもカップルは生まれ続けた」
「そのことなんだけど、二人に相談すると自分に合った人を紹介してもらえるって噂もあるよ。なんでもデータに基づいてとかなんとか」
「うん。僕もその話は聞いた。だから最初に言った通り、この異常事態に二人が大きく関わってるって思ったんだ」
二人のアズマはお互いの恋愛感情を否定している。
言い寄られるのが嫌だから周囲を恋人同士に変化させたとするなら、恋愛相手を求めない確たる理由があるのだろう。
「祐樹はなんのためだと思う?」
祐樹には一つの仮説があった。
そもそもこの密談も含め、こうなるように誘導されているのだとしたら悔しいと思いつつ、策に嵌る覚悟で話し出す。
「実験かな」
「実験? なんの?」
「最初は適当なマッチングだったんじゃないかな。でもそれを意図的にやってみたらうまくいった。最終的にクラス全員をペアにできるかどうか、って実験」
「……そんな、まさか」
「現にクラスのみんなの興味はそこに集中してる。雪美だって友達に煽られてるだろ?」
「で、でも、さっきも言った通り、それで私たちが無理やりに付き合うってのは違うと思うし」
そうなのだ。
この状況が二人のアズマが意図したゲームなら、最後に残った祐樹と雪美の交際がゴールと言える。
でも祐樹も雪美もその流れは納得できていない。
幼少のころから育ててきた、お互いへの恋愛感情は、それが自然に花開くまでじっと待っていたものだ。これで付き合い始めたら、それまでの想いとは別の力によって結びつけられた気がして、それがすごく嫌だった。
「まあ、しばらくは静観だな。僕らは僕らとして自然に振る舞おう」
祐樹はそう笑いながら伝票を掴む。
★
「やあ、偶然だね」
「こんにちは、二人とも」
祐樹と雪美が喫茶店を出て歩道を歩きだすと、親し気な口調で声をかけられた。
顔を確認するまでもない。二人のアズマがそこにいた。
「偶然、ねえ……」
祐樹は安芸 東に苦笑しながら言葉を返す。
「偶然だよ。でもさ、偶然ついでに、少し話でもしないかい?」
「上中さんも一緒に、ね」
吾妻亜紀も雪美に笑顔で誘う。
人間離れした美貌に雪美も引きつりながら、それでもその誘いは有無を言わせぬ力強さを感じた。
「二人ともそんな警戒しなくても大丈夫だよ。むしろ、君たちにとっては有益な機会になるはずだ。そんなに時間もかからないし」
東はそう言って歩き出す。
亜紀が東の左に寄り添い、同じ歩幅、同じリズムで歩く後ろを、祐樹と雪美は視線だけで頷き、付いていくために歩き出す。
二人のアズマは、商店街の一角にある小さな公園に入り、芝生の小山の上にある東屋のベンチに腰を下ろす。
それに合わせるように、夕闇が迫る中で街灯が灯る。
「まず最初に、俺たちはこれ以上、何かを意図して動くつもりはないよ」
並んで座った二人のアズマの片方、東がにこやかな声を出す。
「ということは、これまでなんらかの意図を持って動いていたって聞こえるんだけど?」
祐樹はやや挑戦的な口調で聞き返す。
「その通り。現在、二年三組の状況は俺たちが意図的に作り出したものだ。多少は偶然や自然発生的な関係もあるし、計画より数か月ほど早い目標達成ではあるけれど」
咎めるような質問にも動じず、笑みを湛えた東はなかなかに衝撃的な内容を語る。
「それって、クラス全員を恋人同士にするってこと?」
「
雪美の問いかけには亜紀が、こちらもにこやかな口調で答える。
「
祐樹は直球で聞くと、東は少しだけ視線を虚空に
「君たちのことは最初からどうでもいいんだ。俺たちは無駄なことはしない」
「どうでもいい?」
祐樹の眉が上がる。
「説明するよ。怒るのはそれからにしてくれ」
東は亜紀と視線を絡ませてから、口を開く。
「まず、このままではこの国は終わる」
美男美女が転校先の学校で遊び半分で人の心を
「は⁈」
二人して呆けた声を出していた。
「この国の出生率がどんどん低下しているのは知っているでしょ? 下支えをする若者が減ることがどんな末路を辿るか、学校でも学んでいるでしょ?」
祐樹と雪美は、亜紀の説明で、彼らが共通の話題を口にしていることを理解する。
「えっと、まさかとは思うけど、日本人の出生率向上のため、カップリングを行ったってこと?」
「その通り」
クラスの現状と二人のアズマの話から祐樹が質問を投げると、東が頷きながら即答する。
「え? なんで、二人はただの高校生なのに?」
雪美の疑問には祐樹が答える。
「ただの高校生じゃないんだろうさ。似通った容姿、ハイスペックな能力、同時に編入してきた違和感も全部仕組まれたものなんだろ」
「それって……」
ただ、その言葉の意味を雪美は測りかねる。どれだけ大きな力が働いているか想像できなかったからだ。
「加瀬くんは聡明だね。わずかな言葉から本質が見えるみたいだ」
「だからといってにわかには信じられない話だけどな。それに君らが何者なのか、どんなバックがいるのか想像もできない」
「俺たちが何者なのかという説明はしないし、これから話す内容も別に信じる必要はない。俺たちが本当のことを話しているなんて証明できない。それでも聞きたいかい?」
祐樹と雪美は頷き、東は少しだけ笑って続ける。
「君たちが、出生率向上のため結婚して子を作れって国のお偉いさんや学校の先生に言われて、はいそうですかって素直になれるかな?」
「それ以前に僕たち、まだ高校生だぜ?」
「でもね、出会いの場なんてこれからどんどん失われていくんだ。社会人にでもなったらそれこそ仕事三昧でそれどころじゃなくなるし、生活するという現実を直視することで、経済的、精神的にも結婚なんて考えられなくなる。衣食住は一人でも確保できるからね」
「昔はね、コンビニも深夜営業の外食チェーンもなくて、結婚相手に食を依存していた時代もあったのよ」
東の説明に亜紀が追従する。
阿吽の呼吸、説明すらも慣れているようだった。
「まあ、それだけじゃない。低賃金だとか、趣味を優先させたいとか、SNSなどで孤独は紛らわせられるとか、いろんな言い訳をして人は結婚から遠ざかった。それはつまり子孫を残すという行為の断絶だ。自分に連なる軌跡の終焉。数えきれないほどの系譜を断ち切ることにつながる」
「それはなんとなく理解してるし、このままじゃまずいって理解もある。それが君たちにどう結び付くんだ?」
「これは失敬。結婚しなさいなんて言われても簡単なことじゃないってことが前提にあるってことさ。でも、大人の言うことは聞けなくても、友達のアドバイスなら素直に聞けると思わないか?」
「それも、信頼に足る人物であればあるほど」
二人のアズマは揃って柔らかく笑う。その笑みに嘘や嫌な感じは覚えない。
「そうやって懐に入って信頼を得て、アドバイスするってわけか。君はあの子とお似合いだよって」
「今は無き『仲人システム』ってやつさ。それを俺たちが適切に行った」
祐樹の推理に東は頷いて答える。
「でも、そう簡単に好き合うことなんてできると思わないし、それに今から付き合っても結婚するまで続くか分からないよ」
雪美は彼らがまだ何かを隠していると感じながら指摘する。
「上中さん、長続きするカップルの条件ってなんだと思う?」
亜紀が雪美に優しく問う。
「……相性とか、好きって気持ちの大きさ」
「違うのよ。相性なんて必要ないの。大事なのは、きっかけと、続けたいと思う気持ち、そしてそれを維持することに集中することだけなの」
「妥協、惰性、打算なんて言ってしまうと身も蓋もないけどね、身近な人から選ぶなんてナンセンスと思うかい? 考えてもみてよ。世界にたくさんの人がいる中で、これまで出会えた人は奇跡みたいな確率なんだよ」
亜紀と東の説明に二人は黙る。
祐樹と雪美の家は隣同士で、同い年に生まれた。
時間と場所が合わなければ、会うことすらままならなかったかもしれない。
出会えなかったことを想像し、背筋が寒くなる。
「話を整理させてくれ、安芸と吾妻はうちのクラス全員を結びつけるのが目的だったのは分かった。その理由が出生率の向上ってのも。それは二人の意思なのか?」
祐樹が問うと、二人のアズマはお互いに目配せをして、東が答える。
「意思というか、俺たちの存在理由そのものなんだ」
「存在理由?」
「徹底したリサーチに基づき、信頼される友人像として最適な容姿と性格、表情から体臭まで、俺たちは完璧に作られた存在なのさ」
東の答えに、祐樹と雪美は無意識にベンチの上でそっとお互いの手を握った。
確かなものを感じていなければ足元が崩れるような不安感に囚われていた。それほど東の話す内容は突拍子もなく衝撃的だった。
「……そんな話を、なんで僕たちに?」
祐樹の声は緊張でかすかに震えたが、手のひらから伝わる雪美の体温が暖かく勇気が生まれた。
「そうそう、二人にはさよならを言いに来たんだ。他の話は全部おまけみたいなものさ」
「さよなら?」
「言っただろ? 目標は達成した。あのクラスでの俺たちの役目は終わったからお別れを言いに来たんだよ」
二人のアズマは同時に立ち上がる。
「どこに、行くの?」
動き出した二人に雪美が声をかける。
「素直になれない人や、意地っ張りの寂しがりやさんは、この国には他にもたくさんいるからね」
歩きながら振り返った吾妻亜紀が小さく手を振りながら言った。
「一度でも想いを繋げてやれば大丈夫。もっとも君らの場合、最初から必要なかったけどね」
安芸 東もそう言って背を向ける。
そのまま二人は並んで闇に消えて行った。
★
次の日、二人のアズマが揃って転校したと担任が告げた。
担任はどれだけの情報を得ていたのか分からなかったが、少しだけ訝しむような顔をしていたので、それほど多くの情報を持っていないのだろうと祐樹は思った。
「結局、あの二人は何者だったのかな?」
並んで歩く放課後の帰り道、雪美は祐樹に問いかける。
「雪美はどう思う?」
「うーん、ロボットか未来人か宇宙人?」
「突拍子もないな」
祐樹は苦笑で答える。
混乱していた二人も丸一日経つ頃には冷静な思考が戻っていた。
その上で出した雪美の答えは祐樹も考えた推論の一つだ。
「じゃあ祐樹はどう思うのよ」
「普通に考えれば、ただの転校生。たまたま似たような境遇の二人が出会い、わずかな期間を楽しく過ごすために計画して実行しただけなんじゃないか?」
「私たちに話した内容も、作り話?」
「さあ、どうだか。僕たちにはそれを証明する手段はないし、そもそも他人が語る言葉が本当かどうかなんて、誰にも分からないよ」
自分自身の心でさえ、年齢や経験で変化していく。
好きなものや嫌いなものだって変化していく。
この瞬間だけで、誰かへの想いが未来永劫変わらないなんて保証はなく、だからこそ彼らが言った、相性なんかどうでもいいという話は祐樹の心の中に深く残っていた。
「私は、祐樹の考えていることは分からないかもしれない。でも、分かろうとする気持ちや、その考えに合わせて自分を変えることはできるよ」
ふいにそんなことを言った雪美は、俯いて真っ赤な顔をしていた。
「奇遇だな。僕も同じことを考えていた」
生涯を共にする相手。
そんな相手に出会うのは必然なのだろうか。
そんなことは分からない。
でも、理想の相手を追い求めて一人で生き続けるより、これまで出会えた
出会い、向き合えるきっかけがあったのならば、それを維持することに集中する。
そうすれば変化する環境の中で、お互いの想いを支え合うことができるはずだ。
祐樹は雪美の手を握る。
そこにはずっと変わらない暖かさがあった。
この暖かさを求め続けること。
それは祐樹と雪美の心に、唯一不変の真理と根付いた。
『任務完了』
二人が聞いたそんな空耳は、二人のアズマの声色だった。
―― 了 ――
二人のアズマ K-enterprise @wanmoo
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