第11話 吸血鬼ども

 会社の定期健診で、献血を勧められた。断ると看護師がふんという顔をして一言いった。

「怖いの?」

 思わず立ち上がって叫びそうになってしまった。「それ献血に二十の害あり!」

 言いたいことは色々あるが止めておいた。私はヘタレである。


 献血にノルマを課せられているのであろうが、このようなセリフを吐いてよいものではない。

 なぜなら日本の血液業務はその重要性にも関わらず腐りきっているからである。

 血液の売値は1リットル二万円。無料の献血で血を集め、検査し、スクリーニングして供給するのにそれだけの費用がかかるためである。現在、これはかろうじて黒字になっている事業である。


 そこまではまだ良い。

 だが集めた血液の保存期間は一か月もない。これは国際標準の半分の期間である。つまり他国では二か月経つまでは保存血液を破棄しない。

 自己血輸血という方法がある。手術の前に自分の血を取って保存しておき、自分の手術のときに使う。この方式だと他人の血を使うより体にダメージがでない。この保存限界が二か月である。国際標準とピタリ一致する。

 ではなぜ、血液が常に不足している日本において、わずか一か月で血液を破棄してしまうのだろうか?


 それは破棄した血液が売れるからだ。元々破棄しているものなので表の帳簿には出てこない金である。この場合の売値もやはり1リットル二万円。

 その用途は精力剤の精製である。出来上がるのは特殊なホルモンを含んだもので、小瓶一本で一万円はする品だ。

 金持ちのチンポコを起てるために、善意で集められた血液が使われる。何という情けない構図なのだろう。

 現代の吸血鬼とはこういう所に生きている。


 一方、本物の吸血鬼も居る。東西を問わず存在する吸血鬼思想の連中であり、彼らは人間の血液を飲みたがる。それが永遠へと繋がる鍵だと考えているのだ。もっと大きな理由は吸血行為に興奮するからというのがある。一般の向きには理解できない嗜好だろうが、人間というものは夢の中で生きる生物なのだから、これもアリである。

 この場合の血液の闇の売値は1リットル五万円である。

 だが最近では血液を通じて感染する病気が多数広まっていて、しかも検査が難しいことが分かっている。そのため彼らは新しい手法を編み出した。

 吸血鬼サークルである。

 一匹の吸血鬼(役)を中心にして、人間(役)数人がグループを作り、血液を供給するのだ。全員が健康診断を受けており、厄介な病気に感染していないことが証明されていることは言うまでもない。

 この方式ならいつも新鮮で安全な血が手に入る。

 彼らのどこまでが遊びで、どこまでが本気なのかは分からない。

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彼誰(かはたれ)の群像 のいげる @noigel

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