第10話 霹靂4 退院
さほどの後遺症を残すことなく症状は収まった。血栓溶解剤のおかげである。
ベッド上絶対安静も解け、さっそくトイレに駆け込んだ。
この三日間便秘で助かった。私にはオムツを楽しむ趣味はないのだ。
体を自由に起こせるこの喜び。頭に溜まった血が下に降りて、すうっと頭が軽くなる。
食事を座って食べることのできる喜び。
すべて新しい発見である。自由とはそれほど尊い。
リハビリ室に連れて行かれ回復具合の検査を受ける。周囲の気づかいから一歩間違えば大変なことになっていたことが逆に分かる。
最悪なのは半身麻痺になること。残りの一生を介護を受けて生きるなんて嫌だ。それが骨身に染みた。今度から少しは自分の体に興味を持とう。
明日が退院となって夕食の後に歯を磨いていると、扉の横で看護婦さんが話をしているのが聞こえた。うん、壁には常に耳がある。
私の名前が出たので注意を惹いた。パーティ効果ってやつだ。
「明日までに風邪様症状が出るのかをチェック。もし出たら個室に戻して。それと患者さんにはこのこと言わないで」
ほほう。聞いてしまった。
内容からすると大部屋の中でコロナ陽性者が出たのではないか。すると私は濃厚接触者と云うことか。
冗談じゃない。これ以上入院が伸びて堪るか。そんなことになれば家で待っている猫が寂しさで死んでしまう。
まったくコロナのおかげで散々だ。
とはいえ打てる手段もないので大人しくする。
次の朝の検温は36度。
よっしゃあ。自由だ!
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