クワンシー様のお通りだ

帆多 丁

夜が明けるまで歌って踊れ

「うっはははは。すっごい躍動感。みんなもっと楽しそうにすればいいのに」

(死体に期待することかね?)

「あっはっ! それはそう。でも見てよ。見えてるだろうけど。無表情な集団がぴったり揃ってぴょんぴょん跳ねてるの面白くない?」

(…………ふっ)

「あーはー! リールーが笑ったー!」

(そなたは笑いすぎだよ)

「ひひひ。後ろからご遺体がぴょんぴょんついてくるの、なんだか面白くって」

(はしゃぐのも程々にせんと夜明けまでにバテてしまうぞ)

「はーいはい。ふもとの村までご遺体を届けるお仕事ですよ。立派なお仕着せあり。袖が余っちゃってるけどね」

(男物だからな)

「まぁ、これはこれで新鮮な気分。ぶらぶらぶらぶら、よっ、と、はっ、ほい」

(回るな回るな。ご遺体が動きに付いてきておらんぞ)

「うーん、もうちょっと単純な振り付けでないと難しいのか」

(どこでそのような振りを覚えたのだ)

「キャブレ・グリューでちょっと見たんだよ。飛んで、降りて、蹴って。踵を返す、返す、いち、に、さん。クワンシー様のお通りだ! 邪魔する者は道連れにするぞー。邪魔するモノの怪は喰らってやるぞー。化け猫の爪と牙、恐れぬならばかかってこーい!」

(煽るな煽るな。今はそなたも死者を進ませるので手一杯だろうに)

「あはは。まぁ、モノの怪も、活力あふれる場所には、近寄らないから。はい、はい、邪魔するものは道連れにするぞー!」

(体力勝負だが、効果はあるようだな)

「遺体にはモノの怪が入り込みやすいからね。だいぶ力技だけど、わたしが先にご遺体に干渉して、生きてるフリをさせれば、どうにか、ふう。よっ、そ、はい! ……出稼ぎの先で鉱山の毒気にあたっちゃうなんてね。お気の毒。そい、シテ! そっ、タク!」

(無償で人助けをするのは珍しいな)

「そりゃまあ、温泉帰りにたまたま居合わせただけだけどさ。故郷に返すお手伝いぐらいはやったっていいじゃない。別にタダじゃないしさ。お山の導師様も毒気に当たっちゃって、そのご遺体も届けるわけだし、心づけはしっかりいただくし、遠巻きに様子を窺ってるモノの怪連中もお仕事あがりにぺろっといただくよ」

(ご遺体でモノの怪を釣っているのか)

「人聞きがわるーい。それぞれに利益があるってことだよ。そーらクワンシー様が通るぞー! そこのモノの、道をあけろ! あけぬのならば道連れだ! 跳ねてみぎみぎ、縄くぐり、足蹴り上げて縄を飛べ。クワンシー様のお通りだ! ……リールーもやって」

(私の声はそなたにしか聞こえないだろうに)

「わたしのやる気があがる。クワンシー様のお通りだ! はい、リールー」

(じゅ、邪魔するものは、道連れに……誰にも聞こえないのかと思うと、いたたまれぬな)

「それ言う? わたしの声を聞いてるのもご遺体と竹林とモノの怪なんだけど? もっかい! クワンシー様のお通りだ!」

(じゃ、邪魔するならば、道連れにしてくれようぞ!)

「跳ねてみぎみぎ、縄くぐり、脚蹴り上げて縄を飛べ。クワンシー様のお通りだ! 邪魔するものは道連れにするぞ! 夜が明けるまで歌って踊れ、クワンシー様のお通りだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クワンシー様のお通りだ 帆多 丁 @T_Jota

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ