第22話 ついで
膨大な竜気の塊である一粒の雫は、重力に従い距離が離れていっても、竜眼によりしっかりと目で追うことができた。
落ちていく紅蓮の雫は、都市の防護結界を一切の抵抗なく
そのまま雫は、防護結界の下にある住居らしき建物を溶解させながら通り抜け、舗装されている地面に染み込んだことが術者の私に伝わってきた。
雫を追って地面へと視線を向けた私の竜眼に映るのは、変わりなき恐怖と混乱。人族という名の微弱な魔力の塊が逃げ惑っている。
——地面の奥深くへと染み込んだ雫が、条件を満たした事で凝縮されていたエネルギーを放出し、起爆する。
瞬間、爆音と共に結界が割れる音が聞こえ、衝撃波が空中に飛んでる私にまで伝わってきた——と同時に地表がめくり上がり、周囲一帯が吹き飛び、砂塵や赤熱した何かが空へ向けて噴出された。
都市を覆う結界よりも上に浮遊している私でさえ認識できるほどに地面が抉れ、その表面はドロドロに溶けていた。
つい先程まで存在した小都市の綺麗な街並みはほぼ消滅。周りにいた大抵の人族は【
三代目竜王が、万物の破壊をこよなく愛していたことは有名な話だ。
あえて地中から起爆するこの魔法は、三代目竜王が地上にいる生物の討伐ではなく、純粋な破壊に趣を置いていたことを再確認させる。
しかし——
「はあぁぁぁぁぁ」
頭と体が痛くて、思わずため息が出た。竜の力を使い終えて、混ざっていた二つの精神が急速に離れ始めてるのを感じる。
ザイテン王国の件が終わってから、精神の融合に対する抵抗がほぼなくなった。いい事なんだろうけど、頭が混乱して疲れる。
今の自分が、まだ竜王様と混ざってるのかいないのかも分かりにくくなってきた。
「竜王様、この魔法すごいですね。小都市だと過剰なくらいの威力ですよ」
『あぁ……本来の四割程度とはいえ、歴代竜王が編んだ魔法だからな』
…………いや、えッ? あれで本当に四割? 小さい都市がほぼ消し飛んだのに、本来の半分未満の威力しかないの?
「これも勇者戦では使えなかったんですか?」
『いや、あえて使わなかった。そもそも、三代目竜王が開発した魔法は破壊力に特化している
ため、少人数相手では使い物にならん。敵を倒す前に、この星に甚大な影響が出てしまう』
はぇーーー、威力が高すぎるってのも問題なんですね。
破壊力に特化してるってのは、わたしの真下を見ればよく分かる。沢山の人族はどちらかというと、都市の破壊に巻き込まれて倒されたって感じだ。
ついでによって人族は——
あれ? おかあさん、言ってたような。おかあさんとわたしは、お父さんのついでだって。
——同じ?
簡単に倒せる。都市も、日常も、強い力を使えば、軽い気持ちで、一瞬で……ん?
——これも、同じ?
わたしは、何を? おかあさんは、こんな事を、わたしに?
『アムネ』
「……ん? は、はいッ! どうしました、竜王様? すみません、わたし、ぼーっとしてしまって……」
『貴様の母親が人族の滅亡を望んだ事に変わりはなかろう? それに、人族を滅することで他種族を救う事にもなる。——全ては人族が己の身勝手さ故に始めた戦。我らは正義。それを忘れるな』
「そう……そうです、よね。わたしは、人族をみんな倒さないといけないんだから」
わたしの心は弱い。竜王様に支えてもらわないとすぐに揺らいじゃう。
『人族全体は今や混乱状態だ。それが収まる前に、可能なだけ都市を滅ぼすぞ!』
「はいッ!」
わたしは、胸の前で両手を強く握る。
【魔竜召喚】
召喚した魔竜に跨る。前と同じように触手みたいなのが絡みついて体を固定してくれる。
「魔竜、またお願いね!」
「ゥガァァァァァァ!」
魔竜はわたしの言葉に応えるように大きく叫んで、竜王様の操作によって翼をはためかせて加速していく。
「わたしは、正義。悪いことはしてない」
——わたしは高速で後ろに流れていく景色を見ながら、胸の奥に無理やり刻みつけるように呟いた。
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