ねえ、聴いて。

冬寂ましろ

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 お願い、私の話を聴いて。

 どうか、私の話を聴いて。


 私の話すことを。

 いまから話すささやかなことを。



 私は君が思うほどいい人じゃないし。

 やさしくもないし、面白くもないし。


 人に愛されていても、そんなことないって言い張る。

 人に愛されなければ、認めて欲しくて無茶をする。


 簡単に嫌われたり。

 簡単に傷ついたり。

 そのたびに落ち込んで下を向く。


 絵も描けないし。

 歌も歌えないし。

 そのたびに冷たい床に座り込む。


 私はどこにも行けないって、ずっと嘆いてばかり。

 私は誰にも認められないって、ずっと泣いてばかり。


 弱くてつまらない、ちっぽけな私。

 そんな私なんだけどさ。



 でもね。

 君に嘘をついたことはないんだよ。




 ねえ、ちゃんと聴いてる?




 私と出会ったとき、君には好きな人がいたね。

 優ちゃんって言ってさ。私の親友なんだ。

 もしゃもしゃ同盟って笑い合う仲。

 ふたりで髪の毛、もしゃもしゃなんだ。わかるでしょ?


 君たちは手を繋いでいたね。すごく仲が良さそうだった。


 優ちゃんを取られちゃった、という寂しい気持ち。

 優ちゃんを愛してあげてね、というやさしい想い。


 あのときね。そんなふうに思った私が変な顔をしてないか、少し心配してたんだ。



 あれから3人でいろんなところに行ったね。

 放課後に食べたハンバーガー、夜中の公園のベンチ、試合に負けた体育館の渡り廊下……。


 君がいたから、私もいたんだよ。

 私がいたから、君もいたんだね。



 水族館へ行ったときのこと、覚えてる?

 君は時間になってもなかなか来なくて。


 不安そうな優ちゃんを見守りながらずっと待っていたんだ。


 君は走ってきたね。


 息を切らして嬉しそうな顔で優ちゃんを見上げる君。

 曇っていた顔がみるみる晴れていった優ちゃん。



 あのとき知っちゃったんだ。

 恋してることを。


 恋ってこんなにすごいんだね。

 私は、気持ちがずっとぐるぐるしちゃってさ。



 きらめく南の海の水槽に明るく照らされる君たち。

 それを見て私はクラゲのようにただよった。


 シロクマに見られながら楽しそうに話す君たち。

 それを見て私はペンギンのようにはぐれてしまった。


 大暴れするイルカのしぶきが、涙ぐんだ私を隠してくれて、ちょっと嬉しかったよ。



 だからね。

 距離を置こうと思ったんだ。


 だってさ。

 君たちふたりの笑顔の中には、私はいなかったんだ。


 だからさ。

 しばらく学校には行かず、ほとぼりが醒めるまで、お布団の国で暮らそうと思ったんだ。




 でも、君は優ちゃんに聞いたんだよね。私がひとりぼっちっていうことを。


 私はみんなにはなれないって。

 私は普通にはなれないって。


 みんなが思う幸せから、一番遠いところに私はいるんだって。


 私はそれに気づかされていたんだ。


 触れたいという淡い想い。

 決してそれができない、透明な痛み。

 それをみんなに知らされてしまったときの、どうにもならない泥のような感情。


 みんなにはわからない、わかっては欲しくない、そんな想いをずっと抱えていたよ。


 落ち込むフリができる。

 泣いてるフリができる。

 だから、逃げ出すフリをしようと思ったんだ。


 自分は自分をひどいと思う。

 君を置き去りにした自分だから。




 でもね。

 こうやって話してる私の言葉が、君をひとりにしなければいいなって思っているよ。




 聴いてる?

 疲れたのなら、隣に座りなよ。




 1週間したら、ネカフェも過ごしやすくなったよ。

 1か月もしたら、自分で自分を殺すことに慣れてきたよ。


 誰か教えてよ。私はどう生きたらいいの。

 毎日そう言って自分をだましていたら、君が私を見つけたんだ。


 偶然だったと言うけれど。

 奇跡だったと言うけれど。


 君は優ちゃんのものだから。

 私のものではないのだから。


 偶然というのなら、なんて冷酷な偶然だと思ったよ。

 奇跡というのなら、なんて残酷な奇跡だと思ったよ。


 それでも、君は泣いて「もう放さない」と言ってくれたんだ。




 だからね。

 どうか私の言葉も君の心に響いてって願っているよ。




 聴いてるかな?

 ほら、ぎゅっと抱きしめるから。




 泊めてもらえて嬉しかった。

 暖かいごはんを一緒に食べれて嬉しかった。


 君の家から学校に通い出した。

 君と一緒にまた友達に出会えた。


 私が嫌だ嫌だと言っても。

 もう死ぬからかまうなって言っても。


 それでも君は優しくしてくれたね。


 嬉しかったというよりも。

 びっくりしたというよりも。

 なんでそんなことを君は言うんだろうと、不思議で仕方がなかったんだ。


 だから優ちゃんに「会わせるんじゃなかった」って言われたとき。

 だから親が事故で死んだとき。

 私が本当にひとりぼっちになったとき。


 誰にも話しを聞いてもらえない。

 聞いてもらえても通じ合えない。


 誰にも負けないって思ったことに、負けてしまい。

 何にでもなれると思ったのに、何にもなれない。

 探しても探しても、生き方というものが見つからない。




 でもね。

 それでもね。


 君がそばにいてくれたから、私は救われたんだ。




 ちゃんと聴いてるかな?

 そんな顔をしないで。




 本音を言えばさ。

 こんな話はどうかなと思うんだ。

 とても情けない話しに思うんだ。


 私はずっと思ってたんだ。


 誰からも見えない。

 誰からも無視される。


 そんな自分でもさ。

 ようやく言えるよ。



 私を見つけてくれて、ありがとうって。



 歌えない歌を歌うよ。

 描けない絵を描くよ。


 君とならできるから。

 ずっとできるから。


 恥ずかしいけどさ。

 私はそう思っているんだ。

 本当だよ。



 同じ学校にいるけどさ。

 同じ制服を着てるけどさ。

 同じスカートを着て、同じように見られているけどさ。


 それでも私が好きって言うんなら。

 私もこっそり好きになってあげるから。




 だからさ。泣かないでよ。

 ほら、手を握ってよ。

 泣き止むまでそばにいてあげるから。




 ねえ、聴いて。

 私も君のことが好きなんだ。




 怖かったんだ。

 君の気持ちを受け入れてしまうことを。

 君と友達じゃなくなってしまうことを。


 でも、決めたんだ。


 覚悟がいるけれど。

 簡単なことではないけれど。


 それでも決めたことだから。


 だってさ、君の言葉を。本当のことを。あんなにも。

 君にはたった2文字の言葉だけど。

 それでも苦労して出した言葉だろうけど。


 私はその前から、たくさんたくさん。

 君のことを。君が話す気持ちを。



 私は聴いていたんだから。

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ねえ、聴いて。 冬寂ましろ @toujakumasiro

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