第81話 惣無事令
朝倉家を討伐し畿内に平穏が訪れると、義信は足利義昭を通じて全国の大名に惣無事令と上洛を命じた。
これは、大名の妻子を京に在住させることで事実上の人質とし、足利家への従属を確固たるものとする狙いがあった。
そして上洛しない大名に対しては、武田軍を主力とした討伐軍を興すことで、武田の武威と乱世の終焉を告げた。
こうして武田家の武力を背景に天下泰平が実現したのだった。
「お館様が天下の副将軍とは……感慨深いものですなぁ……」
義信の側近にして家老の長坂昌国がつぶやく。
新たに建築した京屋敷に拠点を移すと、義信は室町幕府の副将軍として日夜政権運営に携わっていた。
「よもや、この目で戦乱の世を終わりを見られるとは……」
「感慨深いものがありますなあ……」
曽根虎盛と馬場信春が頷く。
彼らもまた、義信の副将軍職を手伝うべく、京に滞在していた。
「いや、乱世は終わらないさ」
義信がちらりと御所を見やる。
「見ろ」
義信の指す先。
御所の執務室では、足利義昭が幕臣たちと土地争いの調停をしていた。
「畿内の寺社より、武士に荘園を横領されたとの訴えが出ております」
「……しかし、この者は幕府の縁者。ことを大きくしたくはないな……」
義昭がううむと考え込む。
「我慢、してもらうわけにはいかぬかな……?」
「では、そのように取り計らいましょう」
義昭の言質をとると、そそくさと幕臣がその場を後にする。
その様子を、隣の部屋で武田家臣たちが聞き耳を立てていた。
「なっ……」
「ご自身の配下の肩ばかり持つのですか!?」
「これでは、幕府に叛意を抱く者が現れるぞ……」
長坂昌国や馬場信春、曽根虎盛が口々に不満を顕にする。
「私も何度か口を出しているのだが、一向に良くなる兆しが見えない。それどころか、最近は公方様に避けられる有様だ」
義信が肩をすくめた。
応仁の乱以降、全国に有力大名が現れたことで、義信以外にも政権運営に携わる大名は少なくなかった。
中でも、上杉や毛利は重臣の直江景綱や小早川隆景を京に置き、幕府の運営を手助けしてきた。
だが──
「直江殿や小早川殿が諫言するも、公方様はまるで意に介されぬ。……あれでは公方様から人心が離れるのも時間の問題だ」
「遅かれ早かれ、幕府内で争いが起きよう。応仁の乱の二の舞いとなるか、はたまたもっと早く決着がつくのか……」
長坂昌国と曽根虎盛がつぶやく。
「されど、この戦に勝てば、我らが武田家が天下を獲るのも夢ではございませぬな」
馬場信春の言葉に、義信が頷いた。
「幕府という沈みゆく船に乗ったのはこのためよ。幕府を牛耳るか、権力争いを優位に進めるか。……日ノ本一の国力を持つ武田であれば、どちらも造作もないことよ」
既に、毛利や島津、長宗我部といった西国の有力大名と知己を結んだ。
あとはこれらの人脈を駆使して、幕府を傀儡にするなり、天下を目指せばいい。
「征くぞ。私の天下取りはこれから始まるのだ」
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございました。
これにて本作は完結です。
本作を完走できたのは、ここまで応援してくださった読者の皆様のおかげです。
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【完結】 武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~ 田島はる @ABLE83517V
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