第32話 by the way
食後の片づけを終えて灯を見送ったあと、直哉と入葉の二人はお茶を飲みながら食卓で向き合っていた。
「夢を、見たんだ」
「夢、ですか?」
入葉はじっと湯呑の中で踊っている光を眺めながら言った。
「ああ。なんかすごくリアルな夢でさ。入葉もでてきたから、もしかして入葉も同じ夢見たんじゃないかって……」
「もしそうだったら、とてもロマンチックですね」
「い、いや、そんな内容の夢じゃないって!」
直哉がムキになって否定すると入葉も同じように反応した。
「わ、わたしも別にそんな意味で言ったんじゃ……」
もしここに灯がいたら、ここが私の出番とばかりに二人をからかったことだろう。だが、今は灯はここにいない。
直哉は廊下に目をやって灯がのぞいていないことを確認すると、気まずい雰囲気から逃げるために話を続けた。
「夢の内容はさ、俺と入葉が黒いマントを着た女に襲われるんだ。顔は見えなかったけど、そいつはお前のこと狙ってるみたいだった。でも、そこでヘマしちゃってさ。夢なんだからカッコよく相手を倒せたらよかったんだけど、実際はそこにいた別の女の子に助けてもらったんだ……、ん? 入葉?」
入葉は湯呑を見つめたまま固まっていた。
まるでその奥にいる誰かに見つめ返されているように、目をそらしたくてもそらせない恐怖に支配されているみたいだった。
「直哉さんが……」
「え、なに?」
「直哉さんが、どうしてそれを知ってるんですか!?」
勢いよく立ち上がった入葉が熱湯の入ったポットをひっくり返し、熱いお茶が入葉の手を焼いた。
「うわ、おい、すぐ水で……」
慌てて入葉の手を引いて流しに連れていく。
水をかけようとして彼女の袖をまくった直哉は、隠されていた傷に気づいた。
「これって」
そう言いかけた直哉の顔を、入葉の恐怖に彩られた目が見つめる。
直哉の手を振りほどいて逃げようとする入葉を、直哉は自分の中に湧き上がってくる感情のままに力強く抱き止めた。
その感情の正体が分からないままに。
「起きてください!」
誰かが叫んだ。
(バカ言うな。俺は目を開けてるじゃないか。今もこうして入葉を)
「寝てる場合じゃありませんよ!」聞き覚えのある声が叫んでいた。「また襲撃です。入葉さんを守りたいなら、覚悟を決めてもらいます」
目を開けると、目に涙を滲ませたサンバの顔が見えた。感じている恐怖を包み隠すようなうわべだけの笑顔が、差し迫った危険を直哉に予感させた。
スイッチバックウルブズ 悠木音人 @otohitoyuuki
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