第31話 harmony
ホワンッとシンバルのような心地よい音がして、湯気がばあっと鍋を覗き込んでいた
「
「はーい、よそるのは私がやるから、入葉ちゃんは直哉をイスに座らせてくれる? そこらへんで遊んでると思うから」
灯がおどけてそう言うと、それを受けて入葉も笑顔を見せる。窓から差し込む光を背景に、鍋からただよう湯気と、あはは、うふふ、という幸せそうな声がホームドラマのような雰囲気を作りだしていた。
そこに新たな人物が視界の外から登場する。
「おい。二人でドラマみたいなやりとりするのはいいけど、俺だけ子供役にするのヤメてくれないか?」
「直哉が大人になるのを待ってたら味噌汁が冷めちゃうでしょ?」
「直哉さんも座って……あ、今お箸を用意しますから」
「あれ? この茶碗は俺のじゃ……。灯、俺のやつ使うな」
「入葉ちゃん、直哉はまだお箸は使えないんだって。スプーンも用意して」
「あの、お醤油はそちらにありますか?」
三者三様のかみ合わないセリフが飛び交う。
それが返って気遣い無用な家族らしいやりとりに感じられ、直哉の心の奥に出来た固い石を少しずつ溶かしていくようだった。
「うん、このお味噌汁も美味しい。最初に一緒に作った時は味噌を丸めてお湯に入れようとするんだもん。味噌団子汁でも作るのかと思っちゃった」
「そ、それは……」
入葉が恥ずかしそうに下を向いた。
「あっ、責めてるんじゃないわよ。ほんと、すっごく上達したと思う」
入葉と灯がそんな会話をしているとき、直哉が味噌汁に口をつけてすぐに黙って立ち上がった。椀を持ったまま流し台に直行する。
「ちょっと。それどうする気? 黙って立ち上がるなんて失礼でしょ」
「あ、あの。お口に合わなかったでしょうか」
「ほら、入葉ちゃんが不安がってるじゃない!」
直哉は返事をせず、その間包丁で何かを切っていた。その切ったものをパラパラと椀に入れて、もう一度一口飲んでみた。
「うん、やっぱりだ。二人もいるか?」
と言って満足そうな顔で振り返り、小皿に乗せた刻んだネギを二人の前に置いた。
三人で食事をするときはいつもムスッとした顔で食事をし、食べ終わるとすぐにどこかへ行ってしまう直哉が、そんな顔で目の前にいることが灯には信じられなかった。
「久しぶりにうまい味噌汁を飲んだから。ネギ入れてみたくなったんだ」
その一言を聞いて灯は急に怒り始めた。
「ちょっ、なによそれ。それならそうと最初から言いなさいよ!」
「んあ? 何怒ってんだよ」
「だってそうでしょ。あんた黙って味噌汁を流しにぶちまけるかと思ったじゃない!」
「んなことしねえよ」
「それくらい
「わ、悪かったな! 不愛想なのは親父の……、あ、灯があれこれうるさいからだ!」
「だって私が面倒見なきゃあんた……、あっ! ほらみなさい。入葉ちゃんが泣いちゃったじゃない」
見ると入葉が目の端をしきりに指でこすっていた。
「ね、大丈夫?」
灯が入葉の肩にそっと手を置いて話しかけた。
入葉が笑い八割泣き二割くらいの声でそれにこたえる。
「直哉さんと灯さんが、あんまり直哉さんと灯さんだから……、嬉しくって」
「あっ、そう?」
灯が反応に困って直哉に視線を送った。
(ねえ、どういう意味?)
(俺にもわからん)
「俺にも分からんけど……。入葉から見て、俺も灯も成長してないってことじゃないか?」
「なによそれ! あんたはともかく――」
「入葉は、」直哉は入葉の味噌汁のお椀に刻んだネギをパラパラと落としながら言った。「前よりよく笑うようになったし」
へえ、と感心したような顔をした灯が直哉の前に自分のお椀を差し出す。直哉がネギを落としているのを見ながら言った。
「あんたもね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます