ストーリーはもちろん、異能が映す“人間模様”をこそ楽しんで欲しい作品!

 異能が現れた社会で、主人公に与えられた評価は最底辺のF。しかし、彼こそが知る人ぞ知る世界最強の能力者だと噂される人物だった。
 悪意を持って異能を使う悪党から人々を守るため、個性豊かな面々が揃う『異能課』は今日も命がけの任務に挑む──。



 三人称で進む物語。まず本作の魅力は、他の方も仰るように丁寧になぞられる王道展開でしょう。設定、キャラクター、ストーリー。そのどれもがまさに王道を行くものです。よって、ファンタジーを読み慣れた方は安心感を持って、そうでない方はファンタジーならではのワクワク感を目一杯に持って、読み進められるのではないでしょうか。
 しかも、丁寧な描写と確かな文体で描かれるキャラと物語はレベルが高く、“その他大勢”に埋もれないものであると感じました。

 そんな本作のもう1つの魅力は、何と言っても現代的な世界観で描かれる『異能』の存在でしょう。

 人類の半分弱が異能と呼ばれる不思議な力を持つ世界。能力はランク付けされ、管理されるようになります。けれども力を手にした人々の一部が悪事を働くようになるわけですね。

 そこで登場するのがランク付けでは最下位、しかし、その力は世界最強とも呼ばれる主人公が属する『異能課』です。主人公の能力の正体はストーリーを通してしばらくひた隠しにされるのですが、いかんせんその強者感がすごい。また、作者様の見せ方がうまくて、主人公は能力の全容を明かさないまま、それでもきちんとバトルをする。「主人公はどんな能力なのか」を考えずにはいられません。
 そんな主人公は格好良くて、しかし、少し抜けたところもあって憎めない。全体的に少しシリアス寄りな世界観に、ほんの少しのコメディさもあって、程よくホッコリさせてくれます。

 能力者たちの性格も能力も千差万別で、新しいキャラが出るたびに「次はどんな能力?」「どんな人なんだろう?」と、まるで宝箱を開けるかのようなワクドキ感があります。

 1人1人の描写も丁寧になされているおかげで、それぞれのキャラが引き立ち、モブキャラと呼ばれる存在が居ないようにも感じました。作者様のキャラに対する愛のようなものが感じられるからこそ、新規キャラに期待感を抱けるのかも知れませんね。
 そうして愛を持って描かれる厚みのあるキャラクターたちこそが、本作最大の魅力になると私は感じました。

 ストーリーで王道を踏襲しながら、それぞれのキャラに焦点を当てて、生き生きと描く。そんな彼ら彼女らが己の異能を使って繰り広げるバトルには感情移入しやすく、やっぱり迫力があって胸が熱くなる。
 能力に振り回される者、過去に囚われる者、悪意を持つ者に、人々を守る者…。主要キャラたちに隠された過去も、物語を読み進める手を刺激してきます。



 まさに、ファンタジーを堪能しつつ異能によって浮き彫りになる様々な人間模様を堪能できる作品。どんな方にもオススメしたい、現代ファンタジーです!

 奇をてらった作品も多い中、ワクワクドキドキしながら主人公たちの活躍を応援する。そんなファンタジーの原点に立ち返ってみるのもどうでしょうか…?

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