第6話 天使のお菓子屋さん

 さて、このブログでは御都久市の都市伝説等を個人的に考察、推察、時に妄想を交えながら紹介している訳であるが、この町の都市伝説には時に少し変わったタイプの話がある。

 それは、「既に解決しているタイプの都市伝説」である。


 普通、都市伝説と言う物は現在進行形。或いは一時的に不活性化しているがいずれ……等と言う未来への警告交じりの物が多い。そしてそれらが完結するのは大抵、昔から語られている物が土地や風俗の変化により現代とそぐわなくなる。或いは現代科学や医学の発展によってその現象が説明され、話自体が無効化されてしまう。等と言った形であるという事が多い。

 

 しかし、この御都久市の物は、「噂になった時点ですでに事は完結しているが、未来への危機は残ったままである。」と言う、ユニークに言えば読者のツッコミ待ち。怪異的解釈をすれば、話の本筋よりその中にいる存在を読者に刷り込むためのエピソード。と言った物がある。

 このようなタイプは、まず話を見てもらった方が早い。以下のエピソードは、一時期二久地方の小学生の間で話題になった「天使のお菓子屋さん」と言う都市伝説である。尚、以下の文面は「みじこわ」内に書きこまれた十代女性が妹から聞いたというエピソードを、許諾の上引用したものである。


 妹の学校で流行っていた話で「天使のお菓子屋さん」と言うのがあって。それがちょっと変わっているらしいんです。

 妹もいろんな子に同じ話をしてもらったりして、熱心に調査していたんですけど、誰も本気で取り合ってくれなくてふてくされていたので、意見募集ついでにここに書きこんでみようと思います。

 妹曰く、結論的にはこの話既に完結していて、「こわーい」系ではないらしいんです。

 それ前提でお読みいただくと幸いです。


 ある学校に、先生も手を付けられないほどの悪い子がいたらしいんですよ。でもある日を境に急にその子が何でも言う事を聞くいい子になりまして。

 最初はみんな改心したんだー。偉いねー。だなんて褒めていたんですど、段々様子が違ってきたらしくて。

 

 一番みんなが不気味がったのは、全体朝礼。あれの校長先生の話って、失礼だけど大体みんな聞かないか、よくて聞き流す程度じゃないですか。

 でもその子、何を思ったのかメモを取りながら真剣に聞いていた上に、その日の昼休みに感想文を書きあげて、帰りに自主的に提出したらしいんですよ。(ちなみに妹曰く、どの人に聞いてもみんなこの話はみんなしていたらしいです。原稿用紙の枚数まで言う人もいたと言います。)

 流石におかしいと思って友達がその子に問いただしたところ、こう答えたらしいです。「天使のお菓子屋さんで、いい子になるお菓子を何回か貰った。」って。


 小学生中学年から高学年って言ったら、みんな素直じゃなくなってくるお年頃だし、当時似たような駄菓子屋さんの話も流行っていたしで、みんな半信半疑ながらも、もしいたら会ってみたい!と言った感じだったらしいんですよ。

 で、その子も他のお友達も連れておいでみたいな事言われていたらしく、みんなでおじさんに会いに行こう!ってなって、日曜日に捜しに行ったらしいんですよ。


 そしたら、まずおじさんは簡単に見つかったんですけど、急にただの焼き芋屋に転身していて。

 最初はその子が嘘言ってたんだって子供達で口論になったらしいんですけど、おじさんはその子覚えていたらしく、顔見るなり急に泣きながら「取り返しのつかない事をした」って謝り倒してきたらしいんですって。

 その後、子供たちはおじさんに話を聞いたんですが……。ここの部分は妹が箇条書きで一生懸命まとめていましたので、努力の成果としてほぼ原文ママで書かせていただきます。


 ・元々「人の為になる事をしたい」と、ボランティア活動に励んでいたおじさん。ある日サークル仲間から「天使のお菓子屋さん」という活動を紹介されたらしい。


 ・「子供たちがいい子になる様に、お菓子を配る」と言うコンセプトに最初は違和感を抱いたが、子供食堂みたいなものかと解釈し、早速活動に申し込み。


 ・後日、研修施設から案内があり、行ってみるとワゴンと衣装(天使の羽とわっか)が用意されており、子供達にこのお菓子を常に衣装を身につけて無償配布するようにとだけ指導されたという。


 ・益々怪しいなと思うおじさんだったが、不思議な事に羽を付けてわっかを被り、簡単な接客指導を受けると見る見る違和感も消えて「これが天から与えられた自分の使命だ」と強く感じる様になったんだという。


 ・そこから先は仕事も辞めて全国の公園を渡り歩きながら、唯熱心にお菓子を配り続けていたのだという。当然、リピーターも多く「度の超えたいい子」になる子も増え続けたが、危機感は全くなく、むしろいい事をした、もっといい子を増やさなきゃと思っていた。


 ・そして御都久市でも公園を拠点にして、その子以外にもお菓子を配ったりしていたらしいんだけど、或る夜に子供たちと高校生ぐらいのお姉さんが訪ねてきたらしい。

 ・子供達は夜深いにもかかわらず、大声で叫んだり喧嘩したりしていた上、それを止めるお姉さんも力なく疲れ果てていたので、いつものように、「お菓子をあげようか」と声をかけたらしい。


 ・お姉さんは最初「人数も多いし……。」(実際子供は7、8人はいたらしい)とか「出された者以外を食べたら怒られる。」(子供たちにもお姉さんもあざがある上にひどく痩せていたらしい)とか言って断っていたんだけど、その様子からおじさんは益々使命感が燃え上がったらしく「ならワゴンのお菓子、全部あげちゃおう!」と大見得切ってしまったらしい。


 ・おじさん曰く、その時「本当ですかぁ?」と言ったお姉さんの声色と、一斉に振り返った子供達のニタッとした眼が忘れられなかったという。


 ・そこから子供達は一斉にワゴンに駆け寄ったかと思うと、片っぱしからお菓子を平らげ始めたらしい。おじさんは最初は、まぁ子供が食べる量なんてたかが知れていると思ってたんだけど、ワゴンのお菓子はあっという間に底が見えてきて。


 ・しかもお菓子の食べ方も決してきれいじゃなくて、ゴミは散らかすわ、こねて遊び始めるわ、挙句取り合ってワゴンを壊し始めるわ、いい子にならないどころか、段々収拾がつかない感じになって行ったらしい。


 ・その様子を見ていたおじさんは、急に背中の羽が重くなっていくのと同時に、「自分は今まで何をやっていたんだ。」という恐怖感に襲われ始めたらしい。今すぐにでも逃げたかったけど、かろうじて残っていた「この子たちをいい子にしなきゃ」という使命感を振り絞って、子供達にどなったらしい。


「こらぁ!ちゃんとお姉さんにも分けてあげなさい!」って。


 ・するとお姉さんは「あらおじ様。私はこれでいいのよ。」って

 頭のわっかを引きちぎるように奪って、食べたんだという。


 ・おじさんはその時始めてあのわっかもお菓子だって気付いたぐらい、今まで外そうとも考えなかったらしい。そしてわっかを食べ終わったお姉さんに、こう言われたらしい。


 ・「おじ様、覚えてらして。」


「いい子になるかどうかなんて、その子の勝手なの。おじ様が決める事じゃないわ。」


「それに天は、おじ様がどれだけ世界に貢献しているかなんてちっとも考えてないの。」


「ただ、大人も子供もみんないい子になれば管理がしやすいって、思っているだけだから。」


 ・気付いたときには、おじさんは地面に倒れ伏していたんだって。起きてみると朝になっていて、ボロボロになったワゴンとおもちゃの羽以外には、お菓子も子供達もお姉さんもみんな消え失せていたんだって。


 ・その後、すっかり続ける気を無くしたおじさんがワゴンと羽を返しに行くと、そこは石焼き芋屋さんになっていて「天使のお菓子屋さん」なんて欠片も無くなっていたらしい。おじさんは、これも何かの縁だと思い、石焼き芋屋さんに雇ってもらったんだって。


 以上が、妹から聞いた話です。

 その後、そのいい子やおじさんがどうなったのかとかは人によってまちまち(おじさんのお芋食べたら元に戻ったなんて話から、その後益々いい子がひどくなったなんて話まで。)らしく、妹も途中まではしっかりした話なのに、あやふやな結末で変だよねって言ってました。


 私個人的には、小学生の噂話に、私に高校でもはやっている「かゆこさま」(お願いしたらお前は天使かって思うぐらい傲慢な奴を土下座させてくれるこっくりさんみたいな奴)が混ぜ合わさった奴かなぁと思うのですが、御都久市系怪談に詳しい方、妹と私の為にもご意見お願いいたします!


 と言う事なので、投稿者にこちらのブログで引き取らせていただく旨を告げたところ、快く引き受けてくださったので、考察していこうと思う。(それにしてもこの妹さん。必要な情報もしっかりまとめられており、小学生にして怪異調査の才覚があると見える。お姉さんは妹さんがくれぐれも人の道を踏み外さないようよく見てあげてほしいものである。)


 まず、「かゆこさま」に関しては先日このブログでも述べた通り、少しひねくれたタイプのこっくりさんなのだが、この地域では女子中高生を中心にかなり支持が高い怪異である。

 更に、二久市では駅前を中心に、結構な頻度でフードワゴンが行きかっており、今回の怪談はそれらに憧れた小学生が、愛読書からヒントを得て語った。と言うのが「一つの真相として」考えられるものだろう。


 では、ここからはいつも通りこの怪談を一旦事実として定義し、怪異側の視点で解釈していくとする。しかし、この場合一つ余計な存在が浮かび上がって来る事となる。そう。子供たちである。

 本来、これが単なる「かゆこさま」物であれば、後半のおじさん退治の流れはわざわざお菓子を平らげさせなくとも、「かゆこさまがその子の噂を聞き付け、『勝手に人格を歪める』傲慢さをおじさんに説いた上で、わっかを喰う」と言った流れで十分話は成立するはずである。それなのに何故かこの話には、あえて謎の子供達と言うギミックが用意されている。それは何故だろうか。

 個人的に2つほどの仮定を元に1つの結論を推定した。


 一つ目の仮定は、「舞台である公園の近くに子供達にまつわる施設がある」というものである。

 試しに物語の舞台となったであろう二久地域内の公園を調べたところ、当該公園であろう場所は絞り込めた。そして確かにその近辺に鬼子父神像の祠があった。(誤字に非ず。御都久市ではこのような変わった信仰物は珍しくない。尚詳細場所は投稿者のプライバシー保護観点から非公表とする。)

 そして「その像の前を堕胎経験者が通りかかると、蛭子が見える。」と言う怪異も「みじこわ」内にて報告されていることから、1つめの仮定はほぼ確定と言っていいだろう。


 そして2つ目の仮定として、「御都久市の怪異たちは、時に協力体制を取る。」と言うものである。

 これに関しては、個人的にまえまえから抱いている仮定、と言うより経験則と言う名の数々の実体験から、ほぼ個人的には確信を得ている仮定ではある。(これらはまたいつかブログ内にて記載する。と言っても大体が地味な話である故、そんなに読みごたえはないかもしれない。)

 よって、今回はこれも確定事項として扱う事とするが、今後もそうしていくにはまだ体験談と言う名のデータが足りない状態である故、引き続き「みじこわ」への投稿や、ブログのコメント欄にて当該事案があれば、語っていただけると幸いである。


 では、この二つの仮定から、導き出された結論を書かせていただく。それはこのようなものになる。


「自立意志を奪おうとする『天使』と言う名の怪異VS恐怖と快楽により自立意志を復活、維持させんとする『都市伝説』と言う名の怪異」


「その二つによる小競り合い。」


 ……頼むから無辜の人類を巻き込まない方向でやっていただきたいものである。


 さて、そんな祈りも空しく私と言う名の無辜の人類は、明日から怪異現象が頻発する旅館へと小旅行と言う名の事態解決に向かう羽目になってしまった。


 まぁ、私自身もこのようなブログを管理維持、時に考察等をしている時点で確かに無辜とはお世辞にも言えないかもしれないが、それでも「怪異の専門家」だの、「こいつさえ呼んでいれば大体解決するだろう」と便利屋霊能力者扱いされるのは、甚だ心外である。

 あくまで私は「自らの知識と技術をもって」「クライアントの望むままに事態解釈をする」と言うのが専門であって、本来ならばこのような事態解決や、交霊、悪霊退治、ましてや漫画の様な戦闘行為などは専門外どころか、正直言ってご遠慮願いたいぐらいである。

 その為、この旅館の主から頼まれた「悪い座敷童をどうにかしてほしい。」等と言う案件は、本来なら余所に回したいぐらいなのである。


 この依頼を受けたのは、宿泊代を大分お得にしていただける事と、天然かけ流し個人露天風呂付の部屋を融通してくれた事。さらには大親友である助手のスケジュールが2泊3日の小旅行に相応しく空いていたという奇跡的な偶然が偶々重なった結果に過ぎない。

 よって、このブログを読んでいる本来の意味での「無辜の人類」である賢君ならまだしも、同業他社他人等に関しては、倉掃除だの寺社仕舞い等の案件依頼または案件融通という名の後始末依頼は気軽に行わず、まずは自分達で事態解決を図ってほしい。私と助手は一人ずつしかいないのである。


 では今回はここまでとする。先ほども書いた通り2泊3日は留守にするので、その間コメント対応等はできない事を承知おき願いたい。

 事の顛末に関しては一応、このブログでも報告するつもりであるので、お待ちいただければ幸いである。


 投稿者コメント:これもわたしが好きな話の1つです。天使のお菓子屋さんと言う メルヘンなネーミングとは裏腹に、少しうすら寒い恐ろしさのギャップが印象的でした。

 それにしても怪異同士の結託も、確かに他の怪談ではあまり聞かないなぁと思います。なんかああゆう存在って、孤独なイメージがあるので。

 さて、この回でやっと助手さんの名前を出す事ができました!正直、私はこの助手さんと管理人さんの関係性が大好きでして……!

 次回はこの小旅行の顛末回をアップしたいと思います!気長にお待ちください!

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