第7話温泉童対処顛末記・1 前
まずは冒頭にて此度の更新が大いに遅れた事を心より謝罪する。(尚、理由については、この話の顛末に関わることでもあるので、最後に記述するものとする。)
さて前回の予告通り早速私と助手の2泊3日小旅行の顛末を書いていきたい所ではあるが、まずはタイトルにもある「座敷童」の概要解説をさせていただく事としよう。
その童は、某県某郡にある秘境温泉街の中規模旅館内、個人露天風呂付き二人用部屋に棲みついているという。ブログ愛読者の賢君なら「ああ、あそこの座敷『悪』童か。」と、この時点でピンと来ている方も多いかもしれない。
そう、この旅館の座敷童は、世に語り伝えられる一般的な座敷童とは違い「宿泊客に度の超えたいたずらをする」と言う伝承で一躍有名なのである。以前に各掲示板や、「みじこわ」、ブログ内に見受けられた証言をまとめただけでも、
・宿泊者に怪我を負わすのは当たり前。むしろかすり傷で済んだなら運がいいレベル。
(その為この旅館の当該部屋には、他の座敷童部屋にある様な玩具や菓子の供え物は一切置いていない。実際に寝ている間に窒息寸前まで菓子を口に詰め込まれたり、部屋に置いてあったピストル玩具が何故か耳元で暴発し、鼓膜破裂までいった例があるのだと言うかららしい。)
・男性一人で露天風呂に入ると、高確率で足が麻痺し、溺れそうになる。人によっては気絶寸前まで足が戻らなかった者も。
・普通、座敷童が出た旅館は繁盛するのが常だが、その旅館は童の目撃情報が出てからと言うもの不幸続きであり、廃業寸前なのだと言う。(もっとも、最期の廃業に関しては温泉街自体の衰退も絡んでいそうだが。)
と、明らかに他の座敷童とは一線を画す証言が散見されていた。
私は、これらの話を他に類を見ない怪異譚として情報として入れつつ、いつかネタに詰まった時の雑文候補として調べてみてもよいかもしれないとは思っていた。
しかしこの時にはまさか自分の元に対処依頼が降りかかってくるとは思っていなかったのである。そう、前回書いた通りその旅館の主から直接依頼を受けるまでは……。
(実を言うと場所的にも内容的にも、非常に厄介な案件であろうとは予測できていたので、前日まで仮病でも使ってキャンセルしようかと悩んでいたぐらいである。しかしゆくゆくは仕事柄世話になるであろう土地であったため渋々泣く泣く引き受けた次第である。)
と言う訳で非情にもスケジュールに丁度いい感じの穴があいていた私は、同じく丁度よく空いていた大親友兼助手(以前に紹介した、長身細マッチョ赤髪獸系の彼である)と、小旅行へと出かける次第となったのである。
しかし、半分仕事とはいえ、親友との旅行は久方ぶり。はからずも少し心が躍った私は、少しでも束の間の小旅行を楽しむべく、なるべく旅館に着くタイミングをチェックイン時間スレスレにせんと、まずは温泉街の現地調査(と言う名の観光)を決行する事とした。
すると、温泉街唯一の土産物屋にあるアイス屋の店員から「温泉小僧」という興味深い民話を聞くことができた。以下に話の概要を載せておく。
・昔々ある所に子供好きだが、子宝に恵まれなかったおじいさんとおばあさんが住んでいた。二人は裕福ではなかったが、慎ましく仲睦まじく暮らしていた。
・そんな老夫婦の元にある日、みなしごが迷い込んできた。子供が欲しかった老夫婦は大変喜び、丁寧にもてなした上小僧をしばらくの間家に住まわせた。
・しかしある日、小僧は山へ帰らなくてはならない事を老夫婦に告げた。老夫婦は大いに悲しみ、「うちの子になればいいじゃないか」と引き止めた。
・そんな老夫婦に対し小僧は、自分は神になる為修業中の精霊である事、その修業の総仕上げとして、山に住み厳しい冬を耐え抜かねばならない事。そして一番雪が降る前に山に戻らねば、また辛い修行を一からやり直さなくてはいけない事を語った。
・老夫婦はそれならば無理に留め置く訳にもいかないととうとうあきらめた。そして、せめて厳しい山暮らしの足しになればと家にあるありったけのものをお土産に持たせ、小僧を送りだす事にした。
・別れの日、小僧は老夫婦にこう言った。
「今までありがとうございました。このご恩は必ずや返します。」
そんな小僧に老夫婦は返した。
「御恩返しをしたいのならば、私達が生きている間にもう一度ここにやってきておくれ。」
すると小僧は老夫婦にこう頼んだと言う。
「でしたら、この家の庭に空池を掘って下さい。雪解けの時期、神になった暁には必ずや会いに参りますので。」
・老夫婦は、小僧の頼みの真意を組みかねぬまま、言われた通り空池を掘り、雪解けを待った。
するとどうだろう。雪解けの時期になると、その空池はもうもうと湯気を立てる温泉で満ち溢れていたではないか。
老夫婦がびっくりしていると、湯気があの小僧の形をとって、
「おじいさん、おばあさん。お入りなさい」
と、話しかけてきた。
言われた通りに老夫婦がそのお湯につかってみると、たちどころに力があふれてきた。そしてふとお互いの顔を見てみると、40は若返っていた。
小僧の湯気は、老夫婦にこう言った
「あなた達の優しさと心遣いで、私は無事に山の守り神と成る事ができました。」
「しかし、その為においそれと人の里に下りる事はできなくなってしまいました。」
「ですので雪解け水に私の気を溶かし、温泉とする事で恩を返し、お話できる事としたのです。」
夫婦は小僧の律義さに大層感服した、しかし同時に、不安になってこう聞いた。
「しかし、この辺りも山ほどではないが冬には大変冷え込む。温泉もその時期には凍ってしまうのではないか?」
すると小僧の湯気はこう答えた。
「ご安心ください。毎年、雪解けの時期に新たな気をこの池に注ぎ入れます。」
「但し、この湯は私の気が入った化身。それだけはお忘れないように……。」
湯気はそう言うと、春風に吹かれて消えてしまったと言う。
・それから夫婦は、念願の子宝にもたくさん恵まれ、幸せに暮らしたと言う。
同時に夫婦は、この温泉は山の神の化身であると同時に小僧の化身であることを決して忘れないように、この温泉を「小僧湯」と名付けた。
そして温泉の近くに祠を立て、いつまでも大切に奉ったと言う。
さて、話自体はよくありがちな民間伝承である。しかも内容からして、間違いなく今回の座敷童騒動の構造を解くヒントになりうるであろう。
ちなみに、旅館で起きているという座敷童絡みの怪異現象についても店にいた数名にそれとなしに聞いてみたが、目立った手掛かりは得られなかった。
というより、件の旅館は観光客にも地元民にもタブー扱いされているようで、皆忙しいやら知らない等理由をつけて、話を誤魔化していた。
もっとも、眼鏡をかけた神経質そうな中肉中背中年男性である私と、長身赤毛のロッカー風中年男性が仲睦まじくアイスとシャーベットをシェアリングしながらネットロアの怪談話について聞いて回る姿に、こちらの方がよっぽど怪異現象だと敬遠された感も忌めないと言えば忌めないが。
(ちなみに助手は呑気に、「オレ達、どういう二人だって思われてるんだろねー。」と笑いながら甘味を楽しんでいた。両方大変美味であった上、地元出身だと言う店員も怪しい中年達に対して大変愛想の良い方だったので、冒頭の少ないヒントから場所を察した猛者は一度立ち寄ってみるといいかもしれない。)
投稿者コメント:更新遅くなって大変申し訳ございません!今日から少しずつ温泉回のサルベージを開始したいと思います!
大変マイペースな投稿ペースになりますが、読んでくださいますと幸いです……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます