第2話 攫い屋お兄さん 

 ※以下某ブログより抜粋(今後は省略します)

 どの時代、どの地域にも「子供の前にだけ現れる存在」というものがいる。

 そしてその存在は「子供同士の噂話」や「親からの忠告」によって伝承され、知られていくこととなる。

 タイトルにもある「攫い屋お兄さん」というのは、主に後者によって伝承されている類である。

 要するに「あんまり遅くまで遊んでいると、攫い屋お兄さんが来るよ!」と脅すのである。

 しかし、普通こういったタイプの伝承は、説話的な、言ってしまえば親に都合の良い存在として語られるものだが、彼はどうもそういった類の存在ではないらしい。


 以下、御都久市三代在住者(男性、20代)から聞いた証言を要約して掲載する。


「攫い屋お兄さん」ですか?子供の頃よく近所のおじちゃんが言ってましたね。「一人で遊んでると、攫い屋の兄ちゃん来るぞ。」って。

 俺当時は結構生意気な子供で、その時言い返したんですよ。「誰かと遊んでりゃ大丈夫だろ。」って。

 そしたらおじちゃん、急に神妙な顔になって「いや、それでも来る。そいつはさみしい子供見つけたら連れて行って、よその子にしてしまうんだ。」って言ったっきり黙っちゃって。

 それがあんまりに怖かったから、俺ビビッてそこで逃げ帰っちゃったんで、そのあとは聞けずじまいでしたね。


 あー。でもなんかここら辺の子はみんな知ってるし、何なら会ったことあるって子もいたような。

 なんかそいつが言うには真昼間に公園で、赤黒い(?)シマウマ模様のシャツに、髪金髪にして薄い色のグラサンかけてベンチに座っていたって。

 で、そいつが話しかけるとその兄ちゃん、にたっと笑って。


「君が楽しく生きてける場所に、攫ってあげよっか?」


 って、そいつに言ったらしい。

 そいつは怖くなって逃げだしたけど、後ろから

「気が変わったらおいで~。待ってるよ~。」

 って笑顔で手ぇ振ってたらしい。


 その話聞いた俺らは

「なんか見た目派手じゃねwwww」

 とか

「フレンドリーすぎるwwww」

 とか

「何なら付いてってみりゃよかったのに。」

 とか言ってそいついじって笑ってたっけ。

 その後もよくある不審者情報のプリントとかもなく平和だったから、そいつが只の暇なチンピラにビビって逃げただけだってみんな言ってたんだよな、そん時は。


 ……まぁそのあと急にいなくなってさ、そいつ。

 最初のほうは両親とかも懸命に駅前とかでビラ配りしてたし、先生も連日のように「何か少しでもわかることがあったら教えてください!」って、必死で探していたのよ。

 でも、ある日突然そいつは見つかったけど転校しましたって先生から伝えられて。

 細かいこと先生に聞いても「家庭の事情」としか答えてくれなかったから、みんなで不思議がって「調査だー!」つってそいつの家行ったのよ。

 そしたらそいつの自転車から飼っていた犬までいなくなっていてさ。

 出てきた家族もあんなに必死でビラ配りしてたのに「そんな子、知りませんよ?」ってマジの顔で言うもんだから、そこにいる奴らも子供ながらに触れちゃいけないんだろうなってわかって。結局そいつについてはそれっきり。


 後で聞いた噂話だと、そいつの家から毎晩子供の悲鳴とか聞こえてたらしいから、まぁ虐待がらみなんだろうな。後、なんか全然違う場所でほかの家族と仲良さげに歩いてたって噂も聞いたようなそうじゃないような。

 俺が知っている話はこれだけだが、ほかの学校行ってたやつとかに話聞いても、三代住だったら2,3人に1人ぐらいは俺んとこにもそういう奴いたわって話になるんだよな。

 まぁ、この町じゃもっと怖い目に遭っている奴もいるから、不思議でも何でもないのかもしれないけどな。


 この証言から、この怪異(以下、こう呼称する)は以下のような性質を持っているといえる。

 ・主に単独行動でいる子供が遭遇する。(その子の生育環境も関係しているか?)

 ・少なくとも三代地区ではかなり知られた存在である。

 ・昼夜構わず遭遇する可能性がある。

 ・相当に派手な見た目をしているのにもかかわらず、警察などが動いた様子がない。


 また、この証言に出てきた「そいつ」が、この怪異によって攫われたと仮定した場合、その子は虐待家族から解放され、幸せな生活を送っているとみることができる。

 だとすれば、最初に述べた「親からの忠告」は、自分の子供が攫い屋の毒牙にかからないようにする切なる願いともいえる。(逆に言うと、子供の心情が加味されているかは疑問である。)


 今後この怪談を定義するには、「子を攫われた親の話」や「怪異の甘言に乗らなかったこの話」さらには「実際攫われて、今は幸せに暮らしている子の話」など、多方面からの考察が必要になると思われる。

 そのため、もしこの話を知っている方や、三代地区在住者、攫い屋との遭遇者等いれば当ブログにコメントで証言していただけると幸いである。

 久々の更新故、少々読みにくいところなどあったかもしれない。

 今後も定期的に様々な御都久市絡みについての考察を上げていくつもりなので、読んでいただけると幸いである。


 転記者追記:最初の更新は、私がこのブログの中で一番好きな話を上げてみました。私もこのブログの愛読者だったころ、軽いいじめ(無視)に遭っていたので、こういうお兄さんがある日攫ってくれないかな~とかって妄想してました(笑)

 この話にはこの後も新しい証言がありますので、サルベージでき次第転記しようと思います。

 それにしても、読んでいる当時は気が付かなかったんですけど、このブログの管理人さんって、相当怪異寄りというか、なんか怪異目線で考察するときがあるんですよ。

 この話とかはまだましな方なんですけど、今後かなり私情入ってる回とかもあって、その時はコメントとかもちょっと荒れてましたね。(ちなみにコメントは管理人さんの意向で載せられません。すいません。)

 今後も気長にアーカイブ化しますので、よろしくお願いします。


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