第5話 海月女・証言2

 証言2(40代男性。取材方法:ブログコメント。返信不可の為後追いできず)

 

 文章書くのは慣れてないから、読みづらくなるが許してくれ。

 俺には中学生ぐらいの時から、一種の殺人衝動があった。

 普通、そう言うのは早い段階でイタさに気づくか、気力が持たなくて薄れていくものだが、俺の場合は収まるどころか年を追うごとに強くなって行った。

 なんというか、最初は所謂スプラッタ系映像と言うものに興味があったんだが、やがて見るに飽き足らず、ナイフ集めてみたり、自分で場面をシュミレートしてみたりとか、どんどんエスカレートしていった。

 特にやったのが、街で見かけた適当な女覚えておいて、どういう風に殺すかひたすら考えて帰って一人芝居するって奴だ。

 当然、やった後はむなしさで気分悪くなるんだが、少しの気晴らしにはなった。


 そして、30後半になったごろから衝動は急激に悪化した。

 当時勤めていた職場が最悪だったってこともあったのかもしれないが、とにかく四六時中誰かを滅多刺しにする妄想していないと気が済まない。

 んで、休みの日には適当なナイフ持って街をうろついた。今思えば捕まってもおかしくない事すら平然とできていた。

 それどころか、一回妄想し過ぎて気が付いたら女の事付け回していて、危く通報されかけた事もあった。

 当然、そんなんでまともに仕事が手に付く訳もなく、40前の冬に、人員整理かなんかで首になった。でも、そんな事すらどうでもいいぐらいに、とにかく誰か手にかけたい、壊したい。そんな衝動に駆られ続けていた。

 俺はその衝動を何とか、日々の妄想やら、刑務所のルポとか被害者家族の手記とか読んで、ギリギリで晴らしていた。


 その後2、3年ぐらい貯金潰しながら何とか無職生活していたんだが、しまいには電気代すら払えない在様で。その頃には完全に追い詰められてボロボロで、思考がもう自分殺すか人殺すかの二択になっていた。

 そんなある夏の日、惰性でナイフ持ってうろついていたら、近くの水族館が無料開放してた。クソ暑い日だったし、水族館だったらクーラー割と効いてるだろっていう軽い気持ちで、中に入ったんだ。

 しばらく興味もない魚をぶらぶら見て回っていたら、後ろの方からマイク越しの声が聞こえてきた。振り返ると、世界の珍しい海月か何かの展示コーナーで、ウェーブかかった髪の女が、ガキ相手に解説してたんだ。

 そいつ見た瞬間、なんかふっと何かが落ちた感覚がした。腑に落ちるっていう感覚が近いかもしれない。

 で、小声だが思わず声に出して言ってた。

「こいつにしよう」ってさ。


 そこからの行動は、俺でもびっくりするぐらい早かった。

 まず水族館の外出て、回って職員出口を捜し当て、閉館時間を覚えた。

 そこから、今日ダメだった時用に図書館行って水族館の求人やら年パスの情報漁って、あの女のシフトに辿り着く算段を立てた。

 気がはやり過ぎて、一時間前には、いろんな妄想しながら近辺うろついてた。

 あの日の記憶は、ここら辺が一番はっきりしている。何というか、遠足本番よりも準備の方が楽しい、そんな感覚だったのかもしれない。

 後、今日ダメでも絶対にこの女なんだ!って言う謎の固定概念?みたいなものがあった。

 その内日が暮れて閉館時間が来て、俺は怪しまれない様に職員出口の近くで待ち伏せた。でも、二時間たってもその女は出て来なかった。

 どうせ表の入り口からもう帰ったんだろう。まぁいい。また二三日ぐらいしてまた待ち伏せるか――――――と思って帰ろうとした途端。

 出てきたんだよ、その女。しかも一人で。

 

 俺は心の中でガッツポーズしながら、すぐさま尾行を開始した。

 今思えば、尾行ルートの時点で違和感を覚えるべきだったのかもしれない。

 あの女、わざと人通りの少ない方選びながら歩いて行くんだよ。しかも駅前歓楽街の方へ。

 でも、その時の俺は次々に幸運が味方してる!これはひょっとして天のお墨付きじゃないのか?なんてバカなこと考えながら後付けてた。

 で、完全に人のいない路地裏に入って、よしここだ!って思った瞬間、女が俺の方突然ふり向いて。

「こんばんは。ストーカーさん。」

 って笑いながら言ってきやがった。

 一瞬完全に不意をつかれたが、でも勢いで何とかなるだろって、ナイフ取り出そうとしたら、いつの間にか移動したのか、急に腕組まれて

「こんな道端じゃなくてさ、ゆっくりできる所がいいかな。」

 って、耳元で囁いたんだ。その女。

 俺は、一瞬どういう意味か判断に困った。でも、こんなチャンス逃したら二度とこの衝動は晴れないと、その女のゾクつく様な囁きにうなずいた。


 本当は俺の部屋まで帰ってもよかったんだが、電気もつかねぇ場所ではやりたくないって思って、近くのホテルに女を連れこんだ。

 で、女がシャワー浴び待ちに、ベットに座ってナイフ眺めながら、もうチョイいいの持ってくればよかったな、とか、実際血に染まるとどんな感じなんだろとか色々妄想していた。

 その時、妄想し過ぎの悪いクセが発動していて、いつの間にかシャワー終えてバスローブ羽織って立ってる女に気が付かなかった。

 俺は慌ててナイフ枕の下に隠そうとしたんだが、うっかり床に落としちまって、完全に女にナイフ見られてしまった。

 でも、それ見て女は怖がるそぶり見せるどころか、平然と床のナイフ拾って。

「へぇ、随分きれいにしてるんだねぇ。」

 なんて暢気につぶやいた。

 

 俺は、女のあまりの何でもなさと気にしなさに、今まで我慢していた何かが決壊した。

 気が付いたら喚く様にその女に自分のこれまでの一切をぶちまけていた。

 ずっと人を殺したかった事、それもなるったけ凄惨な方法で。

 でも、やる勇気もないまま衝動ばっか膨れ上がって、人生ボロボロになった事。

 女は、それをただただナイフ持ちながら聞いていた。

 で、俺が洗いざらいぶちまけた後、ふっと顔あげると、女は女神みたいな笑顔で

「君は幸運だ。」

「なぜなら私は、君の願いを叶えるのにうってつけだからね。」

 そう言って自分の首をナイフで切りつけた。


 当然血が噴き出して、壁やら床やら汚したんだけど、何故かその女は平然としていた。

 もはや固まって身動きのとれない俺を、女は首から血を滴らせながら押し倒して、

「見ての通り、私はどんな君の衝動にも耐えきる事ができる。」

「だから、今宵は気兼ねすることなく、」

「君の思うまま、私を殺してほしい。」

 ってまた耳元で囁いた。

 

 それ聞いて俺はもはや整合性とか、事の異常さとか、女の正体とか、全部どうでもよくなっていた。

 俺は女からナイフを取り上げ、衝動のままにまず滅多刺しにした。

 すると本当に女は何でもない様に笑ってるし、血は流れるんだけどベッドに一切シミにならずに垂れ落ちて。

 女は女で笑いながら、

「さぁ、次はどうするんだい?」

 なんて俺を挑発してくる。

 そこからはよく覚えていないし、あんまりごちゃごちゃ書くのもやんでて気分悪いだろうから割愛するが、まぁ解体やら思いつく猟奇的な事は、あらかた全部やった。

 でも、最後の方は正直思いだしたくないが、はっきり覚えている。

 俺は、生ぬるい物を羽織っている。目の前には、中身と言う中身が全部。

 でも、声だけは止まずに心地よく俺に囁きかけてくる。


「大丈夫さ。どうせ一夜だけ。」


「目が醒めてしまえば。この夜は何も残らないし。君すらよく思いだせない。」


「でも、決して忘れないでほしい。」


「私と言う女の顔、声、感覚、温度、血の色、その匂い、全て。」


「そして、目が醒めて全て終わった後。」


「君の中に残る、その苦さを。」

 俺はただその声に、まどろみと幸福な中にいるままに、うなずいていた。


 気が付いたらいつの間にか俺はシャワー室に立っていた。

 朦朧とした頭で、ぼんやりと部屋の方を見ると、女はもうそこにはいなかった。

 次に眼を落すと、部屋の床に血はなかったが、シャワー室のタイルには、転々と赤い雫が丸を作っていた。

 そして目をあげると、眼の前の姿見には……。


 髪からつま先まで、真っ赤になった俺が立っていた。

 その瞬間、俺は自分がやった事の全てを悟った。


 その瞬間、こみ上げてきた恐怖と嫌悪感は、本当に今でもたまに夢に見てうなされる。

 俺は一心不乱にシャワーを浴びて、あの女の痕跡が一切残らない様に全身くまなく洗い続けた。

 同時に、自分が女にした事、そして人道の外に憧れた事、それを実行に移してしまった事を激しく激しく後悔した。当然、もう一度やろうなどとはこれっぽっちも浮かばなかった。

 俺は急いでホテルを後にし、真っ暗な自分の部屋で震えながら眠りに付いた。


 それから2、3週間は新聞を読み漁り、自分の行為がバレていないだろうかと、戦々恐々としながら過ごしていた。

 水族館には、出っ食わした時の恐怖からなかなか行けなかったが、3か月後満を持して一度だけ行った。

 すると、海月コーナーの担当者は別人だった。終わったと思いながら。俺は無料開放日のお姉さんはどんな人ですか。と尋ねた。すると、

「あーあの人ね。おとといは出勤していたんだけど、何せ日雇いだからいつ出てくるかわからなくてねぇ。」

「人気もあるしいい人なんだけど不定期、って事で、職員からも常連さんからもレアキャラ扱いされてるんだよ~。」

 と、まるで何事もないように説明された。

 本当にあの夜の事は、最初からなかった事の様だった。


 これで踏ん切りがついた俺は、真っ当な人間として生きなおそうと心に誓い、すぐさま次の職を見つけ、あの女に2度と会わない様に、結構離れた土地へ引っ越した。

 幸い、そこは俺のキャリアが結構生きる現場で、前の職場がウソみたいに雰囲気もよい。

 しかし今でも、血のような赤色を見ると、卒倒しそうになるレベルで怖くなるし、似たような髪型をした女には近寄る事すらできない。

 何より、たまにあのシャワールームの夢を見ては、飛び起きるなんて夜もある。

 でも不思議とその前、女と出会ってからシャワールームまでの記憶は、恐怖の感覚だけ残して、だんだんと消え去りつつある。

「海月女」の都市伝説については、正直このサイトを流行りだと後輩に紹介されるまで知らなかった。

 だからこそ、今回慣れない文章を打ち、俺の体験を書くことにした。

 女が囁いた様に、あの夜を忘れないように。

 そして願わくば、眼の前のあんたがあの女の誘惑に負けないように。


 この体験談に関しては、「返信不可」のチェック欄が有効になっていたので、これ以上の後追いは不可能だった。予めご了承願いたい。

 さて、前の証言と合わせて私が着目したのは、「怪異と出会った時の感情変遷」である。

 

 通常、人は怪異と出会うと、「恐怖」の感情が先駆し、それが継続する物である。

 しかしこの御都久市怪異の特徴として「恐怖」の前にまずは、充足感や幸福感などの「快楽」が、先駆する物が多くみられる。

 当然、これは世間一般的なホラーでも第三者視点、つまり読者の「恐怖」を増殖させるために使われる技法ではあるし、一般的に、怪異側から見た目線としても、まずはおびき寄せる為の「餌」としての機能として必要な場合もある


 しかし、御都久市怪異では、後から取ってつけたかのような、或いは証言1でも述べた免罪符的な「恐怖」で締めくくる。と言うのが一種のパターンと化している。

 つまりこの事から、この町の怪異は、初めから「人々の更生や救済」と言う目的が根底にあるのではないかと言う一種の仮説を立てる事ができる。

 かと言って、それが必ずしも本質的救済に繋がっていない事は、先の証言からも一目瞭然である。その為この仮説には


 ※あくまで怪異目線であり、人目線ではないものとする。


 という、はなはだ有難はた迷惑千万な脚注が付くのであるが……。

 とにかく、今後もこのブログではこの仮説を元に、御都久市地方の怪異を紐解きつつ、私の勝手な考察もとい妄想を述べる場にしていこうと考えている。

 暇な賢君はお付き合い頂けると幸いである。


 転載者コメント:久しぶりの更新となってしまい本当にすいません!これで海月女シリーズはひとまず区切りです!

 正直最後の管理人さんの考察は、当時は難しくって良く分からなかったのですが、今回、海月女さんの話を改めて読み返してみて、わたしも仮説を一つ立ててみました。


「怪異は、多分さびしがり屋」


 さびしがりやで、人から忘れられたくない。或いは、そうしないといけないほどに存在が希薄。だからちょっと刺激の強い事をついやってしまう。

 怪異って、そういうさびしがり屋なのかな。ってふと思ってしまいました。

 このブログでは、まだまだいろんな怪異や現象が体験談と共に考察されているんですが、やっぱり人も怪異も、さびしがり屋さんなんだなぁって、サルベージしながら感じました。

 散らかった文章になってしまいすいません……とにかく、更新速度あげられるように頑張りますので、気長に見ていただけると幸いです!

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