第4話  海月女・証言1

※猟奇的な内容です。駄目だと思ったらバックお願いいたします。

 

証言1(10代女性。取材方法:「みじこわ」でのチャット)


 今のご時世、誰しも「死にたい」ってワードはなんとなく頭によぎると思う。実際あたしもそうで、つい最近まで毎日頭に浮かんでた。

 でも、あたしの場合は少し変化球って言うか、ひねくれてて。

 朝、高校行きの列車待つホームでは「誰か突き落してくれないかな」

 昼、教室で授業受けているときには「急に教室が爆発しないかな」

 夜、塾終わって家に帰る道で「通り魔かなんかが首でも締めてくれないかな」

 とかって、ずっと誰かに殺されないかなって考えてた。ひどい時にはニュース見ながら「被害者があたしならよかったのに。」って口走った事すらある。(幸い親には聞かれてなかったけど。)

 

 理由はいろいろ。同じ死ぬのでも自殺よりかは自分の責任軽いから、地獄にはいかなくて済むし、両親も寄付やら保険金やらで老後安泰でしょとか。

 でも、今思えば一番はやっぱり「興味本位」だったんだろなーって。

 なんか、上手く説明できないけど……。殺されるのって、どういう精神状態になるんだろうっていう、非日常に対するあこがれに近いものだったんだって今だったら思う。

 んで、そんなこと考えながら深夜にスマホいじっててさ。

 ほら、所謂「病み垢」ってあるじゃん。そこのメッセージ欄肝試しに期待半分で開けて「どうせ死ぬなら誰かに殺されたい。」みたいなことタグごてごて付けて呟いてみたりなんかして。で、誰からも反応なくて不貞寝を繰り返す毎日。

 でも、ある日なんか拾う神ありみたいな感じで、一軒だけメッセージ来たのよ。「宜しければ、私が殺しましょうか?」って……。

 

 最初はさ、いやいや急に殺しましょっかとかワケ分かんないし、どうせホテルで変なの飲まされた上でヤな事する気満々でしょって。当然、無視してブロるつもりだったのよ。

 でも、その後念の為プロフ覗いて、ひょっとしてこれ例の「海月女」じゃねってなって。

 ……そりゃ、殺されたい盛りだったから、当然「海月女」の都市伝説は知ってたし、実際会ってみた的な体験談も読んだ。

 でも、フツーマジにしないじゃん。都市伝説なんて。でもあたしはその頃限界だったんだろうね。「お願いします。」って思わず返しちゃったのよ。

 そしたらトントントーンって場所から日程まで即で決まっちゃって。何なら依頼料の振り込みもその時点で終わっちゃって。

 それがまたドタキャンするには短い日程だし、場所も家からすぐで。おまけに依頼料もブッチしたらもったいなさで少し後悔するぐらいしてさ。だから「行くしかないよなぁ。」って腹決めざるを得ない状況だった。


 んで、あっという間に当日が来て。特に思いつかなかったから遺書とかもなしでふつーに「行ってきます」って家出て普通に授業受けてて、少なくとも午前中まではなんてことない日だった。

 でも、午後の授業で嫌いな教師にイジられたり、それクラスのやつに笑われたりしてたら、段々「今日死ぬ事にしといて良かった。」って、ちょっとテンション上がっきちゃって。

 で、放課後待ち合わせよりちょっと早めに集合場所行ったのね。そしたらさ、いた。「海月女」が。


 それがガチで都市伝説通りなの。緩ウェーブヘアーの幸薄女性。その人に「こんばんは、はじめまして。」ってめっちゃ丁寧に挨拶されて。びっくりするぐらい穏やかな口調だったのが印象に残ってる。

 と言うか驚き過ぎてさ、なんならあたしの一言目「ガチでいたんですね、握手してください。」だったから。海月女さんは困惑しながらも柔らかい手で握手してくれたっけな。

 で、まずは二人でお茶行ったんだけど、会話内容をびっくりするぐらい覚えてないの。でも、店出るころにはカンペキ海月女さんの事信用してたっけ。

 

 で、その後、ビジホの二人部屋入ったら早々に最終確認と説明。内容は細かく覚えてないけど、

「○○さんは、特にシチュエーションなどの指定がなかったですので、先に依頼されている方の希望の通り、『殺させ』ていただきます。その様子を、眼鏡の小型カメラで撮影いたしますが宜しいでしょうか。」

 ざっくりとそんな事言われたから、信用してたしそのままうなずいた。でも、その時に内容を聞いておくべきだったと後悔してる。

 あ、思い出したけどその時先に依頼って何ですかって聞いた。そしたら、あたしとは逆の「殺してみたい」って人からの依頼らしくて。

「でも、その方は直前になって『遠方だから来られない』と。」

「でしたら、VRはいかがでしょうかって案内させてもらった所了承を得ましたので。」

「もちろん、○○さんの個人情報は一切分からない様にこちらで処理させていただきますので。」

 これもめっちゃ丁寧に言われたから、「それなら……。」ってOKした。

 

 その後ちょっとしたら海月女さん、急にあたしを部屋の外に出して。

「それでは、私は今から待機しますので、心の準備ができたら部屋へお入りください。」

「一つだけ注意していただきたいのは、部屋の中に一たび入りましたら、終わるまで中止はできません。」

「ですので、もし今の時点で怖くなったり、嫌になったりしたら構わず後ろの玄関から外に逃げてください。特に追いかけたりはいたしませんし、そのままキャンセルと言う事で後日返金も致しますので。」

 って言ってそのままドア閉めたの。ああ、ついに来たか。って感慨深くなったっけ。

 でも、しばらくはドア開けたら死んじゃうんだよなぁとかうだうだ思って入らなかったのよ。

 でも、玄関の方振り返ってみたら鏡に顔が映って。あのきれいな海月女さんに比べて、あたしはしょーもない女だなぁって思った時、自然と心が決まって。

 あたしは部屋のドア開けて中に入ったの。


 でも、部屋の中には誰もいなくて、

 あれ、おかしいな?確かに部屋の中に……。とか思いながら中うろついてたら、急に目の前が暗くなって。

 気が付いたときにはベッドに押し倒されて、お腹?のあたりに何か入っていく感覚がした。

 不思議と痛くなかったけど、なんか冷えた物が体温と混ざり合っていく感覚が、妙に気持ちが悪いというか。

 そしたら急に中身が抉られる感覚。その後お腹の中から何か出したかと思うと、大型ポリバケツに入れて、

 ベチャって言う音と共に下見て、自分が何されているか分かった、


 海月女、スコップで自分の腹の中さらってる。


 その途端、急に目の前の海月女さんも今自分が置かれている状況も、何故か全然痛みがない事も急に全部怖くなって。

 いつの間にか全力で御免なさい許して下さいって叫んでいて。でも体の力は完全に抜けてるから抵抗もできずされるがまま中身ポリ袋に入れられ続けて。そのうちだんだん意識も遠のいてきてさ……。

 しまいの方はほとんど覚えてないけど、嫌だ嫌だ死にたくないってただただ泣いていたのは覚えてる。

 で、意識が無くなる間際に、あたし見ちゃったのよ。

 

 海月女の、にたぁっとした感じの背筋も凍るような笑顔。


 で、気が付いたら、腹抉られていた姿勢のまま、海月女さんもポリバケツもスコップも消え失せていた。

 え……。天国ってこんな感じ……?いや地獄か……?とか馬鹿なこと考えていたら、自分のスマホが鳴って。

 見たら部屋入ってから、二時間もたってないの。何なら今から家帰っても、「塾さぼったの?」って怒られるぐらいの時間。

 で、意識もその頃にははっきりして、記憶もよみがえって来て。

 慌てておなかさすっても、傷一つなくて。

 安心したと同時に吐き気がこみ上げて来て、しばらく洗面台で格闘。

 その後、もっかいスマホ確認したら、海月女さんからメッセージが来ていて。


「どうでしたか?」


 って、一言だけ。そしたらまたあの場面がよみがえって来て。何とか吐き気こらえながら、


「すいません。お蔭で命の大切さが分かりました。もう二度と殺されたいとか言いません。」


 って何とか返したら。


「よかった。」


 って。


 その後もう一回洗面所行って身だしなみ整え終わった時には、海月女さんのアカウントもメッセージも消えてなくなってた。


 あの日自分がされたのは、個人的には一種の暗示とか催眠術の類なんだろうって解釈してる。

 海月女さんなんか夢半ばで殺された的な話を後で知って。

 ああ、だからあの日簡単に死にたいとか言った自分が許せなかったから、ああやって痛い目合わせて命の大切さを教えてくれたんだって、今では思ってる。

 だから今でも、学校とかで嫌な事があった日とかはその時の事思い出して、「あれよりはマシだ。」って考えるようにしてます。

 ……だってあんな経験、忘れたくても忘れられませんから。


 以上が一人目の証言である。

 

 ちなみにその後、「みじこわ」への追加書き込みで、その時撮られたVR映像の依頼者も確認できた。どうやら一回再生するとデータごと消える媒体で送られてきたそうで、やはり彼も「自分で依頼したシチュエーションだったが、二度とやりたくないと思った。」と、後悔をにじませていた。尚、顔は例の「海月女」のものに差し替えられていたそうだ。


 さて、読者賢君はこれを読んでどのような感想を抱いたであろうか。

「なんだかんだ実際に人が死んでいる訳じゃないし、怖いのは怖いけれどもよい怪異ではないのか?」

 と、そう思われた方も多いかもしれない。

 しかし、怪異と言うのは得てして「結果だけ見れば善性」という事態に陥る事がある。

 何故なら、ひとたび自身が「悪性」と判断されてしまうと、存在維持に支障が出る恐れがあるためである。

 特にこういった「人との交流や実際の証言によって存在確立」するタイプの怪異は、ひとたび危険だと流布されて、絶対に遭わない。何なら存在すら知らない方がいい、忘れた方がいいとなってしまうと、自身の存在継続において死活問題にまで陥ってしまう。

 その為、どこかフレンドリーな一面を残していたり、会ってみたい、気になるという好奇心を喚起させたり、会う事によってハイリスクハイリターンの報酬が手に入る……。等と言った「益」を人にちらつかせる事に余念がないのである。

(ちなみに、よくある「出会ったら、終わり。」系の加害系怪異に関しては、そもそもの成り立ちや目的等が大いにちがってくるので、また後日考察する事とす。)


 さて、次の証言2は、そう言った怪異の多面性を知るのにふさわしい題材である上、「人も簡単に、あちら側に成れる。」事を示した好例である。

 少し刺激的な内容である故、心して読んでほしい。


 転記者追記:「海月女」の詳しい感想は証言2を上げた際にまとめて書かせていただきます。(そして前回証言2だけが注意的なこと言ってすいません。こちらも大概でした……。)

 後、管理人さんが怪異についてやたら詳しいのは、実際にそういう現場を普段から対処されているからだそうです。ブログには管理人さん自身が遭った怪異体験の回もありますので、気長に待っていただければ幸いです。

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