第4話 報復

 結局、大豆田さんは5時間も怒鳴り続けていた。そのうち、バッテリーが切れそうになって、充電器につなごうと思ったら切れてしまった。俺はまずいと思った。切られたと勘違いして余計に怒られる気がした。


 俺は右往左往して、何とかiPhoneを起動できるようになったら、すぐにLineを送った。「すみません。バッテリー落ちちゃいました」

「今、警察に向かってます」

「?」

「預けてた猫を死なせて、証拠隠滅のために火葬したって言いに行きますから!」

「あれはもらったんですよ」

「いいえ、1週間はお試し期間ですから」

「そんなの聞いてませんよ!」


 俺は刑事では不起訴になったが、その後、訴えられて、精神上の損害に対する慰謝料として20万支払わされた。支払った後、おばさんは大人しくなったので、俺はほっとしていた。もう縁が切れていたと思っていたのだ。


 ***


 ある日曜日の日。俺は家でネットを見たりして、だらだらと過ごしていた。すると、インターホンが鳴った。宅急便が届いたらしい。


「お待たせしてすみません」

 俺は玄関に出た。すると、宅急便の人が「江田聡史さんのお宅でよろしいでしょうか」名前を確認したので俺は返事をした。

「はい。足元置いてください」

 俺は段ボールを足元に置くように頼んだ。

「ありがとうございました」

 俺はドアを閉めた。


 誰だろう・・・送り主は「川上恵子」知らない名前だった。まったく心あたりがないのだが、あて先は間違いなく俺だった。


 箱を開けてみると、中にはペット用のケージが入っていた。嫌な予感がして、箱から引き出すと、そこには猫が入っていた。

「うわぁ!」

 俺は叫び声をあげた。

 かわいそうだから、ケージから出したが、猫は両目が潰れていて、その部分がへこんでいた。どこにいるかもわからず、ただニャーニャーと鳴くだけだった。


 俺は送り主に電話を掛けた。

「すみません・・・うちに猫が送られてきたんですけど」

「あ、届きました?」

 明るい女性の声だった。年齢は50代くらいだろうか。

「なんでうちに?」

「Twitterでそこに送るように言われたので」

「誰から言われたんですか?」

「猫を保護する会というアカウントです」

「俺、そんなのやってませんよ」

「でも・・・言われたんです。そちらの住所に送るようにって」

「でも、こんな目の見えない猫を送って来られても困りますよ!うち、階段もあるし」

「うちは、おじいちゃんの介護があってもう面倒見れないので・・・すいません。よろしくお願いいたします」

 そう言って電話を切られてしまった。その後は、もう繋がらなかった。


 俺はTwitterで里親募集をかけたが、拡散はされるのだが、目の見えない猫をもらってくれる人はいなかった。猫はずっとニャーニャー鳴いている。そして、リビングには猫の糞尿の匂いが充満している。大豆田さんには電話がつながらない。猫は可哀そうだから、保健所なんかに連れていけない。そのまま1月は飼い続けた。しかし、限界だった。


 俺は困り果てて、猫を公園に捨てに行った。猫はずっとニャーニャー鳴いていた。本当にかわいそうだった。俺が餌をやっているからよくなついていて、俺が家にいる時は片時も傍を離れなかった。その時はかわいいのだが、俺もどうしても飼いきれない。猫がうるさ過ぎて夜寝れないからだ。


 すると、その夜、猫が戻って来たようで玄関先で鳴いている。あの子だ。でも、俺は飼えないから放置する。すると、今度は2階のリビングで鳴いている気がする。俺は布団を被って気付かないふりをする。次は寝室のドアの向こうで鳴いている。俺は違うことを考える。


 今は俺の耳元で猫が鳴いて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。


 俺が恐々目を開けると、そこにはおばさんがいて、俺の顔をのぞき込んでいた。

 


 


 

 

 


 


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猫をもらう 連喜 @toushikibu

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