王太子殿下は婚約破棄するつもりは微塵もありません!

豆ははこ

第1話

「お前との婚約を破棄する!」

 うわあ、ダメな奴だ、ダメな奴がいるぞー。頑張れ、僕。声には出さないぞ。


 初めまして、皆様方。僕は某国の第二王子です。今叫んでおりますのは恥ずかしながら血の繋がった僕の兄、第一王子です。以上、紹介終わり。あ、第一王子は王太子ではありません。ですが、僕の妹、第一王女は王太女です。とても賢い自慢の妹です。


 昔々、この国が王位継承権を第一王子のみに資格有りとしていた頃、ものすごく女性男性にだらしない、正に国を滅ぼしかねない第一王子が現れてしまってかーなーりー大変だったという。その際、第二王子様が良心的な人材と民衆とを味方につけてクーデターを起こして、とにかく王族は男女問わず本人の才覚で王位を決める事とされた為、この国はこんな感じのダメな奴は王太子になれなかったりする訳なのです。


 ……回想終了。ありがとうございます、ご先祖様。何故、そのダメな奴が婚約破棄などとわめいているかといいますと。我が国で代々、優秀な人材を輩出されている公爵家のご令嬢、王太子の婚約者様に対して、権利もないくせに破棄だー、破棄だー、とわめいているのです。

 隣にはどっかの男爵令嬢。いや、本当は覚えていますよ。でもあんな歩く騒音公害の名前なんて言いたくもない。

 今だって、まあ、良く言ったもんだ、のオンパレード。

 やれ男爵令嬢のくせに、と王子殿下との会話を注意された。(談話室でした。個室ですよ? 当然です)

 やれ男爵令嬢のくせに、とアクセサリーを咎められた。(華美過ぎる物は王族でも無許可では違反です。勿論許可申請さえございません)

 やれ男爵令嬢のくせに、と階段から突き落とされた。(校内全ての階段には転倒防止の魔法が掛けられており、万が一の場合も安全安心です。よって、突き落とし行為等は不可能です。……隣の王子、お前は学内細則を記憶するべき立場だろう?)

 それらを一つ一つ、公爵令嬢とそのご友人達の指金だとわめいている二人なのです。ああ、醜い。


 ……因みに、ここはパーティー会場とかではなくて、国王陛下が催された芸術劇場の展示会の会場です。

 公爵令嬢は油絵、僕は彫刻を出品しております。第一王子と何とか令嬢? 知りませんよあんな奴等。金品を積んで業者に何か作らせたらしいですが、魔力検知で既にばれています。


「歴史と伝統ある魔法学校入学者に他人の作品を自らの作品として提出する愚か者がいるとは思えぬが念の為、作品を作った者は必ず作品に己の魔力を通しておく様に」

 ……という国王陛下のお言葉は馬耳東風だったみたいですね。

 あいつらならやりかねない、と僕が国王陛下の許しを得て、あの二人の魔力検知を王室専属の影軍団にお願いしましたら、

「ぜーったいにこいつらは作ってませーん!」

 ……というお墨付きがでました、とさ。


「……しかもお前は、自分の油絵が酷い出来だからと、愛しの・・・・の描いた水彩画に落書きを!これがお前の最たる罪だ!」

 ……うわあ。


 どうしようかな。このまま放っておいて、魔法でこっそりと公爵令嬢を連れ去ろうかな。


「何を仰っているのか全く理解ができませんが。とりあえず、・・・・様が描かれた水彩画とは、どこにございますの?」

 ああ、やっぱり公爵令嬢の声は美しい。所作も、外見も。知性が溢れた魔力のオーラも。

「ひどおい! あたしの絵に、あんな変な落書きをしておいて!」

 うわ、聞きたくない、聞きたくない。いやだから、お前が描いた絵はここにはないのに、どうやって落書きをする事が出来るのか、って公爵令嬢は訊いておられるんだよ! 

「盗っ人猛々しい! よし、そこの騎士よ、を捉えよ!」


 あ、ダメだこりゃ。


「畏まりました」

 配置されているのは、我が国の優秀な騎士団員の中でも更に選抜された騎士達。まあ、そんな彼らに奴を、と言ったら。

「いたあい!何するのお!」

「あ、お前、馬鹿か! 何故・・・・を!」

「我々は国王陛下のご命令により、王太子殿下ならびにその婚約者たる公爵令嬢様をお守りする為にここにおります。然るに、奴とは此奴しかおりませぬ」

 ……うん、そうなるよね。


「……皆、仕事を増やして悪いのだけれど、そっちの奴もふん縛ってくれるかな。国王陛下のご命令。王太子殿下の婚約者に無礼を働いた奴を許さぬ、って仰ってるので宜しくね」

「……畏まりました、殿!」


 ピシッと敬礼、素早く猿ぐつわ、対象をぐるぐる巻にする騎士達。


 うん、皆さん優秀。素晴らしい。

 聞いた? 聞いたよね? お前ら、今の騎士達の言葉。


「むーむーむ!」

 うるっさ。

 ほどいたり縛ったり、と皆の仕事を増やしたら申し訳ないから、猿ぐつわのままでも音声通話可能になる様に魔法を掛けたよ。


「こら、お前は第二王子だろう! 王太子殿下の兄に対して失礼千万!」

「そーよそーよ!」

 お前らは騎士の皆が何て言ったか聞いてないのか。


「いえ、第一王子殿下、貴方様は王太子殿下ではございませんよ?……そして、わたくしの、こ、婚約者でもあられませんし」

 あ、公爵令嬢が否定してくれたぞ。嬉しい!

「はあ? 何を言ってるんだ! 父上、国王陛下が魔法学校入学前に言われただろう? 是非、我が子ながら優秀な王太子の婚約者になってほしい、と!」

「はい。わたくしの家も、わたくしも、喜んでお受け致しました。優秀な王太子殿下、殿との婚約を」


「「うそお!」」

 うわあ。こいつ、本当に自分が王太子じゃない事、知らなかったのか。逆にすごいよ。


 それでは皆様、改めまして。僕が第二王子こと王太子殿下です。


「え、じゃあ、あたしがやった事ってこの頭も魔力も性格も最悪で顔くらいしか取り柄のないただの王子をたぶらかして……」

「うん。国内最大級の公爵家の優秀かつ美麗かつ性格も最高なご令嬢にケンカを売りまくった上に」

「上に?」

「王太子殿下を詐称する最低王子に味方して、国王陛下主催の展示会でやらかして、それを全て陛下にご覧頂いてしまいました、とさ。以上。ああ、あとこれ見て」


 第二王子、実は王太子な僕がじゃーん、と出しましたそれは映像水晶ペンダントという魔道具。

 これは、友好国からの貴重な贈り物。映像と音声を指定した映像水晶に届けられるし受け取れる逸品。陛下の許可を頂いてお借りした物。つまり、全部王宮設置の映像水晶にやり取りは全て筒抜けと言う訳。


「……そういう事だ。現時点で第一王子、お前は既に王家から廃嫡。・・・・は実家から勘当、償いはあたう限りを尽くすので何とか家には寛大なる処置を、と沙汰がきておるが、どうするかはこれから重鎮達と相談する。両名共に、覚悟せよ」

 我が父上ながら、威厳のある立派なお声。貫禄最高。


「「ぐーむーむー!」」

 魔法は解いたよ。元々聞く価値の無い言葉だし。


 後はもう面倒くさいから、父上と家臣の皆さんにお任せしよう。

 それにしても、第一王妃わたくしの王子であっても貴方は王太子殿下ではないのですよ、妹は確かに王太女殿下ですが、とほぼ毎日毎日仰っていた第一王妃様がお気の毒だ。

 まあ、第二王妃である僕の母上とは信じられない程仲良しだし、父上はこれでもか、という位お二人に対して真摯であられるから、何とか第一王妃様と異母妹いもうとに飛び火しない様に僕も努力しよう。


「あ、あの。第二王子殿下」

「はい。何でしょう、僕の婚約者さん」


 まあ、良かったよ。明日の国民の皆への一般開放に先んじて、高位貴族階級の学生だけの内覧会、と言う事にしておいて兄を招待。王太子殿下の婚約者にも勿論招待状を送りましたよ、と伝えたから何かやらかすかと思ったら案の定。他の学生達は気配を遮断してこの茶番を楽しんでくれていたのだ。


 元王子と元令嬢が共が退場したため、皆が芸術鑑賞に戻ってくれた。

 このままあいつをのさばらせたら、卒業パーティーでやらかしますよ、と伝えたら舞台を用意して下さった父上、ありがとうございます。

 そもそも、この茶番は。


「俺は下級クラスなので、特級クラスの食堂は使えない。だからお前がこちらに来るべきなのに何故無視をする! たまには昼食位はご一緒に、と言うべきであろう? 王太子殿下の婚約者としてなっとらん!」

 ……と、王太子殿下たる僕との王宮での講義の帰りに僕と別れた後、元王子に呼び止められたという婚約者嬢の相談から始まったのです。


 僕が傍にいたらとっとと締め上げていたのだけれど、講義の後も共にお茶を楽しんだり、せめて見送ったりをしたいのに、お互いすぐにそれぞれの家で復習を、と言うのが専門講師の先生方のご教示の一つなので出来なかったのだ。まあ、厳しいご指導のお陰で、自分で言うのも何だけれど、な位には僕と元第一王子との差が開いているのだけれどね。

 王室が配備している公爵令嬢の隠密警護達からも同様の報告があり、僕だけではなく異母妹、父上、第一王妃、母上と皆で気にはしていたのだ。


 あ、異母妹は僕達が王、王妃教育受ける時は王配教育を受けています。逆に異母妹が女王教育を受けている時は僕達が王配、王配夫人教育を、という訳。

 それから、魔法学校は身分に関係なく、クラスごとに使用可能な領域があり、最上位の特級クラスはほぼ使い放題だが、下級クラスは言わずもがな。そもそも、自分が何故下級クラスなのかを考えろ。

 隠密警護達に調べてもらったら、下級クラスの区域で中級クラスの女子学生と仲良くしている自称王太子の存在、という知りたくもないが知ってしまったら何とかしないといけない情報が。もうこのまま事実を突きつけて廃嫡でいいんじゃない? という投げやりな父上を説得して、きちんとざまあをいたしましたとさ。


 え、その後? 翌週には、友好国の辺境伯閣下に奴等の身柄を預かっていただきました。何が起こりましても一切文句などございません、と確約の上で、沢山のお礼の品々と共に。

 友好国は平和な良い国なのだけれど、さすがに辺境だけは魔獣とか色々いて危険な所なんだよね。まあ、それでも辺境伯閣下ご一家と領民達は一致団結、いい感じなんだよ。そこにあいつらを放りこんだら、そりゃ好き勝手なんかできっこないよね。ぜいぜいだかせいぜいだか、毎日そんな感じらしいよ。


「それにしても、この絵は素晴らしいね」


 そして、あの下らない1件から一月後、王宮の正面玄関に飾られた、1枚の油絵。学生並びに国民からの投票で決定した、最も素晴らしい作品の前に二人は居る。


「絵は勿論だけど、題名も素晴らしい」

「……わ、わたくしは、その……題名は指導教官にお任せ申し上げたの、です、よ……?」

「うん。でも指導教官はその厳格さで有名な方だから、ご自身がお認めにならない様な作品には題名はお付けにならないよね。……僕が伺ったら、拝見したままですよ、簡単でした。と言っておられたよ」


「題名を読んでも良いだろうか。本当は、僕が先にお伝えしたい言葉だったから」

「!…………は、はい」


「……愛しき人。どうか、僕と末長く共に生きて下さい」


 僕達は将来、王と王妃、になるかは分からないけれど。


 王太女異母妹も「お兄様よりもお義姉様に王配になって頂きたいわ! そしてわたくしが女王よ!」

 とか言っている位だし。


 まあ、あの子はそれ位に有能なのだけれど。


 それでも、どんな形でも僕の隣にいるのは君であって欲しい。


 何しろ、王太子殿下は婚約破棄をするつもりなんか、微塵もないのだからね!














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