第5話 101

 ─手足があるんだ、オシャレにいこうぜ─





「この達磨さん、緋髭達磨あかひげだるまを転ばせてもらいます」


 銀二の声に合わせ祠の前にポンっと間抜けな音と煙と共にそれは現れた。

 その風貌は周囲の景観に似つかわしくないほどにきらびやか。

 パッと見た目だけで言えば“派手な坊さん”。

 赤と金を基調としたその袈裟のお陰でこの空間が明るくなったように感じる。

 そしてよく見れば履き物はスニーカー、手首にはじゃらじゃらとブレスレットや数珠を身に付けていて異様さが引き立つ。

 その格好についての質問もしたかったが、顎髭を撫で片目で二人を値踏みするようにじろりと見るその眼光は鋭く、千秋と霜也に緊張が走る。


「一応、精霊の説明をしておきましょう。精霊とぁっぐぇ!」

 千秋達の前に立つ銀二は付いて来ていた八谷に吹き飛ばされて近くの木に叩きつけられた。

「説明しよう!精霊とは、人の感情や手が入っていない、混じり気爪の先程も無い純粋なこの星の力が形を為した者!強さは言わずもがな!ねっ!銀さん!」

「八谷お前なぁ…」

 よろよろと立ち上がりながら千秋と霜也の前に戻ってきた。

 あの時の凄まじい戦闘を見ていた二人は銀二にあんなことする八谷が一番イカれているとドン引きの目線を送った。


「じゃあ、若いお二人。頑張って転ばせれるだけ転ばせてください。様子は神主さんから報告してもらいます」

 立ち去ろうとする間際、それまで黙っていた緋髭達磨が銀二に声をかけた。


「銀二、約束は守れよ」

「えぇ、覚えていますよ。準備しておきます。八谷、行くぞ」

 銀二は階段を昇る途中、二人の方へ振り返った。二人は既に構えをとり緋髭達磨と相対していた。

「銀さんあんなこと言って良かったの?」

「何が?」

「転ばせるの!新人に出来るの?」

「別に、出来なくてもいいぞ。二人がどんだけやれるか知りたいだけだよ」



 千秋達の心配をしつつ八谷は空腹のお腹を鳴らしながらその場を後にした。


 ────

 緋髭達磨との戦闘開始からまるっと1日が経過した頃、銀二の携帯が鳴った。

 相手は神社の神主さんからで、裏山全体が静かになったと連絡が入った。

 銀二達が駆けつけると山は鳥の鳴き声一つなく静寂に包まれていた。

 先ず目に入ったのは息を荒げて倒れる千秋と霜也の姿。

 次に腕を組み不適な笑みを浮かべて立つ緋髭達磨の姿。きらびやかな衣装は所々破れ焦げている。

 周囲にも燃えた跡や凍って砕けた大木など激しい戦闘だった様子が伺えた。


「あ、銀二さん、おれらやったっすよ」

 霜也は力なくへらへらと笑いながら銀二に親指を立てた。

「そ、そうですか。一度でも転ばせたなら上出来です」


「いや、それは違うぜ」

 緋髭達磨はそう言うと、仁王立ちのままゆっくりと後ろへと倒れた。

4だ」

 倒れた緋髭達磨は赤く光ると推定中老くらいの姿から初老辺りに外見が

 しかし、その変化に当の二人は気付かず。

「っしゃーー!おら!やってやったぞ千秋!」

「よし!よし!よぉーし!やりましたよ!霜也そうや!」

 二人は倒れたまま力強く拳を高く上げて歓喜を山中に響かせた。


「銀二さん、これで文句ねぇよな?!な?!」

「言われた通りの事しかできないと思われたくなかったのでその上をいきました!」

 キラキラとした目線を千秋と霜也は銀二に送ったが、当の本人は苦い顔をして引いていた。


「うわぁホントにやったよこの二人…なに?しかも4回?えー」

「めちゃくちゃ引いてるー!」

「銀二さんですよね言ったの!?」


 倒れたまま騒ぐ二人をよそに銀二は緋髭達磨の元へ紙袋を持って近付いた。


「銀二、良~い感じの奴らじゃあねぇか。約束は残念だが…、久しぶりに楽しかったぜ」

「緋髭さん、そのことなんですが」

 銀二は持っていた紙袋を緋髭達磨に手渡す。

「これは!NEIKIIの幻のスニーカー!しかもこんな良い状態で!」

「受け取りましたね。また、何かあればお願いします」

 銀二はニヤニヤとした笑みを浮かべながら千秋と霜也の方へ戻り神社を後にした。

 戻る途中、後ろから緋髭達磨の呼ぶ声がしたが銀二は一度だけ振り返り、ニヤリと笑って石段を上がっていった。


「まぁいいか、楽しかったし。面白そうなこともありそうだしなぁ」



 ───

 銀二達が最上荘に帰りつくと、千秋と霜也は銀二の前に立ち頭を下げた。


「銀二さん!いや師匠!」

「これからよろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いしますね」

「つーことで千秋!」


 千秋は携帯を取り出すと誰かに電話をかけた。

「銀二さんの弟子になることが出来ました。つきましては、この間お話させてもらった件を実行お願いします!」


 千秋の電話が終わると、八谷の家の方から作業着姿の男達がダンボールや家電を持って次々と最上荘の一階の“101号室”に運び入れていく。

 銀二はあまりに唐突に行われるおそらく引っ越しであろう光景に呆気にとられていると、101号室の扉の奥からアマテラスが満面の笑みで登場した。


「来ちゃった♡」

「来ちゃった♡じゃ、ねぇわ。どういうことだこりゃ」

「銀二さんに弟子が出来ると聞いて!そしたら八谷さんが「うちに住んだらいいよー!」ってナイス提案したもんですから!」

「じゃあ何で師匠のおれに連絡がないんだよ」

「えっ、銀二さん別にここの大家さんじゃありませんし」

「ぐぬぬ」

 ド正論を言われ唇を噛み締める銀二。最上荘の大家は八谷なので当然銀二に関係ない。


「大家のあたしとしてもこのスカスカの最上荘の部屋が埋まるのは嬉しいから」


 八谷が最上荘の大家になった時には入居者はたったの一人、先代大家やアマテラスから聞いていた活気ある時代の面影は欠片もなかった。

 半年前に銀二が入居することになると知った時は本当に嬉しかったと、同時に風向きが変わってく気がした。



「なんだかんだ楽しそうじゃん」

 好きな元上司が居て、歳の離れた弟弟子二人の喜ぶ姿があって、アマテラスが笑う風景が目の前にある。

 ハッピーエンドな最終回みたいな光景に八谷は自然と口角が上がる。


「おい、歯茎見えてんぞ」

「見えてないっ!!」


 八谷は銀二をド突きながらみんなの輪に加わっていった。



 ────


 読んでくれてありがとうございます!!



 達磨は転ぶと強くなるし、少し外見が変化する。


霜也(22)…青髪短髪、井氷鹿祓術、神器は青い宝石のピアス

趣味はゲーム

千秋(22)…赤リーゼント、拳火殺法、神器は赤い宝石がはまった櫛

趣味はソロキャンプ

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