寄道その一  菓子折り

 いやまったく、今回の仕事はほんーーーま疲れた。

「あのじいさん、ほんまダルい」

 タバコでも吸お。

「出雲さん、どうぞ」

 運転していた部下、白木さんが片手でライターの火を点けてくれた。白木さんは自分よりずっと年上の従業員で、尾白商店の古株なんやけど。


「白木さーん、敬語ヤメてくださいよー」

「いえいえ、尾白商店のNo.2なんですから」

「なぁんか距離がなー、遠ぉ感じるやん?もう8年くらい一緒に仕事してんのに」

「もうそんなになりますか。尾白さんが急に連れきて“この子、うちで面倒見るから”って」


 白木さんはあの日のことニコニコと思い出し笑いをしながら、いつの間にか見えてきた尾白商店の駐車場に停車した。


「ありがとな白木さん。みんなも今日はゆっくりしてなぁ」


 地上2階建て地下無限大(師匠の結界術による空間いじり、らしい)の尾白商店の引戸を開ける。

 最近立て付け悪いなぁ。なんか師匠がろうそくを引戸のレールに縫って“これでまだいける”とか言うとったけど。早いとこ修理屋さん呼ぼ。


「師匠ー、今帰りましたよー。スンマセン連絡もせんと」


 店内は橙色の電灯が点いているが薄暗く、足元にはガラクタと間違われてもしゃーない骨董品や用途不明の道具、武器、呪具etc。どれもこれも師匠のコレクションや売り物や。


「おかえり出雲。今日はどうだったかい?家は手に入った?」


 レジの奥の部屋から師匠のハスキーな声が聞こえる。

 奥の部屋からひょこっと顔を出すと、よっこらしょっと重い腰をあげて、師匠の尾白結おじろゆうが姿を現した。

 歳上、何歳かは知らんけど、小柄なの体と童顔、パッつん前髪のせいで全ッ然大人には見えん。

 あとどこかの学校のジャージ。これもう分かってやってるやろ。

「聞いてくださいよー。あの家手に入りませんでした。悪鬼と灯屋が大暴れでもう瓦礫の山ですわ」

「うわー、それは災難だったね。うちの従業員にケガなかったかい?」

「それは大丈夫です。悪鬼が飛び出てきた時点で退避させました」


 事前調査が足らんかったなぁ。灯屋が行ってんのは知っとった。見張りから入った灯屋が出てこんて連絡あったから死んだ思うて、行ったら…。


「あのじいさん厄介やし、ほんで中の二人生きとるし。うまくいかんかったなー」

「ふーん。君が厄介って言うのなら相当デキるんだろうね」

「腹立ちますけどね。じいさんのくせによう動くし、斬撃はあっちゃこっちゃ飛んでくるしで。そうそう!なんや師匠のこと知った風な口振りで…」

 ん、師匠?。話している途中から段々と顔色が曇っていく。


「ソイツさ、白髪で日本刀を持ってて、身長高い?流派は鬼逸流」

「背ぇは高かったですね。杖に刀仕込んでました。あー、そんなこと言ってたようなー」


 ドン!っと師匠はありったけの力を込めて机割るんか思う程の台パンをかました。かと思えばがっくりと床に手をついた。


「なぁんでこの神代町ココにいるんだよ!せっかく東京から九州の田舎に引っ越してゆっくりしてたのに!なんで一緒になるのー!?で!何かした?ちょっかい出してない?!」

「仕事邪魔してきたんで、戦闘に」


 ふつふつと師匠から霊力が沸き上がるのを感じる。こーゆー時の師匠はアカン。

「…いけ」

「え?」

「明日菓子折り買って謝ってこんかい!!」

「ええー!住所とか知らんしー」

「いいから!アイツは、ほんとっ!怖い!とりあえず明日行け。多分町の支部におる」


 翌日、甘味処“蜜雨”で食べ比べ羊羮セットを買って「灯屋 神代町支部」と書かれたボロい看板のアパート行ってじいさんに菓子折り渡した。


「出雲さん」

「なんすか?まだなんかあんの?」

「連絡先、交換してくれませんか?」


 いや、まったく。ほんまダルい。



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