第7話 放蕩なるスカウトマン

 ─100年に一度?いや、1000年に一度を

         おれは見つけたいね─



 新年を迎え、三ヶ日の暴飲暴食が過ぎた1月の中旬。

 雪混じりの雨が降るのを見ながら、銀二は買い物途中で見つけた和菓子屋の軒下にあるベンチで抹茶と名物フルーツ大福を頬張っていた。 

「うまい!甘味処”蜜雨“、なんで今まで気付かなかったんだろうか?いつも通るんだがなぁ」


 銀二は店員さんを呼び八谷へお土産としていくつか大福を頼んだ。


「お姉ちゃん、おれにも同じやつを一つくれ。会計はこのじいちゃんに」


 銀二の背後から聞き覚えのある地響きの様な低い声がした。

 振り返ると、目の前には真冬だと言うのにアロハシャツを着た大柄な男が立っていた。

 男のごわごわした髪は獅子のたてがみの様にも見える。


「よっ!銀ちゃん元気してる?」

「あ、スサノオ」

「ちょっと見ねぇ間にすっかりおじいちゃんになっちまったなぁ、えぇ?聞いたぞ、まだ仕事してるってなぁ」


 よっこらしょっと、銀二の横に座るとタバコに火を点けた。


「まぁな」

「んでもって弟子とったんだって?お前も丸ーくなったなぁ!で、二人はどうだ?」


 スサノオは目を輝かせながらずりずりと銀二の側にすり寄ってきた。


「近ぇ!落ち着け!…あの二人なぁ、まだまだ粗いけど戦闘面なら同世代で頭一つ抜けてるんじゃないか?」

 銀二の二人への評価を聞きニヤニヤしながら聞くスサノオはうんうん、と頷きながら嬉しそうにしていた。


「そりゃそうだろうなぁ。あいつらはからなぁ」

「あんたのスカウトだったか!」


 本来なら事務所の「タカマガハラ」に居ないといけないスサノオだが、外の世界の魅力に取り憑かれ、人材のスカウトを理由に世界中を渡り歩いている。

 スサノオのスカウトは頻繁ではないが、連れて来る人間はどれも一級品。日々様々な場所で活躍している。


「なんか夜な夜な廃墟巡りしてる二人の不良の話聞いてな。見に行ったらアイツら何してたと思う?まったくアイツらときたらアッハッハハ!」


 スサノオはよっぽどだったのか急に思い出し笑いをした。

 銀二はデカイ笑い声に耳を塞ぎながら周囲の客に困り顔で頭を下げた。


「廃墟で鉄パイプ持ってカゲボウシとケンカしてたんだよ!すげぇよな!普通見る力あってもそれに手を出そうとは思わんだろう?」


 スサノオは運ばれてきた大福を口に頬張るとゆっくりと味わい、名残惜しそうに熱いお茶で流し込む。


「だがこの和菓子と同じように、魅力的だった。その身から溢れんばかりの力が。だからスカウトして、戦う術を教えた」

「神器もその時に?」

「あぁ、二人の性格を見て与えた。いい感じだろう?」


 めちゃくちゃ自慢話をされた。

 それだけスサノオもあの霜也と千秋のことを気に入っているんだろう。


「じゃ、そろそろ行くわ」

「もう行くのか。精が出ますね」

「まぁ半分趣味みたいなもんだ。楽しいぞー、パワースポット巡りとか。それよりアレ見てくれ」


 スサノオが指差す先には駐車場に停められた赤い軽自動車があった。


「車移動してるのか?車なんか必要ないだろ」

「おいおいおい!車移動っつう一手間がいいんじゃねぇか。最近の人間は手間とか無駄を嫌うよなぁ」


 まぁいいや。とスサノオはその図体に似合わぬ玩具のような軽自動車に乗って行ってしまった。

 久々の再会なのにあっけなく去っていった。

 別に寂しいとは微塵も思ってないけれど。


「自分をスカウトした時も、あんな感じで自慢話をしたんだろうか」



 ──

 スサノオが去ってほどなくして、霜也と千秋が血相を変えてこっちに向かって走ってきた。


「師匠!今ここにスサノオいなかったっすか?!いたっすよね!」

「絶対いました!消したつもりでもあの人の力の気配は完全には消えない!」


 二人のいつもと違う様子に引きながら銀二は何事かと聞いた。


「「アイツに一発かます!!」」

「は?」

「たった一年間だったけど、何回殺されかけたか!!加減とか知らねぇんすよ!」

「確かに戦い方を教わったのは感謝してます。ただそれはそれ!」


 スサノオに課される無理難題。スサノオ直々の体術稽古。

 二人は思い出すだけで全身がズキズキと痛む。


(多分スサノオのことだからニヤニヤしながら煽ったりしてたんだろうなぁ。威厳を持ってちゃんと接していればこんなことならないだろうに)


「そんな辛かったか。おれはスカウトされただけでスサノオから戦闘は習ってないから知らん」

「じゃあ師は誰なんすか?」

「んー、天狗」

「「tengu?」」

 霜也と千秋は一緒に首を横に傾けた。

「なんだその発音」



「天狗って京都の人嫌いで有名なあの?」

「そうなった経緯聞きたいです」

「やだ、恥ずかしい」


 いくら言っても聞かせてとギャーギャー騒ぐ二人を適当にあしらいながら三人は最上荘へと帰った。


───


読んでくれてありがとうございます!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

銀二さん、再雇用です! @abo24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ