三 夢幻

「──おい! 起きろ! こんなとこで寝てると風邪ひくぞ!」


 次に気がつくと、僕は両親や他の大人達に囲まれ、上から顔を覗かれていました。


 どういうわけか? どうやら本堂の脇で眠っているところを捜していた両親に発見されたみたいです。


「……あれ? ユメコちゃんは?」


「ユメコ? いや、おまえしかいなかったぞ?」


 夢現ゆめうつつに朦朧とした頭で僕が尋ねると、怪訝な顔で父親はそう答えます。


 発見時、周囲には僕以外、誰もいなかったようです……辺りを見回してもユメコちゃんの姿はありませんし……あれは、彼女と出会ったとこからして夢だったのか……僕はなおも夢見心地のまま、狐に抓まれたような心持ちで両親に連れられて家路につきました。


 さて、その翌日以降も昼間にユメコちゃんと会って遊ぶことはあったのですが──。


「縁日の夜? そんなの知らないよ?」


 あの夜のことについて、ユメコちゃんはまるで憶えがないようです。


 では、やはりあれは夢だったのか? それともあのユメコちゃんは……。


 けっきょく、なんとも釈然としないまま、この年の夏休みは終わりを告げ、僕は村を後にしました。


 その後も毎年、祖父母の家には遊びに行っていましたが、年齢が上がるにつれて僕はついて行かないことも多くなり、いつしかユメコちゃんと遊ぶこともなくなりました。


 そうして月日が経ち、大人になった後のことです……。


 久々に祖父母の家へ遊びに行った時にふと思い出し、「そういえば、ユメコちゃんっていう近所の子とよく遊んでたなあ…」という話をぽつりと漏らしたんですが、すると両親はもちろん、祖父母もそんな子は知らないというんです。


 祖父母の話によると、〝ユメコ〟なんていう名前は聞いたことないですし、近所にそんな子のいる家もないみたいなんです。


 あの縁日の夜のこともですが、ユメコちゃんという友達と遊んでいた記憶も果たして現実のものだったのか……それとも、すべては僕の妄想が造り出した白昼夢だったのか……今となっては、もう確かめる術もありません。


                         (縁日の夜に 了)

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縁日の夜に 平中なごん @HiranakaNagon

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