第3話 メンバー紹介と先生からの手土産
「だぁ~、練習にならねぇ〜」
俺は頭を掻く。
やっと部員が7人揃ったので試合には出れるのだが……
いや、言い換えた方がよいかもしれない。
『試合に出れるだけ』だ。
カットする人員がいなければ、試合形式の練習なんぞ、夢のまた夢だ。
せっかく夏休みに突入して、練習し放題だというのに、これじゃあ物足りなさが際立って感じられる。
勇士は、長身に加え、跳躍力の高さで唯一無二の存在だ。勇士を中心にして、ボールを回せばカットさせる確率は大幅に減るだろう。さらに腕力があるので、パスのスピードもめっちゃ早い。まずは、勇士のパスを受けれるようになるのが、課題だろう。俺や隼平は慣れているが、なかなかの威力なので、キャッチするのも大変だと思う。チームメイトが難なく勇士のボールを取れるようになれば、勇士は得点のキーパーソンになるだろう。それがエースになるであろう所以である。
隼平は自慢の足の速さで、カットもパスもオールマイティーにこなす。背はやや高めで、身長勝負であれば、優位に働くだろう。髪は、心持ち長めのストレートである。前髪もまっすぐ下ろしていて、自然と風で横に流れていて、長いまつ毛に被さっている。
須藤先輩は、流石に山岳部員の3年生だけあって、身体は充分に鍛えられていた。筋肉もあるのに、背も高い。
『凄い筋肉っすねー』と話題を振ったときに、照れながら『酒蔵も体力勝負だからね。昔から基礎体力はつけてるんだ』と謙遜しつつ答えてくれたのが印象に残ってる。
有名どころの部活では体力不足だから、山岳部なんかを選んだんだろうと、薄っすらと思っていた自分を恥じてしまった。
同性の俺から見ても、かっこいいじゃないか。
同じクラスの森晃平は、普通の身長に、普通の体系のザ、普通くんだ。父親がキャンプ好きで、昔から山には何回も登ったことがあるらしい。いずれ、富士山のご来光を見に行くのが目標らしい。
そしてもう一人の同級生の真田卓也は、動けるぽっちゃりくんだ。暑そうにタオルで汗を抜ぐいつつ、ハァハァ言いながら練習しているが、決して動きが鈍い訳じゃない。むしろ、パスを落とさず受けている方だと思う。背が低い分、ジャンプ力はないが、その分キャッチミスは、誰よりも少ない。
勇士の弟の聡士は、夏休みの間は将棋部はないので、毎日練習に来ている。流石兄弟なだけあって、聡士も背が高い。
だが、どうにもスタミナがない。
毎日1番に休憩を求めるのは聡士だ。
練習を中断してメガネを外して、顔の汗を拭っているのか視界に入る。
ただ、一応部員のことは考えてくれてるのかもしれない。同じ将棋部の仲間に、勧誘してくれたみたいだ。早速一人、仮入部したいという1年を連れてきてくれた。
それが、佐俣 昊そらだ。身長はやや高め。顔は、女子曰くかっこかわいいらしい。かっこいいのか、童顔なのかよく分からない例えだが、隼平に次いでのイケメン枠になることは間違いないだろう。あまり上手くはないがバスケの経験はあるらしい。というか、バスケのボールを使うとは知らなかったらしい。バスケのボールを見て、微妙な顔をしていたのを、俺は気付いていた。
そして最後に俺、佐久間 陽斗だ。
顔も体格も普通だと思う。残念なことに、身長も体重も平均値といったところか……
運動神経は、悪くはないとは思うけど、ずば抜けて良いという特技もない。
まあ、晃平同様、至って普通なのかもしれない。
中学の頃は、俺等は陸上部に所属していた。
俺は長距離、勇士は砲丸、隼平は短距離という具合に。
勇士と隼平は、パッスパでも充分活かせる経験だが、うだつの上がらない成績しか残してこなかった長距離の俺は、速さ勝負の競技では余り役に立たないだろう。
だが、親友二人がいるから優勝するという夢が見れる。唯一、俺の利点があるとしたら、あいつら二人の考えてることなら、目線で分かる。どこに来てほしいのか、誰にパスを回したいのか……
三人寄れば文殊の知恵ではないが、三人いれば無敵のチームだと思っている。
そんな7月後半の練習日のことだ。
「練習頑張ってるかぁ〜」
普段はほとんど練習を見に来ない保井先生がやってきた。
「あれ、せんせー、珍しいじゃん」
めざとい隼平が真っ先に見つけて声をかける。
普段は、練習前と練習後だけ、体育館に鍵をもってやってきて点呼するだけだ。俺等の練習中は、美術室で個展用の作品を作っている。
俺達の視線に気付いた保井先生は、にかっと白い歯を見せて笑った。
なんだ、なんだ、嫌な予感がする。
失礼な話だが、先生の表情をみて、とっさにそんな感情が湧き上がった。
「練習試合きまったよ〜。相手校から是非にってよ」
先生はぴらぴらと手を振ってみせた。
なぜ、ぴらぴらと音がするのかと言われたら、手に1枚のA4用紙を持ってるからだ。おそらく、届いたFAXだろう。
「「「………」」」
「おぉー!!」
しばらく全員無言だったが、勇士が驚いた声を上げる。
それを皮切りに次々声が聞こえる。
「マジ?せんせー」
「えっ?もう?」
「うそ!?」
「ハァハァ、やったぁ」
「……パッスパ、他校にあったんだ……」
「…僕はまだ入部考えさせて下さい」
俺はというと、目の前が真っ暗になって何も言えなかった。
そりゃあ、こんな変なスポーツの部を作ったのは俺だよ。
いづれ、試合はあるのは分かってたさ。
でも、本番の予選までは試合なんてないと思ってた。
こんなスポーツ、親が取材をしてなかったら、聞いたこともなかったぞ。
勇士や隼平も知らんかったくらいだ。俺の認識は間違っていない。
じゃあなぜ練習試合を申し込んでくる学校があるんだ?もしかして、競合チームが地元にあるのか?
いやいやいやいや、どう考えてもおかしいだろ。
実はメジャーなスポーツとか?
いやいやいや、そんな訳はない。
じゃあ、相手校も俺等みたいにビギナーズラックを狙ってる?それを目論んて部を興した?
いやいや、どこで知ったんだよ!
じゃあ、なんでだ〜!!
俺が頭の中をぐるぐるさせてパニックに陥っていると保井先生がはにかみながら、ほっぺをかいた。
「私、臨時講師として他校でも教鞭をとってるんだけど、ちょうどその学校でその話題を出してね〜。私学なんだけどね。校長が偶然その話を小耳に挟んで、『話題づくりにちょうどいいなぁ』と乗り気になっちゃってさぁ。来年の入学生用のパンフレットに載せようと意気揚々になっちゃったのよ」
先生が犯人かっっ!
俺は思いっきり恨めしげな視線をおくってしまった。
その気配に気づいたのか保井先生は気を取り直したような表情で、
「まぁ、近くの高校やけど、あっち側、ほら、他県やからっ。予選では当たることはないから」
と指を山側に指して言い訳を言うのだった。
まぁ、他県なら、良いとするか!
それに先生の言い方だと、寄せ集めで作ったような、できて間もない部だ。夏休みもちゃんと練習してる俺等からしたら、蟻のようなもんだろ!
よーし、本気で練習してる俺等の力を見せつけて、踏み潰してやるぜ!
俺は心の中でガッツポーズをした。
「陽斗、善からぬこと考えてるやろ?」
不意に勇士から声をかけられて、ビクッとなってしまったのは言うまでもない。
やばい、やばい、顔に出てしまってたかっ。
ちょっと恥ずいな……と反省してしまった。
それから5日後の7月29日、練習試合は始まった。
相手校は、隣の県の吹山高校である。
俺達は8人で挑む。ユニホームはなく、体操服の8人組だ。学年によって、体操服の色は違うので、3色に色分けされた不思議なチームだ。
対する相手校は、私学のおしゃれな体操着の上に、急遽作ったのか、学校の紋章入りのゼッケンをつけている。遠目にみても、一人やたら背のでかいやつが突出している。そのノッポくんが、1番のゼッケンを付けていた。
いーなぁ、お金のある学校は……
パッスパの実績も実力も無いくせに、お金はかけるんだな。
これが公立と私学の差なんだろうなと、顔をしかめてしまった。
5日の間に、俺達は後輩の昊に頭を下げて部に残留してほしいと頼み込んだ。バスケのボールを使う以上、やはりバスケの経験者は捨てがたい。
最初は頑なに練習試合を拒んでいた昊だったが、俺等先輩からの圧と、バスケとは似ても似つかぬルールに仕方なく折れることになった。しかし、まだ正式部員ではなく、仮入部のままという条件を出されたのだが。
その日俺は自分の考えが甘かったことを、しかと思い知ることになるのだった。
パッスパ @MIKU-2nd
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