第2話 部員勧誘
今日正式に部として認められた。ボールは予算の都合二個しか買えなかった。それでも、部の成立までトントン拍子に進んだのは奇跡だろう。部長は、言い出しっぺの俺が引き受けることとなった。
そして、今日、新入生に向けての部活紹介のオリエンテーションがあったのだが……
「なんで誰も見学にこねーんだよ。」
俺は地団駄を踏む。
「マイナーだからな」
勇士がさも当然のように理由を述べる。
「誰もこなさそうじゃん。やっぱり、可愛いマネージャーがいないと無理じゃね。彩良ちゃんに頼んでみたら?」
隼平が難題をいう。
部員集めですら苦労してるのに、どうやってマネージャーを集めるんだよ。そもそも、彩良は無理だ。分かってるくせに。彩良は、俺の幼馴染で、家は2軒先だったりする。幼稚園の頃は毎日のように遊んだが、小学校に上がってお互いに友達ができてからは、ほとんど遊ぶことはおろか、会話すらも減っていた。いや、普通に挨拶程度ならするんだが、昔のように、秘密基地を作ったり、内緒話をしたり、悩みを相談したり、二人だけのパスワードを作ったり、そんなことはしなくなった。
それに彩良は、現役の水泳部なんだから。
水泳部と、マネージャーの兼部など無理に決まってる。そもそも、彩良に頼むことなんか恥ずかしくてできねーよ。
「パス練習でもしようぜ」
勇士がボールを拾って、ドリブルしだした。
「仕方ないか。今日も三人でパスかぁ。でもさ、陽斗は気づいてねーかもしれないけど、このスポーツってさぁ、ちゃんと練習するには選手七人とディフェンダー五人で十二人必要なんじゃないのか?」
「うっ……」
隼平め、鋭い。
確かに薄々気付いていた。試合形式で、練習するには最低十二人必要ってことは。
でも、十二人なんてどうやって集めるんだよ。できるものなら隼平がやってみろよ。
「……ケ・セラ・セラだよ……」
俺は恨みがまじい目を向けて、ボソリと呟くことしかできなかった。
「だぁー、なんで一週間経っても新入部員が来ないんだよ」
俺は頭を掻きむしって悪態をついた。
もし、公式試合の2ヶ月前までに人数が集まらなかったら、廃部も覚悟してほしいと顧問の先生には言われていたっていうのに。
全国大会の予選は9月には始まるので、1学期中がタイムリミットなので、焦りが悪態へと繋がる。
「やっぱ、一年だけを勧誘対象にするのが悪いんじゃないの?」
隼平が体育館の床に寝そべりながら、顔だけをこちらに向けた。
さらっとした、ちょっと長めの前髪が垂れる。
それから、長いまつ毛の目を細めて、ニコッと笑い、手を振る。もちろん、俺に向けてではない。俺の後ろの体育館の扉の影から覗いている、女子に向かってだ。
あれは一年なんじゃないか?どうやって、一年と知り合いになったんだか……
そう、俺から見ても、隼平は背も高く、イケメンでモテていた。
隼平みたいにチャラいキャラになりたいって訳じゃないけど、やっぱり俺だってキャーキャー言われたいなぁ、心の中で微かな願望を抱きながら、横目で隼平を見遣った。
「なぁ、俺からあの子たちに誰か部活探してる奴知らないか聞いてみようか?」
隼平がすくっと立ち上がり、駆けて行った。
おいおい、まだ聞いてくれとも頼んでないのに、もう扉まで到達している。
こういうとこは、マジで羨ましいわ!!
臆することなく、知らない女子に話しかけられる度胸がよっっ。
「あいつ、女子にはすげーフットワーク軽いな」
勇士も俺と同じことを思ったのか、ボソッと呟いていた。
「おーい、陽斗、勇士、こっち来いよ。部員見つかるかもしれねー」
しばらくして、隼平の声が聞こえてきた。入口付近で女子と笑顔で喋りながら手招きしている。
「行ってみるか」
「そうだな」
勇士に聞かれ、俺も同意し、早足で向かった。
「え……えっと先輩、さっき、少しに早めに通りかかったんですけど……」
バツが悪そうな顔をしながらポニーテールの女子が代表して話す。ちょっとくせ毛もあるのだろうか。馬のテールみたいに、ふわんふわんになびいている。でも、可愛らしいタイプではなく、しっかりしたお姉さんタイプだった。もう一人の女子は、セミロングの髪を下ろしたストレートヘアだ。恥ずかしそうに俯いている。こちらの方は背も低く、小動物のように可愛らしい。
通りかかったんじゃなくて、隼平の出待ちでもしてたんじゃないのか?というツッコミはとりあえずは、横に置いておこう。
それに続きも気になるしな。
「ちょうど山岳部の先輩達の会話が聞こえてきたんです、ねぇ?」
ポニーテールの女子が、セミロングの女子に同意を促した。
それに応じるかのように、ウンウン頷きながらセミロングの女子が答える。
「はい、そうなんです。山岳部の活動って、1年に数回しかないらしくって。でも体力は登山には必要だし、兼部できるならハッスパ部に入りたいよなぁ……って話してました」
「えっ?そうなの?」
俺はセミロングの女子に確認する。
「はい!」
その子は隼平の方を見ながら返答した。
『なんでかなぁ……質問したの俺なんだけどなぁ』
心の中でそう思ったが、『これもいつも通りのことだな』と達観した矢先、隼平が俺を小突いた。
「噂をすれば……だ」
目線の先を見れば、登山部の一人で、俺と同じクラスの森晃平が体育館にやってきた。
「ちょっと聞いてくる」
俺はそう言い残して、その場を立ち去った。
結果から言うと、山岳部の全員の入部が確定した。全員と言っても、山岳部は三年生1人、二年生2人の部だったので、合計3人の入部が決まったことになる。
三年生は引退なのではと思い聞いてみたら、家業を継ぐので、進学はしないそうだ。
その分ギリギリまで部活動に打ち込めるらしい。
三年生の須藤先輩の実家は酒蔵だそうだ。
「これで試合には出れそうだな」
俺は学校帰りの通学路で勇士に含み笑いでそう言った。
「陽斗おまえ、聡志を一人の部員と見なして言ってるだろ?」
勇士は横目で俺をじとりとみる。その後溜息をついて、観念した表情を浮かべた。
「一応、勇士には頼んでみた。兼部で良かったら、入部してくれるそうだ。もう片方の部活動がない日だけ練習にも参加するってさ」
「さすが、勇士」
俺はニカッと笑う。
「でさ、聡志は何部にしたん?」
隼平が尋ねる。
「……将棋部」
「女子いねーじゃん。遊びに行こうと思ったけど止めだな。あーあ、マネージャーいたらなぁ」
「そこかよ!!」
「……同感」
隼平はやはりブレずにそんなことを呟き、俺たちは笑い合って、帰路についた。
その頃は、こんな日々がずっと続くものだと思っていた。
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