パッスパ

@MIKU-2nd

第1話 頂点を目指して

『さあ、いよいよ、決勝戦が始まります。長い予選から勝ち抜いてきた各代表校の中から、今日ついに優勝校が決まります……さあ、第一回パッスパの高校選手権の優勝はどの高校が勝ち取るのでしょうか!?』

放送部のアナウンスが流れている。

会場も熱気に包まれ、アナウンスは聞き取りづらかった。

いや、聞き取りづらいのではない。

俺たちは興奮と緊張で、アナウンスを聞いているような精神状況ではなかった。

なぜなら、決勝戦に進出するチームの片方が、俺たちの高校だからだ。

パッスパとは、数年前に作られたニュースポーツだった。

まだ、世間にも全然浸透していない、知名度は底辺のスポーツである。

俺は部の申請当初を思い出した。当時、高校にはパッスパ部は存在しなかった。というか誰も知らなかった。

だからこそ、俺はパッスパ部を作ったんだ。

パッスパ部なら、日本一を目指せると思ったから。

俺は運動神経も良いと言う訳ではない。中くらいの運動神経だし、特筆して、足が速いとか、ジャンプ力があるとか、そんな能力もない。そんな僕でも、日本一を目指せるとしたら、超マイナーなスポーツしか思いつかなかった。

それに今年から、高校選手権も始まったのも、大きなきっかけだった。父さんはローカル紙の新聞記者で、マイナースポーツの取材をしていた。それの取材手帳を見て興味を持ったのが始まりだった。さっそく、父さんに確認すると、今年から高校選手権が始まるらしい。普通ならスポンサーなどつくような競技ではないのだが、奇特な企業が名を挙げ、開催することになったらしい。


俺は最初甘く見ていたんだ。

どうせ、こんな競技に参加する高校など、たかが知れていると……

予選なしで簡単に代表校になれるだろうと……

本戦でも、せいぜい10校程度しか集まらないだろうと……

中には代表校が存在しない都道府県もあるだろうと……

ちょっと遊び半分で参加して、優勝でもしたら、モテるんじゃないかと……


実際はそんな楽観的な予想とは程遠い道のりだった。だからこそ、余計思う。

運良く、優勝でもしたらラッキーと思っていた過去の自分を殴ってやりたい。

今俺たちはなんとしても優勝したいんだ。その為に練習を重ねてきた。戦略も練ってきた。コーチも監督も存在しないスポーツで、僕らなりにお互い意見を交わし、試行錯誤してきた。

そりゃあ当然色んなことがあった。

運で優勝などできる訳はなかったんだ。


「皆、絶対に勝つぞー!」

「「「おー!!!!!」」」

円陣を組んで、お互いを鼓舞する。そうすることで、緊張がいくばくかは解れると踏んでいた。

……が、予想に反し、緊張はどんどん高まっていく。けれども嫌な緊張感ではなかった。

心臓は張り裂ける程にバクバク鼓動しているし、手のひらからは猛スピードで汗が溢れてくる。ただ驚くことに、その緊張が心地よく感じられた。きっと皆も同じ気持ちだろう。

僕は皆の顔を1人ずつ見渡す。

目を見るだけで皆の気合いや緊張が伝染する。

僕は自然と言葉を発していた。

「俺たちは絶対に勝てる!!負ける訳にはいかない。特に、海北には負けれない!俺たちの目の前には優勝トロフィーが待ってるんだ!!」

「そうだ、部長の言うとおりだ。優勝トロフィー持ち帰るぞー!!初代優勝校という栄光は我らが飛賀高校のものだ。絶対にうちが持って帰るぞー!!」

「「おー!」」

「もちろん!」

キャプテンが俺の言葉を引き継ぎ、再度皆を鼓舞する。返事は各々で返ってくる。言葉を発さなくウンウン頷き返すチームメイトもいた。

俺は確かな手応えを感じていた。

最後の試合が今まさに始まろうとしていた。



〜半年前〜

「パッスパって何だよ?」

「だからニュースポーツなんだって言ってるだろ?」

俺はイライラしながら返答する。

何回、同じ説明したと思ってるんだよ。

「ますます、意味わかんねーよ」

親友の勇士が顔をしかめて言う。

まるで、何寝ぼけたことを宣っているんだとでも、言いたげな表情だ。


「さっきも言ったろ。今、部を作ったら、半年後の高校選手権に間に合うんだって。マイナースポーツなんだから、ちょっと練習したら優勝間違いなしだって」

俺は必死に勇士を説得する。


「なあなあ、さっきから聞いてたんやけど、ホントに優勝は楽勝なんだろうな?俺は別に面白そーだからやってもいいけどさぁ、いざやってみて、予選敗退とか笑えねーからな」

もう一人の親友の隼平がお弁当のおにぎりグイッと飲み込んでから、快諾してくれた。


良かった。隼平の了承が取れたことで、俺はホッと胸をなでおろす。

そうこの部の設立には、帰宅部である二人の親友の協力が不可欠だった。

隼平は名前のごとく、足が速い。きっと、試合での突破口になってくれるだろう。

そしてもう一人の親友の勇士は、ジャンプ力(跳躍力というべきか)が高いうえ、腕力も十分あった。間違いなく、パッスパではエースになれるだろう。

それに、隼平が了承したのなら、勇士を説得する難易度はぐっと下がるだろう。

僕たちは、小学校からの幼馴染で高校二年の今までずっと一緒だったんだから。一人だけのけ者は嫌に決まってる。


「なあ、勇士。僕たちさぁ、高校二年じゃん。別に部活動に青春を捧げるってタイプでもないし、帰宅部で過ごしてきたじゃん。でも、ちょっとぐらい自慢できるようなことしてみたくね?パッスパなら、二人がいたら優勝は楽勝だって!」

僕は必死に力説する。そう、部を作るための最初のミッションは、この二人の説得にかかってるんだ。


「それって、面白くねーだろ?なんか、ルール聞いてたけど、つまらなさそうだったぞ。ボールをパスするだけだろ?」

勇士が首をかしげながら言う。

「いや、だからこそ楽勝なんだって」

俺は必死に食らいつく。

勇士の分析は正しい。このスポーツの攻略法は正確に素早くパスを回すことにある。

「パスさえできたらいいんだよ。勇士の跳躍力と力強いパスがあれば、鬼に金棒なんだって。それに隼平のスピード。足の速さを活かしてコート内で錯乱させてくれよ。後生だってぇ〜、頼むよ〜。きっと、勇士はエースになるよ。なっ、なっ、やってみようぜ」

僕は両手を顔の前で合わせて、お願いのポーズをする。これでも了承が得られなければ、この部作成のバードルは高くなる一方だ。


なぜなら、飛賀高校の校則では、部の作成申請には、最低三人のメンバーが必要だったからだ。最低三人集まらなければ、部の申請すらできない。


「まあ……そこまで言うんならやってみてもいいけど……。よし、高校生活の思い出にいっちょやってみるか!」

最初は少し歯切れの悪い返事だったが、後半は力強い了承を得られた。


こうやって俺らのパッスパ部はスタートしたんだ。



「でさ、もう一度聞くけど、どんなルールなんだよ?単にパスすればいいのか?」

勇士が炭酸飲料を飲みながら、俺に確認してきた。隼平もお菓子を食べながら興味深そうに聞いている。

今日は土曜日で学校は休みだったので、俺の家に集まっていた。

俺は自分なりに集めた資料を取り出した。

といっても、ほぼ父さんが集めた資料である。

「そう、パスすればいいだけ。楽勝だろ?ボールはバスケットボールでよいみたいだな。コートもバスケットと同じ大きさで良いらしい。1チーム最低七人は必要だな。七人いないと試合にも出れない。俺たちの次の課題は、あと部員を四人集めることだな。」

俺はルーズリーフのメモに、大きくあと四人と書き込み、まるで囲った。


「コートはどうすんだよ?バスケット部が使ってるじゃねーか?それにボールも分けて貰える目処はあるのか?」

隼平が当然の疑問を発した。

俺は、昨日担任の先生に相談した内容を思い出した。

担任の保井先生は、美術が専門の先生である。外見は眼鏡にパーマの女性の先生で、一つに結んだ髪の後ろをバレッタで留めている。結構、はっきりと物申すタイプの姉御肌のタイプだ。


「昨日、保井先生に確認したんだけど、部として認められたら、部費が下りるんだと。そんなに部費はないらしいんだけど、ボール二、三個くらいなら買えるって言ってたぞ。もし、県の代表に選ばれたら、全国大会の遠征費用は別途、出してもらえるらしい。コートはバスケット部が使ってるから、無理なんだけど、ちょうど旧体育館があるだろ?」

「ああ、あの解体予定のやつなっ」

隼平が相槌を打ってくれた。テーブルに膝を付きながら菓子を食べてるが、話はちゃんと聞いてくれているようだ。

俺は横目で確認しながら話の続きを始める。


「そうだ。今は、登山部の倉庫になっているが、ニコート中、一コートなら空いているらしい。解体は来年の春らしいから、あと一年は大丈夫だな。まあ、来年は俺らも受験だし、今年さえ使えたらいいだろ?」

俺は指でトントンと軽くテーブルを叩き、旧校舎と書き加えた。


「おいおい、俺たちはあと一年使えたらいいけど、その後はどうすんだよ?その後は練習場所無いじゃん!」

隼平が苦笑しながら、全うな質問をする。


「いやいや、あんなマイナースポーツ、誰もしないだろ?きっと、俺らで最初で最後だよ。優勝したら、廃部にして受験勉強に専念したらいいじゃんか。あっ、それといい忘れてたけど、顧問は保井先生がしてくれるらしいぞ。美術部と掛け持ちで良かったら……だと。それと、顧問にはなるけど、指導は全く出来ないから期待しないで……だと」

俺は笑いながら返答する。

そのときは、本気でそう思っていた。

一年で終わらせようと……。誰も、この部を引き継ぎたいと思わないと……。

だからこそ、安易に考え、実行に移せたのかもしれない。もし、難しく考えていたら、部の作成なんて大それたこと実行に移せなかっただろう。

猪突猛進とは言い過ぎかもしれないが、ほぼノリで、勢いにまかせて、やってしまったんだ。


「で、肝心のルールはどうなんだよ。もっと詳しく教えてくれよ」

勇士が身を乗り出してルーズリーフを覗き込んだ。つまらないとスポーツだと揶揄しながらも、ルールはちゃんと覚えてくれるようだ。

俺はニヤッと笑い、もう一枚のルーズリーフを取り出した。見やすいように、コピーしておいたので、それぞれに渡す。

「ルールは単純だ。ただ七人でパスを回すだけだ。ブロッカーとして、相手チームから五人選ばれる。計十二人でコートで試合をする。前半戦15分、休憩10分、後半戦15分だな。前半戦は片方のチームのポイント加算タイムで、後半戦はもう片方のチームのポイント加算タイムとなる。ただ、バスケットとは違って、一人が得点すればいいってわけじゃないんだ。七人全員がパスをキャッチして初めて、得点となる。例えばだな、これを見てくれ。」

俺はルーズリーフの例を赤のボールペンで指し示した。


例はこうだ。

パスを受けた回数。

A 35回

B 20回

C 40回

D 15回

E 18回

F 23回

G 25回


「この場合、Cは40回パスを受けているにも関わらず、Dのパスを受けた回数の15回で計算される。即ち、15回×3点で合計45点だな。全員に、パスを行き渡って、初めて得点になる。要するに、一人だけパスを受け続けても勝てない。また、ブロッカーとして、相手チームから5人選ばれる。ブロッカーは、パスを止めることしかできない。もし、AからBへのパスを止められたり、取られたらBのパス受け取り回数は加算されない。パスを止めた敵チームは、ボールをすぐさまAに返却しなくてはいけない。その間、タイマーは止まる。ブロッカーは故意に長くボールを持っていたら、イエローカードの対象となる。ここまでは分かるな?」

俺は、二人を見渡した。

始め適当に聞いていた二人の表情は真剣なものになっている。やはり、やるからにはルール違反で退場とか格好悪い真似はしたくないのだろうと俺は考えた。

「戦略としてはこうだ。パスの上手い人が、パスを繰り返しながら、他のメンバーに渡すって感じだな。こんな感じにな」

俺は2つ目の例をボールペンで指し示した。

そこにはこう書かれている。


A→C→B→A→C→D


「Dがパスが下手なら、上手いACが中心となり、Dにパスを回さなくてはいけない。パスは最低、1メートル空けないといけないから、手渡しは無理だな。ボールを持った者の移動はドリブルで、何回でもドリブルは可能。ブロッカーは、ドリブルのカットは出来ない。あくまで、パスのカットのみしかできない。ドリブルのカットは、ブロッカーチームのマイナスポイントとなる。また、パスをカットする度、ブロッカーのチームに1点が加算される。あとは……試合開始直後のパスと、カット後のパスの際はブロッカーは2メートル以上離れなければいけないってことだな。あとの細かい説明は、明日の放課後実践しながら説明でいいよな。まあルーズリーフにも書いてるから、読んでみてくれよ」

と締めくくる。


「まあ、それはいいんだが、あと四人いるんじゃないのか?」

勇士が痛いところをついてくる。

ああ、それくらい分かってるさ。宛がないわけじゃ無いんだけどさぁ……。と、そこで俺は考える。どうやって切りだそうかな。

「なぁ、勇士。お前、弟いたよな?年子の。確か、うちの高校に受かったんだよな?」

「……ゴホゴホ」

それを聞いた勇士はぎょっとした顔をして、炭酸飲料を詰まらせた。

嫌そうな顔をしながら、口元を袖で拭いながらじとりと俺を見た。

「まさか、聡志まで巻き込むつもりか?いやあいつは無理だろ。向いてねーよ。お前もしってるだろ?あいつは文化部タイプだって!もうとっくに入る部活も決めてるよ」

勇士は少し声を荒げながら俺に言った。

そんなこと俺だって分かってるさ。でも、人数を集めないことには試合にはでれねーんだから、背に腹は変えられないだろ。

「じゃあこうしようぜ。もし、六人しか集められなかった時だけ、お願いしてくれよ。もちろん、文化部との兼部もおっけーだし、文化部の部活がないときだけ、顔を出してくれたらいいからさ。それなら頼みやすいだろ?」

俺は必死に食い下がる。ここで人数を集めないことには本末転倒だ。

「なあ、頼んでみたらどうだ?それに、聡志だって、運動神経は悪いって訳じゃなかったじゃん。」

隼平も助け舟を出してくれる。

俺たちは、勇士と一緒に弟の聡志とも遊んだことがあった。だから、お互いに多少は面識がある。俺から直接頼んでも良かったんだが、ここは勇士から頼んでもらいたい。なんだかんだ聡志は、兄である勇士を慕っていることを俺たちは知っている。

上手くことを運ぶためには、勇士に頼むのが賢明だろう。

あと三人だ。三人集まれば、あとは優勝するだけの未来しか見えない。俺ははやる気持ちを抑えつつ、部員勧誘について考えた。











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