取り戻した日常は最高のフィナーレへ
「それでですね! 兄さんは本当にかっこいいんです!」
「うむうむ。ご主人のことだし私も良く分かるぞ」
「永遠さん話が分かりますね!」
「……雪は本当に可愛い奴だな」
夕飯を済ませてから……いや、マンションに帰ってからずっと騒がしい。
その原因というのが雪と永遠になるんだが、本当に一瞬で仲良くなりあんな風に仲睦まじい様子を繰り広げている。
「二人とも、すっかり仲良くなったわね」
「そうだな。ま、嬉しいことだよ」
俺の刀と雪が仲良くしている……文字だけ見るとなんのこっちゃって話だが、相棒が自我を持ち人としての姿を持っているからこそ実現している。
相棒は雪のことが可愛く仕方ないらしく、今日は一緒に寝ると言って聞かない。
「二人が寝る場所はどうしようかしら……」
「俺と刹那はいつもの寝室だけど、二人には俺の部屋で寝てもらうつもりだよ。つうか相棒の奴、何気にずっと顕現してるんだよな」
一日に少ししか姿を見せることは出来なかったはずなのに、ダンジョンの意志との対決を経て……いや、その少し前に記憶を取り戻したことがきっかけとなりああやって外に出ていられる時間が増えたらしい。
「ダンジョンもそうだけど、そこから生まれるスキルってのも不思議だなぁ……」
「そうねぇ」
それからしばらくのんびりとした時間を四人で過ごしたが、疲れの影響か雪が大きな欠伸をして凄く眠たそうにしている。
相棒が抱きかかえるようにして雪を俺の部屋に連れて行ったが、あれだけ見ても本当に仲良くなったことは疑いようもない。
「私たちはどうする?」
「そうだな。まだ寝ないにしても寝室に行くか」
明日はまた出掛ける予定だし、英気を養う意味でも早々に横になろう。
寝室に向かってすぐ、刹那がギュッと抱き着いてきたがこれは別にこれから大人の時間を過ごそうという合図ではなく、単純にあんなことがあったせいで刹那がやけに不安がってしまうせいだ。
「はぁ……あれから何日も経ったのに、私ったら情けないくらいに怖いの」
「分かってるよ。もうあんなことがないって言えるけど、だからと言って俺から刹那に離れろなんて言えない……というか、むしろずっとそうしてくれ」
「……ふふっ、何よそれ」
日中はともかく、夜の寝る前というのは風呂の次くらいにリラックスしている。
そのせいもあってこうやって刹那と抱き合っていると落ち着くし、色々とドキドキもして大変気分が良くなる。
(……こうやって抱き合うと……ねぇ)
刹那の温もりだけじゃない……男ならば求めて止まない大きな二つの膨らみだったりと、それが体に触れてくるのだからずっとそうしてくれって願うのは当然だ。
俺の内心を知ってか知らずか、クスクスと機嫌良さそうに笑う刹那をお姫様抱っこするように持ち上げ、そのままベッドに連れて行った。
「明日も楽しみね凄く」
「あぁ……なあ刹那」
「なあに?」
名前を呼ぶと刹那は俺を見上げた。
真っ直ぐと俺を見つめる彼女……その瞳には絶対的な信頼と安心が宿っており、それだけ俺に対する強い想いが窺える。
「あれから何日も経った……何度もお礼を言った……それでも、何度も伝えたいくらいに刹那には感謝してるんだ。ありがとう――俺を助けてくれて」
「何を言ってるのよ。愛している人を助けるのは当然だし、私だって瀬奈君には何度も助けられたんだから」
俺が刹那を助けたことなんて数えるくらいしかないだろうに……でも、そうかと俺も刹那と同じように笑って頷いた。
もう二度とあんなことはごめんだが……でも、狩りにまたあんな事態に陥ったとしても何も心配はない――俺には頼れる最高のパートナーが居るのだから。
「だから瀬奈君は安心して良いのよ」
「分かった。なら刹那も安心してくれよ? 何があっても俺は守るから」
「えぇ。頼りにしてる♪」
そう言って刹那は俺の頬にキスをした。
さて、ここまで言ったのだからもう逃げられないぞ瀬奈? 今後、何があってもお前は自分の大切な女の子を守り続けるんだ。
自分のことなのにあたかも他人に問いかけるように心の中で呟く。
その問いに対する答えはもちろん是……俺は絶対に、何があってもこの手の中にある幸せを守り続け、絶対に取り零さない……絶対にだ。
「……刹那」
「何がしたいのか分かるけど、聞いても良い?」
「もう少し今日は刹那とイチャイチャしたいかなって」
「良いわよ。また後でお風呂に入らないといけないわね」
その日の夜、俺たちはもう少しだけ幸せな時間を過ごすのだった。
▽▼
この世界にダンジョンが生まれたことで、人々は否応なく適応することを余儀なくされたが……それは確かに多くの問題を抱えたものの、しっかりと順応するくらいにダンジョンは世界へと馴染んだ。
俺たちはもちろん、他の学生だったり大人たちもそれは変わらない。
「瀬奈君!」
「あぁ!」
そして今日も、俺は刹那と共にダンジョンに挑んでいた。
元々特に目立つつもりはなかったが、強い力を持てば必然的に周りの人間に知らしめることになってしまい、かつての思惑に反するように俺は刹那の隣に並んで恥じない存在だと証明するため、全てを曝け出した。
「お疲れ様」
「おうよ。刹那もお疲れ」
妹を助けるため、レギオンナイトという漫画のキャラクターに憧れた一心で俺はここまで強くなれた……もちろん強くなるためだけじゃなく、多くの大切な仲間と出会い、掛け替えのない時間を過ごすことが出来た。
ダンジョンは人々に恩恵を齎すが、同時に牙を剥く……恐怖を与える。
それでもダンジョンが俺に齎してくれたのは決して手放したくないと願う宝物……だからこそ俺はダンジョンに……全ての運命にこう言いたい。
“ありがとう”
そう一言、伝えたいんだ。
「今日は何を作ろうかしらね」
「う~ん……ハンバーグで!」
「分かったわ。最高に美味しいハンバーグを作ってあげる!」
そして今日も、俺はそんなダンジョンが存在する日常を愛する人と生きる。
ずっと守ると誓った存在をこの手の平から零さないように……俺はもっと強くなるために、大好きな人と未来に向かって歩き続けるのだ。
【あとがき】
ということで、今作はこれにて完結となります。
いやぁ随分と長い間続いたなと不思議な気分になっています(笑)
初めての現ファってことで甘い設定はいくつもあったんですけど、これもまた一つの学びということで次に活かしたいと思います。
150話近く続きましたけど、ここまで付き合ってくださり本当にありがとうございました!
また別の作品でお会いしましょう!
普段は見せない武器で無双するキャラクターに憧れた男の探索者記録~力を隠すその探索者は刀を握れば最強です~ みょん @tsukasa1992
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