学校の怪談には地下室がある

嘉矢獅子 カヤ

ここにケーキはないが狂気はある

 寝起きの人間たちを嘲笑うように照り付けてくる太陽下、制服を着た学生たちは自転車を漕ぎながら門へと入っていく。期末テストも終わり夏休みまであと数日、彼ら彼女らにとって至福の時間であり、惰性の時間である。


 教室に入ると数人のグループに分かれたクラスメイトが夏休みの予定を話し合っていた。高校二年生にもなるとほとんどの人間は学校生活にも慣れるようで、始業20分前に来る人はいつも早めに来ている人や電車の関係で早く来ざる負えない人以外は始業ギリギリに来るためまばらだ。


 僕は自分の席にカバンを置き、トイレで汗を拭く。7月下旬にもなると気温の上昇が無視できないものとなっており、自電車で10分の距離でも汗をかくからだ。


 汗を拭き、教室へ戻る。静まっていた校内は徐々に朝特有のせわしなさを見せる。教室に入ると登校してきたクラスメイトの人数は増えており、会話を楽しむ人、今日の小テストの勉強をしている人など、学校ならではの用事をこなしている。


「お、たつみ。明日の夜空いてないか?」


 僕に話しかけてきたのは小野翔(かける)。小学生からの友人で誰とでも親しくなれる性格はクラスを超えて人気がある。僕は引っ込み思案な性格をしていると思っているがそんな僕にも話しかけてくれた。


 僕は自分から積極的に話せない。だから、友達も少ない。翔とは共通の趣味があって友人という関係を続けている。それは、『オカルト』だ。幽霊や予言など超常現象に興味があった僕たちは高校生になるとオカルト同好会を立ち上げ、幽霊屋敷などの心霊スポットを回るようになった。


 もちろん、幽霊を見つけるために活動する。そのために活動時間が夜になり、翔が明日の夜の予定を聞くということはオカルト同好会の活動をするということである。


「空いてるけど…近場に心霊スポットなんてなかったと思うけど?」


 翔は相手側の気持ちを考えられる人間だ。心霊スポット巡りだって遠い距離にある場合、十分な時間と計画を練ってから行く。翔が明日ということは近場ですぐに帰ることが出来る場所に行くということだ。


「よく言ってくれました!!実は最近遅くまで残っている部活のやつらの体力が戻らないって話をよく聞くようになってよ。」


 翔は顔を近づけて小さい声で話し始めた。学校の話題を振ってくるということは今回のターゲットはこの高校ということだろう。流石に学校の中で、深夜の学校に不法侵入する計画を立てるのはよろしくないと判断したのだと思う。


「それは気温が高くなったからじゃないのか?年々気温が高くなってきたからな。」


「いや!!そうゆう奴じゃないんだって。芸術部とか文化系のやつもいってるやつ多くてさ。なんなら文化系の方が言ってるが多いんだ。」


 文化系の部活はクーラーの効いた教室の中ですることが多いので夏バテという線はないだろう。文化系ということで肉体的な疲労もあまり考えにくい。


「それによ、遅くまで残ってたやつが何かを引きずる音が聞こえてきたって言っているやつがいるし、最近警備員さんがいなくなったって言っている先生もいたぜ。」


 それだけ不思議なことがあるのであれば夜の学校に行ってみてもいいかもしれない。


「少し興味が出てきたな。明日行く予定なんだろ?俺は行くよ。」


「よし!!じゃあ一人決まり、今からはほかのやつにも声かけてくるわ!!」


 翔は勢いよく教室へ出ていく。その勢いは高校生にしてはやや急いでいるように見えて幼く見えてしまう。彼は彼で気配りや落ち着きのある性格ではあるが、興味があることに突っ走る気性がる。そこが彼の彼たる所以であり、人気者である要因であろうと思う。




 そして学校侵入決行前に、僕たちは学校の前へと集まった。今は午前2時、朝の忙しなさや昼の喧噪、夕方の活気はなりを潜め、門の前を照らす街灯とそこにただ佇んでだけの校舎が見える。


 少し前までは車道に車も走っていたが今ではなりを潜め、この世界は僕だけになってしまったように感じる。僕はオカルトというのはこの静寂と一人残されたという錯覚からくる恐怖や不安、眠気からくる注意の散漫さからくるものだ、と思うのだ。


 人間というものは基本的に群れで暮らしている。群れというのはテレビで見る動物の群れではなく、友達や親と他愛ない話をすることや物を買うとき店員と話すとき、インターネット上の会話、僕の生活には他人との関わりが絶対に必要になってくる。これを群れというのだ。


 だが、みんなと同じことをして楽しいのだろうか、と時々思う。夜特有である町の静寂は自分だけの世界に浸るような感覚を覚え、いつもとは違う感覚を味わえる。それでも、街灯の明かりからは優しさを感じることが出来るし、マンションや一軒家を見ると生活の色が感じられる。普段とは違う異質な世界。ようは、僕にとって異世界なのだここは。


 幽霊やUMAなんて人間の未知の存在は僕に興奮とみんなとは違う異質感を感じられる。みんなはこことは違う世界に行き、魔法を使って魔物を倒してみたいと思ったことがないだろうか。僕はみんなが想像するような願望の代わりにこの静寂からくる暗闇の異世界とオカルトという未知に願望や想像を向けているのだ。


「お、たつみ早かったな。」


 声をかけられて振り向くと私服姿の翔(かける)だった。制服姿とは違い、色の明るいパーカーを着ており、活発な彼らしさが出ている。ただ…これから学校侵入をするのに明るい色を選ぶのはどうなんだろうかと思う。


 後ろにはオカルト同好会の西田ミクルが居た。彼は別にハーフではなく大阪生まれの大阪育ちで標準的な日本人の顔立ちだったが両親がミラクルから名前を付けたため、名前だけ外国人のようになってしまい小学生の時にいじりに合っていたらしい。ミクルがいうには大阪では面白いやつがクラスの人気者であり、バラエティー番組のような容姿をいじる、名前をいじることは日常茶飯事だったらしい。


 いじられること自体人気者の証として何ともなかったらしいがそれが何年も続くと鬱陶しくなって父親の転勤とともにこちらへ越してきたと言っていた。


「たつみ、いっつも早いよな。待たせて申し訳ないわ。いや~この前も早かったしいつからおるんや?毎回待たせると申し訳なくてな。あ、チャリその辺に置いとくからちょっと待ってな。」


 ミクルは普段はあまり話さないが話そうと思えば関西弁でどんどん言葉が出てくる、これは大阪の血やねん、といっていたが本当にそうなのだろうか?


「ああ、そんな待ってないから気にしないでもいいよ。僕は夜の雰囲気が好きだかね。」


「おおっそっか、そっか、まあ僕もわからんではないな。同じオカルト同好会所属してるしそういう闇~とか厨二っぽいけどわかる気がするわ。あ、これはネットの話なんやけどネットつこうてるやつはふいんきって漢字変換できんくてな。」


 ミクルが自転車を置くと、三人で校門前に立つ。学校というものは側面こそ高いフェンスで守られているがよりにもよって、校門が一番低く入りやすい。その分監視カメラはあるが。

 順番で校門をよじ登り、校舎の中に入っていく。


「おお!これは結構いい感じの雰囲気だな!!」


「せやな、結構ええ感じや、こりゃ出るって感じビンビンやね。」


 目を輝かせている二人をよそに校舎の中を見る。

 学校の一つの特徴である長い廊下は普段の明るさを消し、廊下の奥にある壁が見えないせいで無限の闇の中に引き込まれたと錯覚される。教室の扉にある大きな窓から見える教室は椅子と机しかないせいか生活から切り離された空間という異質さを感じる。


「教室や廊下から何か出てきても反応できそうにないな!!」


「せやなぁ、正直学校なめてたわ行くとこの目星つけてるん?」


 確かにそうなのだ。普段明るい時にしか学校へ来ないものだからわからなかったが、明かりのついていない校舎は四方を闇に囲まれた空間でかつ廊下や教室など人が通れる死角がたくさんある状態になっている。


 まあ、学校というのは大半がなんの変哲もない教室であり、どこに行くかというのはある程度予想できる。それでこそ、学校の七不思議を参考にしてもらえればわかるが音楽室のベートーヴェンなど特別な教室やトイレの花子さんなどで、普段使っている教室が対象になったことはない。


「ん~、メインディッシュは最後にしたくて、先に4階の音楽室、3階の理科室、2階はほとんど教室とか多目的室しかないからスルーして最後に校長室に行こうかなって思っているぞ。」


「じゃあ、学校の定番七不思議から回っていくという感じだね。」


僕たち三人はスマホのライト機能を使い、校舎を進んでいく。


「ちょっと学校なめてたなぁ、勝手知ったる学校だしスマホのライトでええかって思ってたけどこれじゃ全然効かんわ。」


 そうなのだ。スマホのライト機能は確かに便利だが夜中に懐中電灯の替わりになるかといえば光量が足りない。学校は施設のなかだからと懐中電灯をもって来ていなかったが廊下の長さと窓が多く、光が周辺にばらけるので足元しか照らせないのだ。


 三人で足元を照らしながら音楽室へ着いた。普段なら二分もなしに着けるはずであるのにかれこれ10分もかかってしまった。ここまでくると勝手知ったる道であったとしても目的地に着くだけでも達成感が湧いてくるものだ。


「ようやくここまで来たな、普段すぐこれるに時間をかけると少し達成感あるな。」


「せやなぁ、翔、音楽室鍵とか持ってるんか?」


「いや?そんなことしたら窃盗じゃんか。不法侵入なら興味本位とかで見逃してくれるかもしれないけど、さすがにそんなことしたらもう情状酌量の余地もないからやってないぞ。」


 鍵がないので扉の窓を利用して中を覗いていく。最上階だけあり、月の光が差し込んでいて薄暗くはあるが見えないことがない。


 中には音楽室特有の椅子と机が並んでおり、右端にピアノがあるのが見える。肖像画はベートーヴェンを始め三人確認できたのでスマホのライトを当てて観察する。光量が足りないせいか肖像画ははっきり見えることはなかったがそれはそれで、怪談で顔だけライトを当てているような怖さがあった。まあ、怪談とか顔にライトを当てることを頻繁にやってきた僕らにとって興味を引くほどのものではなかったが。


「なんか拍子抜けだったな。次は理科準備室っていう話だったけど、鍵かかってるんなら入れなくないか?あそこ理科室の奥にあったと思うんだけど。」


「あっ!!そうれもそうだったな。ちょっと様子だけ見て最後のとこ行こう。」


 こうして僕たちは階段を下がり、理科室へやってきた。鍵を持っていないため中を覗くことしかできなかった。何となくわかっていたと思うが最上階と違って光が差し込みにくいため、いくら頑張って教室の中を見ても、暗闇の中に机が薄っすら見えるだけで特に何があるかわからない。


「全然あかんやん、最後にかけるしかないかぁ。翔だけに。」


ズル……ズル……


 三人で二階に下がっているときだった。多くの人はわかるだろうが学校に引きずるような音が出る動作はあまりしない。わかりやすく異常であると伝えてくる。


 オカルトスポットは廃墟や人のいない所が多いため、音はよく響く。たとえば、自分たちの足音であったり床が軋む音、物が落ちてきた音だったりする。人が住まなくなった家は急に老化が始まると言われているが人が入った廃墟は生き返り脈動を打つ。それがまた僕たちに恐怖を与え非現実感を、恐怖を、掻き立ててくれる。


 流石に音のする方向がどこからくるのかわかるほど僕たちは野性児ではないので最後の目標である、校長室へ向かうこととなった。


「おい、翔。これは最後にしておいてよかったな。」


「ほんまやで、まさかドアがこんなバーっと開いとると思わんかったわ。」


 そう、校長室の扉が開いているのだ。テスト用紙や成績など生徒に知られてはいない、というような外部に知られてはいけない書類があるであろう校長室が開いているのだ。音楽室や理科室が開いていなかったことを考えると鍵をかけ忘れたということは通用しにくい。やはり、普段あり得な状況に陥るとオカルト好きにはたまらなく感じる。


「翔、これ、疲れが取れないっていう噂の元ネタがこの中にあるんじゃないか?」


「なんだよたつみ、お前もしかして校長室に悪魔やらサキュバスやらがいてみんなの生気を吸い取ってるとでも言いたいのか?」


「ああ、その方がロマンがあるだろ?」


「間違いねぇな。」


 流石のオカルト好きである。非現実で非科学的な状況がとても大好きな人達なのだ。


「くっちゃべってないではよ入ろうや。」


 ただ、扉が開いているだけでなんとも魅了されることだろう。これは僕たちの未知への渇望か中にある物の魅力が漏れているのかわからないがミクルは中に入りたくてたまらないといった雰囲気を醸し出している。もちろん翔や僕もまた、その魅了に取りつかれている。


「じゃあ、中に入るぞ。」


 翔を先頭に校長室の中に入っていく。


 校長室は想像していた通り、応対用であろう高さの低いテーブルとその左右を囲んでいるソファがあり、壁には歴代の校長の写真が並んでいる。一番目を引くのは一番奥にある大きい机だろう。普段校長先生が使うために設置された机は中央から人二人分中央からずれており、元あったであろう場所から下へ向かう階段が露わになっている。近くには地下室の存在を隠していたであろう床のタイルが置かれていた。


「おい、これはやべぇんじゃないか!!」


「しっ、下に人がいたらどうするんだ。」


 予想もできなかった事態に思わず声を出してしまう翔。タイルを外してあるということはつまり開けた人がいるわけで近くに人がいるかもしれない。幸い、気付かなかったのか別のところにいるのか駆けつけて来ることはなかったが。


 階段に近づいてみる。階段は手すりがなく、コンクリートで周りを固められておりひんやりとした冷気が下から流れてくる。人一人が余裕をもって入ることができる広さではあるが二人が入るには少し狭い。段差が揃ってなく、どことなく急ごしらえ感がある。


「中に入ってみるか?」


 翔の言葉にうなずき、翔を先頭に下って行く。下がっていくごとに寒気と埃がまとわりついてくる感覚が増してくる。


 地下一階に着くとそこは小さな部屋だった。部屋には電球が妖しく光っており、学校で昔使っていたであろう傷だらけの机と椅子があり、その上には一冊のノートが置いてある。正面には木製のドアがあり、さびてしまったのかドアノブは赤黒く変色している。


「僕はこのノートを見てみたいと思うが二人はどうする?」


「せやなぁ、ノートを見るのに時間がかかるやろ?そんなら先行ってみたいなぁ。」


「俺も同じだな!!先に行ってみたい!!」


 こうして、僕はノートを翔とミクルは先へ進むことになった。


 僕はノートを手に取る。ノートはどこにでも売ってある大学ノートで、表面上は何の変哲のないノートだ。中を開けてみると、日記にしているようで日付と何をしたかが書かれてある。書いた人間は教師のようで今日は誰々くんが何のことについて聞いてきたなど、真面目な先生だったことがわかる。


「「うわああああああああああああああ!!」」


ぐぎゃ



 二人の悲鳴とともに聞いたことの無いような音が聞こえてくる。それは、厚い肉を貫いたようで...


 二人が行ったドアの方を見る。二人は棒立ちになっており、手が脱力しているように見える。違う、そんなことを言いたいのではない。二人は立っている。そうじゃない。二人の背中から触手のような肉塊が突き出ているのだ。即死、その言葉が頭によぎる。


 ドアの奥を見る。そこには不定形に蠢いている肌色の物体がいる。人間の脳に似たものが肥大化し露出しており、そこから大きな両目がこちらを見つめている。二人の腰の間から見える口のようなものは人を丸ごと飲み込めるように大きく開いており、そして二人を頭から捕食し始める。


 ここでようやく正気に戻り、目の前の化け物が現実なものだと認識する。恐怖で笑っている足を無理やり動かしながら階段を上がる。これまで、階段を上がることに苦労したことがなかったが手すりがなく段差がまばらな階段は時間をかけるのに十分な要因だった。


 やがて一階につき校長室へ戻ってきた。恐怖からか五感がさえわたっていたのだろう、廊下から誰かの足音が聞こえてくる、走っているようでこちらに急速に近づいてくる。下からは例の化け物がゆっくりと、しかし、確実に上がってきている音が聞こえてくる。


 扉から出ると走ってきている人物に出会ってしまうと考え、窓を近くにおいてあったトロフィー(たぶん部活で表彰されるものだろう)を使い窓を割って外に出た。


「まちたまえきみぃ!!」


 最後に振り返ってみた光景は鬼のような形相で走ってくる校長先生とただこちらを見つめてくる化け物の重なった姿だった。






 昨日深夜、不思議な100当番通報の連絡があった。内容は若い男の人が高校で....死んだ.....と連続で呟いているとのこと。電話にでた人が何とか居場所を突き止めた結果、私が勤務している交番が近かったので先輩と二人で急行することに。


 そこには涙を流しながらうずくまっている少年がいた。近くにはさっきまで使っていたであろう自転車が横倒しになっており、足や手から出血していることが確認できた。先輩が話しかけ、私が応急手当と救急車を呼ぶことに、警察が来たことで安心したのか自分の高校で友達が化け物に殺されたとの旨を発言してきた。少年の証言から紫ヶ丘高校と特定、あまりにも必死な形相だったため、そちらに応援をよこすように連絡した。


 少年は救急車に運ばれていく前、私に一冊のノートを渡してきた。



 朝のテレビを見る、この事件は高校生2人の死亡、警察官4人の死亡、計六人を殺害した紫ヶ丘高校校長の死亡という形で幕を閉じた。犯人の校長は4月に妻と子供をなくしており、その喪失感から自暴自棄なった結果、このような暴挙になったと報道された。


 しかし、私はそうは思わない。理由は少年の渡されたノートに書いてあった。そのノートはすぐに警視庁に押収され、私と先輩は直接来た公安のトップと名乗る人物にこのノートは見なかったことにしてくれ、と釘を刺されたからだ。





公安報告書の一部

 この事件に関する重要証拠として押収されたノートである。これは事件の犯人である皆崎下みなさきした修平しゅうへいの日記である。通報者である久野森くのもりたつみが所持しており、回収した警察官に渡ったという経緯がある。


 事件にいたるまでの過程が書かれており、我々としても重要な情報となるため、内容を一部抜粋する。


押収されたノート(一部抜粋)

20XX年04月04日

 妻と娘が死んだ。交通事故だったらしい、犯人は現行犯で逮捕されたことが唯一の救いか...。


20XX年04月08日

 新しい生徒が学校へ入ってきた。新たな制服を身に着け、新生活に期待と不安を膨らませる姿はなくなった娘と重なって辛いものがある。せめて娘さえいれば...。


20XX年05月24日

 今日ある男がやってきて人を生き返らせることが出来ると話を持ち掛けられた。人をよみがえらせるとは思えないが不思議と説得力があった。

 どうやらたくさんの精気?とそれを器とする肉体がいるという。精気は学校の生徒から少しずつ吸い取っていけば必要な量はすぐにたまるという。


20XX年6月14日

 あの言葉が忘れなかった私は男へ連絡した。男はどこから手配したのか作業員をよこし、校長室に地下室を作ってしまった。手前の部屋は作業部屋で、奥の部屋が蘇らせるための部屋らしい。奥の部屋には良くわからない幾何学模様の円陣があり、アニメやドラマでみるような魔法陣?の様子を呈している。


20XX年7月14日

 あれから1ヶ月がたった。精気はどんどん膨れ上がり、そろそろ数値に達し始めている。そろそろ器の用意が必要だろう。


20XX年7月19日

 器を確保した。精気も十分あるが満を持して失敗しないように吸いとる量を増やそう。なに、あと6日もすれば夏休みに入るし夏バテだと思われるだろう。


20XX年7月22日

 成功した。



 この日記に書かれている器は回収された化け物の死体から紫ヶ丘高校に勤務していた警備員の幕下まくのした十造(じゅうぞう当時70歳)のDNAが検出されている。幕下氏は07月19日を境に姿を消しており、器として殺害されたという線が濃厚になっている。


 また、この事件を誘導した男は所在が知れておらず、学校と学校の周り監視カメラにもその姿が確認されなかった。男が用意した作業員の足取りも掴めない事から、同様の事件が続くと予想されている。


この日記は怪異及びそれに並ぶ特殊資料として宮内庁にて保管することを進める。


                     公安特殊事例対策本部

                       木霊こだま 昇楽しょうらく

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学校の怪談には地下室がある 嘉矢獅子 カヤ @megarashi

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