第17話 やぐら

「やぐらを壊す……!?」


 何故やぐらを壊せばここから出られるのか、皆目見当もつかない。むしろ壊すことで、この周りの人達を刺激するのではないか?

 僕が説明を求めるも、少年もやぐらを壊せば元の世界に戻れる理由までは知らないのか、口に手を当てて考えた挙げ句、とにかく壊せば出られるの一点張りだ。

 いまいち釈然としないが、他に思いつく案もない。


「やるだけやってみるか……?」

袖をまくりはじめた僕に、「でも、先生」と内村が声を上げた。

「やぐらってどう壊すんです?私達だけでは壊せないですよ」

内村の意見ももっともだ。

僕達はマッチョ集団ではなく、作家と編集だ。対して青年は動けるが、やぐらを壊せるほど屈強ではない。

強いて言えば、青年が肩にかけている刀が使えそうだが。


「――いやまて、そういえば君、なんで刀を持っているんだ。警察に押収されてなかったか」


このようなトンチキな状況だ、僕も記憶が混乱していた。そうだ、彼の刀は警察に押収されたと鹿紫雲が言っていたではないか。

青年は突然の質問に困惑しており、刀と僕を見比べて狼狽えている。 

緊迫した状況の中、少年がスッと刀を指さす。


「お兄ちゃん、その刀でやぐらを壊すんだよ」


「は、刀で!?」

いや確かに、さっきまでは僕も刀を使えば……と考えていたが。実際そんな案を出されると無理だろと思ってしまう。

そもそも刀でやぐらって切れるのか?刃毀れしないのか?


動揺する僕を気にもとめず、少年は青年に語りかける。


「できるでしょ?」


青年は渋々といった感じで、雁字搦めに留めてあった紐を解きはじめた。

冗談だと思っていたが、どうやら本当に青年はやぐらを刀で切るつもりらしい。

ズズズ……と小さく鈍い音を立てながら、鞘から取り出した。


――改めて見ても、妙な刀だと思う。

錆びているにしては表面の凹凸が少なく、何も反射しない。それをずっと見ていると、飲み込まれるような錯覚に陥る。


青年はちらりと僕や少年を見つつ、刀を勢いよく振り下ろした。


刀がやぐらに当たった瞬間、キーーンと甲高い耳鳴りとともに激しいめまいに襲われた。


「うわっ……!?」


耳を押さえながらうずくまる。視界の端に映った少年の声が、耳鳴りに紛れて確かに聞こえた。


「ありがとう……これ、マコトに渡しといて――」






―――――――――――――――――――――――――

「おい、アンタたち大丈夫か!?」


 人のざわめき声で目を覚ます。辺りを見回すと、そこは待ち望んだ元の世界――盆踊りのない神社だった。

 どうやら僕達は境内に突然現れたらしい。



「タツヒコ!!!」


遠くからタツヒコ君のお母さんと数名の男女が走って来る。周りにいるのはタツヒコ君の親戚だろうか。


「無事か、タツヒコ!」


そのうちの一人、老人は母親と同じぐらい目に涙を浮かべ、タツヒコ君に駆け寄った。  

「お母さん!おじいちゃん!」

タツヒコ君は僕たちといる時も、まだ気を張っていたのだろう、再び大粒の涙を流し、家族に抱きついていた。



その光景を、内村と僕はぼんやりと見ていた。タツヒコ君が無事で何よりだ。

「良かったですね」

僕が思わず口に出してしまった言葉に、内村も反応する。

「はい……本当に。あれ、ところであの少年は?」

「え?あれ?」

あたりを見回すと、青年は近くにいたものの、やぐらを壊せと言った少年はいない。かわりに久崎の手には少年がつけていたお面があった。

(なんだこれ……?)


「あの、ありがとうございます!本当に!」


タツヒコ君の母親とその親戚――祖父達が一斉に僕たちの元へ頭を下げた。


「いえいえ、僕たちは何も。――もう一人少年がいて、その子が色々助けてくれたんですけど」


僕が話し始めると、タツヒコ君の親戚達は熱心に耳を傾けていたが、祖父だけは僕ではなく僕の手元にあるお面を見つめている。


「?どうかされました?」


「いや、そのお面……どこかでと思って」

老人は口に手をあてて考えている。

――その仕草が、どうも少年と重なった。


「あの、すみません。変なことを聞きますが、下のお名前って」


「私かい?マコトだが……」


あぁ、だからか。


「これ、少年から貰ったんです。――あなたに渡してくれって」


「あぁ、思い出した……これは、弟の……ひろしがこの祭りで付けていた……」


老人は泣き崩れた。

やっと帰ってきた弟の形見を握りしめて。

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凡才作家と不審な青年~怪異を添えて~ 笹倉亮 @samanoginngamiyaki

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