ユニークスキル雑草マスターで回復無双 ~どんな草もHPポーションにする最強錬金術師~
滝川 海老郎
1.固有スキル雑草マスター
俺はいわゆるユニークスキル「雑草マスター」という称号を持っている。
これは何かというと、どんな雑草からでも薬成分を抽出して、ポーションにしてしまうとんでもないスキルなのだ。
王都に生まれて幾星霜。今年で十六になる。
「ジェネ君、今日もご苦労さん」
「あいよ」
ここガリード薬品店に「雑草ジュース」を納品する。
雑草ジュースというのは、低級ヒーリングポーションの代用品だ。
普通は選別した特定の雑草、実際のところ「低級薬草」を煮詰めたものになる。
俺の場合、選別しなくても雑草なら何でもいい。
そして売り上げ、一番数が出る。
「ジェネの雑草ジュースは妙に品質良くて、みんなに評判なんだ。助かるよ」
「まあ俺はこれしかできないからな、ガリードさん」
「まいど、また明日」
雑草ジュースは消費期限が短い。
これは普通のポーションなら当然入れる安定剤が入っていないからだ。
安定剤は値段がけっこうする。
ポーションは選ばれた「薬草」と分類される草だけで作られる。
ここ王都周辺の平原にも生えているが、採取されまくった結果、数がかなり少ない。
見つけるのにもコストがかかる。
そのため現在は他都市からの輸入に頼っているが輸入には当然輸送費が掛かる。
薬草の栽培はあまりうまくいっていない。薬効成分が安定しないだの、成長が悪いだの、そもそも王都内ではあまり農地用の土地が余っていない。
王宮の薬草園と野菜畑はあるがあれは例外と言っていい。
結果として、正規の「ヒーリングポーション」はそういうお値段になるというわけ。
雑草ジュースはそんな庶民の味方なのだ。
簡単な怪我、風邪や微熱ぐらいの体調不良にはこの雑草ジュースが欠かせない。
俺が店から出ようとしたところで、入れ替わりの小柄な少女とぶつかってしまった。
少女はよくある白いワンピースに白いフードをかぶっている。
「あっ、ご、ごめんなさい。ごほ、ごほごほごほ」
「いえ、こちらこそ、すみません」
すかさず俺も謝ったが、彼女は体調が悪そうだ。
「風邪なのでしょうか、体調が悪くて……」
「ちょっと失礼。あっ、すごい熱、これ、雑草ジュースなんかじゃ」
「でも、お金がなくて」
彼女のおでこに手を当ててみると、熱がすごい。
こんな高熱ではふらふらしてしまうのもしょうがない。
「あーご愁傷様、それ、雑草ジュースじゃダメだよ。ポーションもあるけど、買うかい? 金貨一枚、これぽっきりだけど」
「いえ、すみません」
店主が心配そうにポーションを提案してくる。
顔を青くしている彼女は頭を下げて、戻ろうとしている。
しかし、こんなに調子悪くて、肺炎にでもなったら死んでしまうかもしれない。
「おい、お嬢さん、俺んち、こいよ」
「えっ」
「この近くだから」
「あ、あの……男の人の家なんて」
「そういう意味じゃないよ。特別製の雑草ポーション、あるんだ」
「そうなのですか?」
「おお、正確には家に帰ったらすぐ作るから」
「うっ……」
今にも倒れてしまいそうだ。
どこにあるかは知らないが彼女の家まですでに持ちそうにない。
ふらつく彼女を支えながら、俺の家に戻る。
近くてよかった。
この薬品店に卸しているのも、家が近いからという理由が大きい。
「ありがとう、ございます」
「いや、礼は治ってからにしてくれ」
家についた。
ドアを開けて中に入る。
俺んちには大量の干した雑草のストックがあった。
そして雑草から仕分けした、ちょっとだけ薬効が高い通称「上級雑草」が隅に数束置かれている。
普通は「低級薬草」と呼ぶが、まあ俺はこれも雑草だと思う。
薬ビン、錬金道具を並べて、干した雑草を井戸水を沸騰させて煮てできた「雑草水」に向かう。
「錬金! 雑草マスター!」
俺がそれを唱えると、ただの雑草水がにわかに光って、成分が分離する。
この上澄みの液体が「濃い雑草水」つまり「上級雑草ジュース」ということになる。
俺は棚から持ってきた、リンゴジュースと割って飲みやすいリンゴ上級雑草ジュースを渡す。
「ほら、できた」
「あり、がと……」
「礼なんていいから、ほら、飲んで」
「んくっ、んくっんくっ」
彼女が俺の「ポーション」を飲んでいく。
ここまで品質が上がっていれば、事実上はポーションに等しい。
ただしポーションと呼ぶには、安定剤の件とそれから「税金」を払っていない。
この国のポーションには一本あたり、一割の消費税がかかっている。
最終消費者は業者から買うときに、税金を払わなければならない。
そしてそれは無料でも課税対象で金貨一枚相当として勘定されるので、本当なら銀貨一枚を納付する義務がある。
ただし無料の場合の例外の制度は存在していても形骸化していて、実際には納税は機能していない。
まあとにかく上級雑草ジュースの脱法ポーションは俺だけが作れる秘蔵品なので、薬品店にも卸していないのだ。
だたこういう緊急事態には、秘匿しつつも作って飲ませている。
詳しく説明しなければ分かるまい。
「美味しい、ですね。ありがとうございます。なんだか眠くなって……」
俺の部屋はワンルームなので、すぐにベッドがある。
彼女は微かな意識の中で、なんとか俺のベッドに向かい、そして寝てしまった。
「あーあ、俺のベッド。まあいいか」
ベッドに横になった拍子にフードが取れてしまっていた。
薄いワンピースは体のラインを浮かび上がらせていて、目に毒だ。
ふわっふわのロングヘア。
ピンクゴールドと言われる、わずかにピンク色を含んだ金髪。
めっちゃくちゃ美少女が頬を赤くして寝ている。
わずかに唇が開いていて、その唇もピンク色で、なんだか艶めかしい。
胸はいうほどないけど、無乳ではない。
確かに女の子だと分かる膨らみがある。
細い腰、丸く膨らんだお尻のライン。
細い手足。白い肌。
「うわぁ」
俺はどうすることもできず、もう一本、上級雑草ジュースを無心で作った。
俺のベッドで布団も掛けずに、美少女が無防備に寝ている。
俺は椅子に座って途方に暮れる。
彼女はすやすやと寝続けて、夜になるまで目を覚まさなかった。
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こんにちは。こんばんは。
【ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門】参加作品です。
他にも何作か参加していますので、もしご興味あれば覗いてみてください。
よろしくお願いします。
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