3.二人だけの朝
「おはよう、えっとお姫様」
「おはようございます。ジェネさん」
ベッドから起き上がる。そしてベッドから降りる。
するとすぐに顔を赤くしたお姫様がモジモジしだす。
「私ったら、男の人と同じベッドで寝て、それから気持ちよかったです。うわぁ、これ、こんなの、破廉恥ですよね。女の子のしていいことじゃないですっ。どうしよう私、とんでもないことしたんじゃ」
「いや、それ全部意味違うし。誤解を招く表現しないでくれよ。他人に説明するときも、今の調子で説明したら百パー誤解するからな、頼んだよ」
「え、なんでですか、よく分からないです」
なんなんだ。
男女でベッドですることってのを知らないのか。
それともカマトトか。な、カマトトなんだろ。
あれ、実は貧乏だけど本当にお姫様クラスなのか。
実はすげえ訳アリでヤバい案件に俺、首を突っ込んでないよな。
首が嵌まって抜けなくなったらどうしてくれる。
「まあいいや。朝ご飯にするから、そうだな、水汲みしてもらってもいいですか?」
「もちろんです。水汲みなんてはじめてです」
「おいおい」
水汲みすらしたことないとか、マジなのか。
彼女ちょっとおかしいのでは。
なんか危険メーターがビンビンに反応しているんだけど。
ちょっと井戸の使い方とかレクチャーして教える。
「うんしょ、うんしょ」
持ち手のついた桶で近所の共同井戸から水を汲んできてくれる。
独り暮らしだしそこまで大型ではないので、彼女でも大丈夫そうだ。
そうして台所スペースの水瓶に投入していく。
水瓶のほうは大きめなので、何往復か必要だ。
「それじゃあ先に、はいこれ、普通のだけど雑草ジュース」
「ありがとうございます」
ごくごくと彼女は一気に飲む。
昨日のものと比べたら効果は圧倒的に低いが、病み上がりだし念のため。
これは俺のストック用。いつも三本だけストックが家にはある。
後で今日の販売分に回して、また今日作ったものを新ストックにする。
俺は朝ご飯の用意だ。
今朝は麦粉の薄焼きパン。これは無発酵パンの一種で自家製で今焼いた。
それから新鮮雑草のサラダ。これは裏庭に生えている雑草のうち食べられるもの。
二切れのチーズと謎肉の干肉だ。これは有料。プライスレスではないが、女の子がきたので奮発した。
「「いただきます」」
二人で仲良く手を合わせて挨拶する。
こうしてみると新婚さんや彼女ができたみたいな気分になって、すごくドキドキする。
こんな天使みたいな美少女が俺の彼女とか、王都中をパレードして自慢したい。
こういうふとしたときに見れる笑顔がめちゃくちゃかわいいのだ。
彼女は夢中で食べている。
ただのパンと雑草だが、これのどこがそんなに美味しいのか。
薄焼きパンにはスイートハーブという薄甘い葉っぱを練りこんであるので、ちょっとだけ甘い。
これがそこそこ美味しいといえば美味しいが、素人仕事に他ならない。
白パンに砂糖たっぷりのジャムをこれでもかとつけたほうが美味しいに決まっている。
もっとも話でしか聞いたことがないが。
「ふふっ、こんなに食事って楽しかったんですね」
「えっ?」
「好きな人と一緒に、ご飯を食べるのが、こんなに幸せなんて」
「好きって俺のこと?」
「えっ、ごほ、ごほごほ、いえ、なんでもない、です」
しおらしくなって、しゅんとしている。
なんなのか、ちょっと恥ずかしそうに視線を泳がす。
それから姿勢を正して真面目顔になって俺をまっすぐ見つめる。
「私を窮地から救ってくれました。美味しいご飯も作ってくれます。端的に言えば、好ましい人です」
「そっか」
「はい」
邪気のないまぶしすぎるくらいの笑顔を浮かべてくれる。
かわいい。
まったくいつもどんな仏頂面の人と、もしくは一人でご飯を食べているんだか。
「いつもは誰と食べているの?」
「父と、いえ、思い返せば、忙しくて、ほとんど、一人ですね」
「そっか」
「はい」
一人でご飯か。親も忙しくしていて、一緒ではないと。なんだかな。
俺の場合はもう一人立ちしたのでノーカンだけど。
彼女何歳くらいかな。容姿は全体的に幼げだけど、実際には俺と同じくらいに見える。
服装は別に特徴のない白いワンピースだ。
生地は普通のよりすべすべでよさそうだけど、あれ、よく見ると実は高級品かもしれない。
高級品を見る目がないので分からない。
「俺、これから雑草水作って雑草ジュースにして売るんだけど、どうする?」
「私ですか、そうですね。少し興味が出てきました。今日一日は見学してもいいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
こうして俺たちは朝ご飯を片付けた後、日課の雑草ジュースを作る作業をする。
簡単だ。
干した雑草の束を適当にお湯にぶち込んで煮て雑草水にした後『雑草マスター』というレアスキルで成分を分離して雑草ジュースにする。
普通は低級薬草を煮て作るので、作り方は俺独特といえる。
「これが錬金術」
「まあね」
「はじめてみました。興味深いです」
「あぁ雑草マスターはレアスキルというかユニークスキル級で他の人は持ってないなんだ」
「え、ちょっと待って、それ、実はすごいのではないですか?」
「そうだよ」
俺は鼻をほじる真似をして、ふふんっとドヤァと態とおどけてみる。
「ふふふ、そういうこともするんですね。面白いです」
「そうか」
「はい」
くそ真面目な顔で面白いです。とは面白いのだろうか。
彼女がそういうのでそうなのだろう。
「そうだった。それでお姫様。お名前は?」
「え、私の名前、知らないんですか?」
「聞いてないし」
「そういう意味ではありません」
「そうか?」
「はい。私はエスターシア・アリア・エルイドですよ?」
「は?」
「エスターシア・アリア・エルイド、です」
「は? はい?」
「だからエスターシア」
「聞き取れないわけじゃないよ。頭が追い付かないだけでエルイド様だって? それってマジのほうのお姫様ってことじゃん」
「昨日から私のことお姫様って呼んでいたので、てっきりご存知かと」
「知らないよ。いや、知ってるけど、そういえばこんな顔だった。こんな近くで見たことないから」
「そうですか?」
「そうだよ。そういえばピンクゴールドって言えば王家って決まってるんじゃんか、俺なんで気が付かないんだ」
「そうですね。王家特有なんです。なんでも魔法の力が影響しているとかで」
この国はエルイド王国。
つまり姫様は本当に姫様なのだ。
それでもってパレードとかで顔も見たことがある。
いやでもまさか目の前にきて俺の彼女にとか妄想していた美少女がマジモンだと思わないわけで。
「私今、王宮から離れてこの近くに住んでまして」
「そうだったのか」
「はい」
あ、やべ。お姫様に外泊させて泊めてしまった。
「あああ、やべやべ。お姫様と夜を過ごしたとか俺死刑じゃね」
「さすがに死刑にはならないんじゃないかと」
「いーや、不敬罪でしょ。強姦罪かもしれないけど」
「一緒のベッドで寝ただけなのに」
「その表現、ぜったい他でしちゃだめだからな!」
「なんでですか。一緒のベッドに寝たじゃないですか。気持ちよかったです」
「だめだああああ」
なんでこれだけ通じないの。どうちて。
俺何も悪くない。俺は、何も、悪くない!!
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