8.姫様の再来

 噂の姫様のお相手は誰か。


「まさかなぁ俺じゃないだろうな。一晩出歩いてこりゃいかんと急遽きゅうきょ決まったんだろうな」


 と思っていたのだが。


 トントン。


 納品を終えて家でくつろいでいた俺の家に来客だ。


「ジェネさん、いますか? エスターシアです」

「はあああ? 婚約したんじゃ」

「そうですよ。この前、儀式をしたじゃないですか」

「俺かよおおお」


 え、俺がその婚約者なの?


「正確には加護ですけど」

「だよな」


 ドア越しでするような話じゃない。家に入れる。


 護衛の女性の騎士が三名一緒に入ってくる。

 さすがにあの騒動の後で単独行動なんてさせないか。

 この前の捜索隊は男性中心だったけど、側近の近衛騎士は女性なんだ。


「ということで、今日からお世話になります。ご主人様」

「えっ、俺がご主人様なの? 俺が下僕じゃないの?」

「そんな勘違いしていたんですか。パスがつながっているの分かりますか?」

「分かる、分かるから、俺のほうが召使かと思ってたんだが」

「逆ですよ。ご主人様、私の隷属契約なんです……」

「はああ、隷属契約なの?」

「はい。拘束力は一番弱いんですけど、確かに隷属契約です」

「うぉおおん」


 俺、待ったなし。

 俺がご主人様。彼女はお姫様。

 こりゃ参った。


「本当に?」

「いえ、そういう古い言い伝えで」

「うぉい」


 でもこの距離で強く感じるパスは本物だ。

 この魔力的なつながりは当人にしか感じないのだろうが、感じないからこそ「本当」だと分かる。


「本当に効果があるとは私も思わなくて、でも感じちゃうんです」


 なんか女の子が感じちゃうとか言うのはあまりよろしくないのでは。

 ほら護衛の騎士の女の子も顔を少し赤くして興味津々じゃないか。

 まったくけしからんな。


 とにかく、なんだか釈然としないけれど、俺のところに姫様が居付くことになった。


 俺は普段通り雑草を煮詰めて雑草水を作り、雑草マスターによって成分を抽出、雑草ジュースを作り出す。


「何度見ても、不思議です」

「まあな」


 ユニークスキル級である雑草マスターはある意味ではすごいのだ。


 そうしてまたガリード薬品店に納品に行く。

 もちろん姫様もついてきた。


「こんにちは」

「こんにちは、って後ろ!」


 メルシーちゃんが目を剥いてびっくりしている。

 そりゃそうだろう。ピンクゴールドの髪といえば王家の印。

 メルシーちゃんだってそれくらいの教養はある。


「姫様、婚約したんじゃ」

「えへへ」

「えへへではありません。えっ、もしかして私のジェネと婚約したの? は?」


 メルシーちゃんはもう目が点になってしまった。

 いっぽう姫様は顔を赤くしてもじもじしている。

 そして手を俺に出して、つんつんしてくる。

 やめれ。


「まあ、なんというか、姫様は俺のことがお気に入りらしい。別に婚約はしていない」

「あ、そうなの!」


 メルシーちゃん急速に回復。

 そう、まだ厳密には婚約はしていない。厳密には。

 でもパスがつながっちゃってるんだよな。


「実は、ごにょごにょ、パスがつながってて」

「え、そういえば、私も」


 メルシーちゃんが今度は赤い顔をする。

 あれ、そういえば姫様ほどではないけれど、集中するとメルシーちゃんの存在感も前よりずっと大きい。


 あ、はい。これこの前儀式を模したキスしたせいでメルシーちゃんともパス、つながってますね。


「メルシーちゃんとも実はいろいろあって儀式、したんだ」

「へぇ、あ、私は別に一夫多妻でも、ごにょごにょ。ジェネさんのエッチ。そんないけません、街中で」


 姫様が寛容的なことを言ってくれるが、ごにょごにょと言ってまたモジモジしだす。

 ナニを想像しているんですかね。


 ということでどうやらメルシーちゃんも俺の嫁に立候補、そして一緒にお嫁さんになりましょうと仲良くしていた。

 よかったバッチバチだったらどうしようかと思った。


「私たち、契約者同士、仲良くしましょうね」

「はい、姫様。よろしくお願いします」

「このエッチなジェネさんを上手く誘導して射止めましょう。一日でも早く」

「そうですね、姫様、がんばりましょうなの!」


 おいおい。


「えいえいおーなの」

「えいえいおーです」


 俺をゲットする気まんまんじゃないか。

 なにが隷属契約なんだか。一応、分類的にはペットの契約と一緒なんだっけ。

 まあいいわ。

 俺たちはどちらもパスでつながっている。まぎれもない事実のようだ。


 複数契約しても大丈夫らしい。

 よく分からないけど、そういう決まりなので、問題ないと。


 うぉおおおお、俺の自由どこ。


 とにかくして、俺たちの生活がこうして始まるのだった。


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