10.雨後の後宮
翌日。
王都よりも上流でも雨が降ったらしく、川はやはり濁流になっていた。
なんとか王都まで流れ込んでいないのが幸いだが、橋の下は完全に水の中だった。
「やばかったな、ありがとう」
「ああ、こうなることを知ってるのは年長者だからな」
そうは言っても俺もまだ十六歳ではあるが。
小さい子に知らせるのは年長者の務めだ。
流れてしまったらと思ったらゾッとする。
「ああ、なんてこと」
エスターシア姫様もこれにはさすがに青い顔をしていた。
子供たちが流されてしまうところだったのだ。
「さすがジェネなの」
「まあ俺をおだてても何もないけどな、あはは」
心配したメルシーちゃんもついてきていた。
俺を挟んで左腕に姫様、右腕にメルシーちゃんとくっついていて少しうっとうしい。
まあ、なんだそのお胸が少し当たったりなんかしちゃったりしているようで、柔らかい感触がある。
気にしたら負けだ。ぽよんぽよん。
「王都の上流はけっこう広くてですね、水が引くまでに数日はかかりそうです」
姫様が悲しげにそう教えてくれた。
「でも、被害そのものはほとんどなかったようで、よかったです」
「ああ」
被害がないといっても、野宿しているような人たちは困っただろう。
もちろんそういう人もいる。
「そうだわ、しばらく王宮へ、ご招待しますわ。この前お約束しましたし」
「でも、姉ちゃん」
トーマスが心配そうに姫様を見上げる。
いっちょ前に姫様に配慮しているのがなんだかんだ言ってさすがリーダーだけはあった。
「いえ、心配無用です。私の権限で中へ入れますので」
「力強いことで」
「お任せくださいな」
なんだか姫様の目力がすごい。
キラキラしているので、お転婆なのかもしれない。
少しいたずらをしたい子供みたいでもあるが、やる気があるのはいいことだ。
姫様についてきている女騎士の子たちを
「それでは、この子たちを王宮へ。命令です」
「「はっ、姫様」」
そろって綺麗な敬礼をした。
美少女たちがこういうことをするとなんだかドキドキするな。
とても美しい。
「では、参りましょう」
姫様が声を掛けて歩き出す。
荷物を背負った子たちを連れて、みんなで王城へ並んで歩いていく。
途中の通りもなんのその、白いフードをかぶっている姫様は少しいいところのお嬢様くらいにしか見えない。
そのご一行様が最後の通りを抜けて、お城のお堀を通って王城前の正門に到着した。
もちろん職務に忠実は門兵は
「そこのご一行、止まりなさい」
姫様は素直に従った。
少し口角が上がっているのは、面白がって笑っているのだろう。
まったく人が悪い。
「どうも、ご苦労様です。エスターシアです」
「姫様、このような場所に!」
姫様がフードを下ろして顔を晒すとさすがの門兵がびっくりして頭を下げた。
「この人たちは私の客です」
「どうぞ、お通りください」
少し好奇の目をしてくるが俺たちを通してくれた。
「姫様、ワザとああやって正面玄関通りましたよね?」
「分かりましたか? うふふ」
今度ははっきり笑っていた。
まったくお騒がせな姫様だ。
そうして建物を何個か通り過ぎた後、後宮のほうへ入っていった。
「ここからは後宮ですからお気を付けください」
その姫の台詞にみんな緊張してくる。
何を気を付けたらいいかまったく見当がつかない。
礼儀作法だろうか。そんなもの生まれる前からこのかた存じていない。
王宮に入ってすぐにメイドに二、三言伝をしていたので支度をさせていたのだろう。
「どうぞこちらへ」
「ああ、お邪魔します」
「「「お邪魔します」」」
みんな俺に倣って同じように台詞を吐いて頭を下げる。
それがなんだかおかしい。
姫様もほんのり上品に笑っている。
これ絶対楽しんでるな。まったく。
進められるがまま豪華な椅子に座った。
すぐにお茶が配られる。
目の前にはお茶菓子のクッキー類が置かれていた。
「これ、食べてもいいんだよな?」
たまらずトーマスが聞いてきた。
「もちろんですとも」
姫様が答えて、みんなで顔を見合わせる。
どうやって食べたらいいか分からない。
いやまあフォークなどはないので手で持って食べていいのだろうけど。
俺がそっと右手でつかんで口に入れると、みんなもそろって同じように食べる。
「あは、あははは」
さすがに耐え切れなくなったのか、姫様が笑い出した。
「そんなにおかしい? いやおかしいよな、ああ」
「そうですね」
「しょうがないのっ」
メルシーちゃんが言い訳を口にするが一緒に笑っている。
こうして和やかなお茶会となった。
子供たちも楽しくお茶会をしたら緊張していたので疲れてしまったのか、客室へ連れられて行った。
今頃メイドさんに連れられてふかふかのベッドに寝かしつけられていると思う。
ユニークスキル雑草マスターで回復無双 ~どんな草もHPポーションにする最強錬金術師~ 滝川 海老郎 @syuribox
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